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142 二人が出発して(ヴェルゼーアの視点)

 私はポストに届いている手紙を確認して、見覚えのある文字を見つけた。


 近くにいるのだから手紙などにしないで、私の所に言いに来れば良い。

 言いに来るのが面倒というのなら、街の中でならいつでも連絡などせずとも会える。

 それをしない……イヤ、出来ないことは一つしか無い。


 とうとう旅立ったか。

 封も切らずとも、二人から届いた手紙の内容は判った。

 二人のことだから、あの箱に戻って来いと書いた手紙を入れれば、どこに居ようと帰って来るとは思う。

 それをしても、出発を少し遅らせるくらいにしかならない。

 私たちがとやかく言ったところで、二人の気持ちは変わらないだろう。


 レファピテルやビブラエスは騒ぐだろうか、それとも二人の旅立ちを見守るだろうかどっちだろう。

 まあ、少しは騒いでくれた方が、今回は良いのかも知れないな。


 でも、ケンカ別れの様な事態に成らなくて良かった。


 昼過ぎにビブラエスとレファピテルが私の家へやって来た。


「行ってしまいましたね」

「手紙だけとは、随分と水くさいな」

「ビブラエス。直接言われたら、素直に送り出したか」

「今はどこにも問題はないから、行って来いと言ったかも知れないな」

「そうですね。でも、私とビブラエスに別々の料理レシピを書いて渡したことは、二人ともここには帰る気持ちは無いのかも知れませんね」

「そうだな。私にはゼファーブルから薬の作り方も有ったぞ。帰るつもりなら、多少の薬を置いていけば良いから、そんなことはしないだろうな」


 レファピテルにも薬の作り方を書いたモノが有った。こっちは少しの毒についての説明も書いてあって、その解毒方法も有った。


 二人とも納得している様だ。

 いつ旅立ったかは分からないが、まだこの辺りに居るかも知れない。

 しかし、見付けてナニを言った処で、二人の気持ちが変わらないことも知っている様だ。


「人が増えて賑やかになりましたが、淋しくなりますね」

「そうだな、剣の練習もする相手が居なくなるしな」

「レファピテル。アークシュリラが書いていったこの料理はどうする」

「私たちが個人的に作るのはアークシュリラも望んで居ないでしょうから、材料がどこで売っているかを調べて定食屋にでもPRしますよ」

「そうだな。それらがここの特産になっていたら、もし戻ってくることがあったら驚くだろうな」

「そうなれば楽しいな」

「そうだな」


 二人は帰って行ったので、私もゼファーブルやアークシュリラから届いた手紙を読むことにした。

 見付けて直ぐに読まなかったのは、読めなかったからである。

 決して時間が無かったという訳では無い。


 その文面には今まで出会ってからベストを改修するまでに起こった、様々なことがあふれんばかりの感謝の気持ちで綴られていた。

 そんなこともあったなぁと、読んでいて懐かしくなる。

 二人から私には、醸造の仕方に付いての解説と魔力増強の薬があった。

 蒸溜は二人からもう教わることは無くなっていたが、醸造はあまり教わっていなかったのでありがたい。

 これを覚えて、ハルメニア王国で広めても良い。

 ここだけで無く様々なところで作るのを、ゼファーブルも望んで居るだろう。

 お酢も漬け物とかに活用出来る。

 邪魔で無ければ、当然、ここの醸造酒造りで活用しても良い。

 多分、醸造をしているモノは知っているだろうな。

 薬は毎日飲んで、もっと魔法を使えるようになろう。

 二人はこれから大陸で様々な経験を積むことだろう。

 文面に有った通り、更に強くなるに違いない。

 二人が戻ってきたときに、驚くくらいに私も成長しないといけない。


 ここも周辺の村は変わっていない様だが、二人によって各村で作っていた特産品の交易も盛んに成っている。

 二人がしたことは、小石を湖に投げ入れたくらい小さな変化を与えただけだ。


 しかし、ハルメニア王国も酒を運搬するために、少し大きな船を建造した。

 それはずっと以前、私の祖父が幼かったころより前の時代に、大陸と取り引きや戦をしていた時と比べると小さいが、大陸へも行ける船だ。

 北には半島を支配する気か真意は不明だが、帝国と名乗る国も出来た。


 そう、その小石が作った波紋は幾重にも重なりあって、次第に大波と成って私たちを飲み込むだろう。


 私たちものほほんとはしていられないな。

 各村に軍隊を作って訓練する時間が有れば良いが、無ければ私たちで戦うことになる。 急に軍隊を作ると言って、賛成してくれる所はない。

 本来なら長い時間をかけて説得することだ。


 それに、私たちの中でもレファピテルは戦争が嫌いだ。

 一軍を率いて戦うなど想像が出来ない。

 ビブラエスも戦場にいるタイプではない。

 しかし、この二人は戦いは嫌いだが、政治的なことは好きなので外交などで活躍することは出来る。


 千万の兵より、一人の有能な縦横家や遊説家が国を救うことも有る。

 レファピテルやビブラエスは自分の地位を上げようと言う気持ちは全く無いので、厳密に言えば違う。

 でも、ここぞと言う時の弁舌は、縦横家や遊説家にも勝るとも劣らない。

 そのタメには、しっかり情報収集はしないといけないし、的確な判断をする必要がある。


 レファピテルとビブラエスは周辺の村や街に材料を探しに行っている。

 私も付き合ったりもした。

 個人的に仕入れても良いが、定食屋で提供するならそっちと契約した方が良い。

 どのくらいの量を送れるかや何日かかるのかとか事前調査だけは確実に行っておき、定食屋に料理を教える際に話すつもりだ。


 それに会わせて栽培方法も聞いておく、街で作るならアリマーズたちに相談しないといけない。

 どこでも農家が勝手に作っている訳では無い。

 大きな所なら多少の融通もきくが、ここではそうはいかない。

 街での消費する量や周辺の村との取り引き状況により作るモノを変えたりもするからだ。


 小麦を農家が作りたいと言っても、小麦だけ有ってもパンにしか成らない。

 肉とパンだけでは食事が淋しくなる。

 やはり他の野菜も食べたい。

 麺はトマトや唐辛子などの、他の野菜がないと味気ないモノしか出来ない。

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