141 みんなとの別れ。旅立ち
ファリチスは人口の増加に伴って、当初に比べて範囲が広がったがヴェルゼーアと私の家はソバにある。
その上、両方の家は広場に面しているから、どちらかが広場にいれば家の中に居ても窓から見えるし、出歩けば会わない訳がない。
何日か経ったころに、私はヴェルゼーアに謝罪した。
言い過ぎたことより、エマルダの危機を伝えてくれたことに感謝した。
ヴェルゼーアも、自分が言葉足らずだったと言っていた。
そして私はレファピテルやアークシュリラとベストの修正作業に入った。
「これで、上がってきたモノはだいたいは終わったね」
「やっぱり、これは難敵ですね。でも、私も必要と思いますね。こないだは誰も姿を消すようなことは有りませんでしたが、姿が消えててそこに居るのに誤って魔法を使ったら事故になりますよ」
「一緒に忍び込んで、仲間の居る所が判らなければしょうがないね」
どんな範囲魔法でも、一部のモノに効果を出さないことは難しい。
例えば、範囲魔法の眠りも特定の人物だけ掛からない様にするには、事前に護符などを持たすか範囲外に退避させないとダメだよ。
ナニも対策をしないで、眠らせる対象と一緒に居たら眠ることになる。
相手と一緒にいる場合は一度全員に掛けて気付けをするか、範囲魔法で無く個別魔法で一人一人を眠らせる方法が一般的だよ。
範囲魔法でうまく範囲外にするのは手間だから、あまり活用されていない。
しかし、出来るまで何日も、ぶっ通しで検討することはしないよ。
有る程度の時間で、一日の作業は必ず終わりにする。
なので徹夜ナンかはしない。
その方が気分転換も出来て良いアイデアも出て来るからね。
次の週に成った。
「これなんか使えないかなぁ」
「霊を見える様にするヤツだね」
「姿を消すのは霊化している訳ではないですが、試してみましょう」
早速、魔法陣を描いて見る。
「じゃ、私が消えるからね」
「やっぱり、霊化ではないので見えませんね」
「でも、ここをこういうようにしたらどうだろう」
「だめですね」
私たちは、幾度となく魔法陣を描いては失敗をくり返した。
「今度は、私が消えるからね」
「これなら、ナンとなくだけど判るね」
「これでも良いですが、折角ですからもっとクリアに見える様にしましょう」
方向性は見えた。
それから試行錯誤を繰り返した。
「これって霊とかも、くっきり鮮やかに見えるってことだよね」
「そうなりますね」
「見えないより見えた方が良いじゃん」
「これで一応言われたことは全部だね」
「そうですね」
今回の改善点で、ポケットはアイテム袋化したよ。
みんなは自分用のアイテム袋は持っている。
しかし、山や崖を登るときに手も使う場合があるし、乗馬しているときも杖などはアイテム袋にしまう場合がある。
その時にバックパックの中にあるアイテム袋を出し入れして、一々杖などをしまう必要が無くなるよ。
それに腰に帯びている剣も、狭い通路や鬱蒼とした森など周囲の状況により引っかかる場合には、しまうことも出来る。
当然、腰に帯びている時より抜くのがワンテンポ遅くなるので、常時仕舞うことはしないと思うけどね。
でも、バックパックに入れてあるアイテム袋よりかは早く取り出せるよ。
それでみんなからベストを預かり、変更したモノに変えていった。
その際に布のほつれやすれ具合などもチェックして、多少の改善もしたよ。
改善点を修正したベストをみんなに渡した。
レファピテルは防御用の魔法陣にも、霊を見える様に追加した。
霊の中でもゴーストなど姿が見える状態で攻撃をしてくるモノは良いが、中には姿が見えないモノもいる。
そう言うモノに対する対策だね。
「ゼファーブル。ベストの改修作業も終わったね」
「お疲れ」
「ホントに、次の満月の夜で良いの」
「二週間だよね。アークシュリラは気持ちが変わったの?」
「変わってないよ。それに、その日に行くって私が言ったことだよ。ゼファーブルはここに残っても良いんだよ」
「ベストも終わったし、私たちが居なくてもファリチスは平気だよ」
アークシュリラはここが大きな半島だと判ってから、もっとイロイロと見て回りたい気持ちが大きく成ってきた様だった。
ここに家を建てたのも強い魔物が居たから、周囲の人に被害が出ないようにするためだ。
今では転移魔法も使えるし、連絡もあの箱で受け取れるから、どこに居ようと構わない。
なので、ここに居る必要はない。
私も街で暮らすのは、気兼ねをするからあまり好きではない。
当初は私の家は周囲に人が住んで居なかった。
それが、人々の増加に伴う街の拡充によって、当然のように中心部になっていってしまった。
また、洞穴で暮らしてもいいし、両親が居たころみたいに旅をしても良いだろう。
今では、私も多少の魔物はやっつけられるのだからね。
私たちは大陸に行くと決めてから、二人でヴェルゼーアを始めレファピテルやビブラエスに旅立つことと感謝の気持ちを綴った手紙を書いた。
その手紙の最後に、一応、連絡をくれればいつでも戻ると書いておいたよ。
そしてアリマーズには前日には直接会いに行って、私たちは大陸の方へ旅立つことを告げた。
数年は戻らない予定だし、旅先で何が起こるか判らないので、私たちの家が邪魔なら壊しても良いとも伝えた。
ダルフさんとベガトルさんにも、会って大陸の方へ旅立つことを告げたよ。
社交辞令かも知れないが、寂しくなると言ってくれた。
オーラガニアに居る人々には、ナニも言ってはいない。
そこは、私よりヴェルゼーアがいつも対応していたからね。
「忘れ物はないよね」
「家具以外は全て持ったから平気だよ」
「じゃ、行こうか」
私たちは、夜中に西へ向けてカヌーで飛び立った。