140 ヴェルゼーアとケンカ
それから少しの間、眠り草の捜索をみんなはしていた。
やっぱりというのか、喜ぶべきことに眠り草は見付けられなかった。
同じ時に種が落ちていれば、もう芽が出てもおかしくはないので、眠り草探しは終了した。
有るか無いか分からないモノを、これからも毎日探し続けることはさすがに無理だよ。
それに伴って私の薬作りも終わりとなった。
しかし、乾燥したらダメになるモノはさすがに無理でも、保存の利く材料探しは時間を見付けて今後もやるつもりだよ。
捜索を終えてしばらく経ったが、眠り草の花粉を吸ったモノが出たと言うウワサは聞かない。
咲いていたらとっくに花粉を吸ったモノが出ているからね。
「ゼファーブル。ここって変なんヤツはいるけど、全般的に平和だよね」
「どこもこんな感じだよ」
「そうなの」
「アークシュリラは、他をどう言う所と思っているの」
「私は、もっと人と魔物が戦ってる所が有るのかなぁって思っていたよ」
「私が知っている限りでは、そんな所はないね」
「そうなんだね」
「二人とも話をしている所すまん。北方にあるエンラント王国って知っているか」
ヴェルゼーアがやって来て、私とアークシュリラが話をしている所に割り込んで来た。
「少しの間、そこに住んでいたよ」
「そうか、なら話が早い。そこの国王が代替わりをした」
街に買い出しに行った際に誕生祭だったか何かのお祝いだったかは忘れたが、国王のパレードに出会った。その時に見た国王は結構な歳だったし、政治なんて面倒だから若者にやらした方が良い。
「別に誰が国王でも、私たちには関係ないよね。ここはエンラント王国の領土じゃないからね」
「新しい国王は、自らを皇帝と名乗ることにしたんだ」
「呼び名と言うか、敬称が変わったんだ」
「お前は……」
ヴェルゼーアは頭を掻いた。
「えっ……」
「王国と皇帝の国である帝国の違いも、呼び名だけと思っていて、その違いが解っていないだろう」
「国王が治めている国が王国で、皇帝が治めている国は帝国だよね。でも、名前以外にナンか変わるの」
「今のところ王国はその認識で良いが、帝国は違う。簡単に言えば、皇帝が支配している地域を帝国と言う」
「支配って」
「そうだ、周辺の国や街を吸収して、支配下に置く国と言うことだ」
「それじゃ、周辺の所と戦になるね」
「アークシュリラ、そうだ……」
ヴェルゼーアが続きを言う前に、私は言った。
「ヴェルゼーア、戦争はイヤだけど、私たちにどうしようとも出来ないよ」
「そうなんだよな。エンラント王国が帝国に成るのは犯罪ではない」
「犯罪であっても、国のことは私たちに関係ないよね。以前にモルロンを救ったのは、助けを求められたからだよ。私たちは全ての国を監視している訳でも、この地の治安や平和を維持している訳でもないよ」
「もし、平和に暮らして居たのに、急に隣国に攻められて併合されてもか」
「そう。私は助けないよ。街だって長や領主は居るんだよ、そうなる前に攻められたら助けてねと言われていれば対応するけどね」
「アークシュリラも同じ意見なのか」
「私はそこに友人や知り合いがいて、併合後の状態によるよ」
「状態って、どのような状態だ」
「ある国の一部に成ると、もう会えなく成るとかだね。もちろん、トップの家族や親族が最前線で戦って居るのは、助ける最低条件だよ」
「そうか、判った」
ヴェルゼーアは少し悲しそうだった。
「後ね、私もゼファーブルも、ヴェルゼーアたちの様に政治には全く興味はないよ」
「それは判っている。でも、これは政治ではないよ」
「戦争は武力を用いて、自分の意思を相手に強制することだよ。だから、戦争は政治目的を達成するための手段でしかないよ。完全に戦争って政治だよ。もし、それ以外の戦争が有ったら、ヴェルゼーア教えてくれない」
「……」
ヴェルゼーアはナニも言わなかった、イヤ言えなかったのかも知れない。
アークシュリラに完全に言い負かされている。
「ごめん。言い過ぎたね」
「私も思慮不足だった」
ヴェルゼーアは、やって来た道を引き返して行った。
「アークシュリラ。ヴェルゼーアにあんなことを言わして、ごめん」
「えっ。私も政治はキライだよ。だから、ゼファーブルのためじゃないよ」
「そう」
「どこが戦争をしようが構わないけど、エンラント王国ってなんとか辺境泊の居る所だよね。その辺境泊も帝国の一部なら、エマルダに近いよね」
「ガーゼル辺境伯だよ。確かにエマルダはソバだね」
ヴェルゼーアは、私たちがここで暮らし始めたいきさつを知っている。
だから私たちに、その事を伝えに来たのかも知れない。
きちんと謝れば許してくれるかも知れないが、今すぐに追いかけて行ったら、私たちが言い足りないことがあると警戒されるね。
「ヴェルゼーアにも言った通り、エマルダがイファーセル国に所属していようと、エンラント王国に所属していようと関係ないよ。但し、私たちがいつでも行けるって条件でね」
「それは大丈夫だと思うけどね」
周辺で疫病が発生し出したとか、ナニかに攻め込まれると言うことが無ければ、各国は国境を封鎖することはない。
「それならこの話はおしまいだよ。ヴェルゼーアが来る前に話していたことだけど、私は大陸の方にも行ってみたいんだよ。魔物はいなくても謎の建造物はありそうだよね」
「そうだね。ここにも別空間にある玄関だけが出現したことも有ったよね」
そういうモノが他にないとは、断言出来ない。
しかし、私としては、進んで探検をしたい訳ではない。
ヴェルゼーアが謝っても許してくれないなら、行くのも良いかも知れない。
許してくれてケンカ中では無くなっても、よそよそしさが感じられたら居心地が悪い。
ヴェルゼーアの方が後から来たのだから、出ていくならヴェルゼーアたちの方だとは今の状況だとさすがに言えないよ。
だって西に拠点を作って、ハルメニア王国から人々を呼んでしまったんだからね。
「そう言うモノ以外にも、過去に封印されたモノも有るよね。長い年月の間に封印が弱まっていたら、今の私たちじゃ無理かも知れないけど、再封印したら喜ばれるよ」
「また、勉強だね。もしかしたら、アークシュリラなら封印されたモノをやっつけられるかもね」
「未だに私は、実体のない相手と戦えないよ」
話している分には、これから大陸に行って、新しいページを作るのも楽しそうだ。
万が一、ダルフさんたちから連絡が有れば、ドコにいようと転移で直ぐに戻って来られるしね。