13 ルージュミルパーツを退治する
私たちは畑を通り過ぎて、林の付近まで来た。
「ここいら辺だよね。村長が居ると言っていたのは」
「そうだね。エサでおびき寄せる?」
「ちょっと、あっちの空き地に行こうか。ここで戦ったら畑を荒らしそうだしね。荒らさない様にと考えてたら、戦いにくいでしょ」
「私は平気だけど、ルージュミルパーツが暴れたら畑が荒れちゃうね。そうしようか」
私たちは空き地に行って、周囲を確認する。
居るとしたらあの岩がある辺だけど、今はいそうにない。
「じゃ、アークシュリラ、エサをお願い」
アークシュリラがアイテム袋からウルフの肉を出した。
アークシュリラのアイテム袋は、転生した際に神様からもらったモノだ。
そのため私が持って居るモノより、数段も性能が良いみたいだ。
それは、その中に何日間も入れておいても、取り出したときは入れたときの状態を維持しているからね。
まるでその中は時間が停止しているみたいで、まったく劣化もしなければ腐らないということだよ。
これでもルージュミルパーツは寄ってくるだろうけど、この香りをルージュミルパーツが嗅ぎ取るには時間が掛かるよね。
私が杖をかざして、ルージュミルパーツが好む血の匂いを強化させる。
そして、私はそよ風も発生させて林の方へ流した。
それをやったからと言って、直ぐに現れることはないけどね。
「ゼファーブル。村長って若かったよね」
「うん、そうだね。あの人の親が本当の村長だったけど、気疲れで倒れたかもね」
「だから薬を一つでなく幾つも上げたんだ。案外、優しい所もあるんだね」
「私は錬金術師だから、さすがに病人は放っておけないよ」
アークシュリラは急に林の方を見た。
「どうしたの?」
「小さいのが一匹やってきたけど、どうする?」
子どもかなぁ。
「大きいのは、いるの?」
「いないと思うけどね。やっつけていい?」
大きいのが来れば、それも相手をしないといけない。だったら個別にやった方がいい。
「やっつけていいよ。でも、気を付けてね」
「判ったよ」
アークシュリラは林の方へ向かって行って、数度剣で地面をさす。
そして自分の身長以上もある、ルージュミルパーツを背負って戻って来た。
小さいって言ったのに……引き摺ってもいるね。
「ゼファーブル。これも吊しとこうよ」
アークシュリラはルージュミルパーツの死骸を、私の前に置いた。
「えっ、これを吊したら怒って襲って来るよ」
「早く、出てきて欲しいんだよ。他の処に行ったら困るからね」
私はアークシュリラの言うとおりに、ルージュミルパーツの子どもを吊した。
もちろん、半分以上は地面にくっついているよ。
また、くだらない話をしていると、林の木々がざわめきだした。
「来たみたいだね」
「そうだね」
アークシュリラは林の中ではなく、畑の方を見ていた。
「ゼファーブル。林の方はお願い。私はあっちを先に始末するよ」
「判ったよ。でも、足止めくらいにしか成らないかも」
「いいよ。時間を作ってくれれば」
アークシュリラは走って行った。
行っちゃったよ。
それじゃ、約束通り足止めだけでもしますか。
ルージュミルパーツが姿を現す。
うん、大きいね。
私だけなら確実に逃げているよ。
先ずは、相手が火を使うので水系統の魔法だね。
「氷槍!」
相手が言葉を理解出来ないと思ったから、魔法使いの様に言ってみた。
氷で出来た数本の槍が、天からルージュミルパーツを襲う。
しかし、ルージュミルパーツの外骨格を貫くモノは、一本もなかった。
当たっただけかぁ。
魔力の練り方が悪いのかなぁ。
でも、発声して魔法が発動するのは、黙って杖を振るより気持ちが良い。
これからも発声しよう。
ルージュミルパーツは、体をそらして私に向けて火を吐いた。
「水!」
水が勢いよくその火を包み込んだ。
同じ攻撃ではルージュミルパーツに、キズ一つ付けられない。
どうしようかなぁ。
私が考えていると、再びルージュミルパーツは火を吐いた。
「水!」
その攻撃は効かないよ。
でも、ゆっくり考えさせてくれそうもない。
じゃ、今度は下から出してみるかなぁ。
「氷槍!」
腹側は私が思った通り、上の外骨格がある箇所より柔らかいみたいだ。
それで私の放った氷槍も全部とは行かなかったが、数本がルージュミルパーツの腹部に突き刺さった。
よし! あとはこれを繰り返すだけだね。
ルージュミルパーツは火を吐く以外の遠距離攻撃はない。接近されると鋭い牙や尾にある毒針を刺して来るけど、近付かなきゃいい。
それになんだか私は素早く動けるから、今日の私はルージュミルパーツの接近を許すことはない。
私は数度氷槍を放った。
相手も幾度となく火を吐いて来た。
アークシュリラは大丈夫だろうか。
あっちは必ず接近戦になるよね。
ルージュミルパーツは、あの巨体で押し潰してくることもある。
私の勝ちは決定的だけど、アークシュリラは判らない。
でも、私が勝つためには、まだ時間が必要だ。直ぐに決着を付けてアークシュリラの処に駆けつけることは出来ない。
ルージュミルパーツは、随分弱って来た感じだ。
吐く火も弱く成ってきているね。
「ゼファーブル、待たせたね。こっちは片付いたよ」
よかった、元気そうで。
「こっちもあと少しで終わるから、待ってて」
「判ったよ」
私はその後一方的に氷槍を浴びせて、ルージュミルパーツを仕留めた。
「アークシュリラ、結構掛かったね。直ぐに戻って来ると思ったよ」
「私も直ぐにゼファーブルの所へ戻りたかったんだけど、次々に出てきて時間がかかっちゃったよ」
「次々? アークシュリラはナン匹やっつけたの?」
「7匹かなぁ。でも、小さいのが3匹居るから4匹とちょっとだね」
私が一匹を始末する間に7匹も……
「これってアークシュリラのアイテム袋に入れられる」
「入るけど、死んだ魔物っているの?」
「ギルドに持って行かないと信じて貰えないよ。村長なら連れて来て確認してもらえるけどね」
「そうだったね。今回はギルドの依頼だったよね。それじゃ、私が倒したのもいるよね」
「それをどうしたの?」
「そのままだよ。私はルージュミルパーツの解体の仕方を知らないし」
「じゃ、全部を仕舞って村長の所へ戻ろうか?」
「判ったよ」
アークシュリラはここにある二体を仕舞った。
そして私たちはアークシュリラが倒した所に行った。
そこには確かに7体のルージュミルパーツがあっちこっちに転がっている。
しかし、そのどれもが、林の中で仕留めてあった。
私が畑が荒れるとか言ったからかなぁ。
そして、どれもが今まで私が戦っていたものより大きい。
アークシュリラが半分と言ったものですらだよ。その上、更に大きな2匹もいる。
こいつが親なのかなぁ。
アークシュリラは、ここにあるルージュミルパーツも全て仕舞った。