135 調査と作戦会議をする
私たちは急ぎファリチスに戻り、ヴェルゼーアはビブラエスとレファピテルに事態を説明しに行った。
私も付いて行こうとするとヴェルゼーアは言った。
「頼むだけだから一人で良いよ」
「そう、それならお願いね」
ビブラエスも責任の一端を感じたのか、翌日には調査は済んだ。
「先ず格好は魔法使いの様だが、あいつらは魔法使いでは無い。ただの薬屋だった。センチピードを買い取る係に10人、薬を作る係に5人、そして売る係に10人と分担されている」
「薬屋って薬師ってこと?」
「そうだ」
「錬金術師ならいざ知らず、薬師がそんな大金を用意出来るハズはないよな。さらにこんな組織も作れるとは思えん」
「やはり、誰かが裏で操っていたのか」
「そうだ、裏にいたのは、イファーセル国の現職の大臣であるケッゼンと言うモノだ」
「ケッゼンが人を集めたの」
「人はさしずめ冒険者ギルドで募集でもしたのだろうな。簡単な依頼で少し高めの報酬を出すと言えば、短期間に多くのモノがやって来る。来たモノの名簿を作ってから、使えそうなモノに直接声をかけたって所だろう」
「お金は」
「資金の方は当初はケッゼンが出したが、その後は売り上げの一部を使って廻している。全ての利益はケッゼンの所に戻る仕組みに成っている」
「どうしますか」
「ケッゼンを懲らしめると云っても、現職の大臣ではマズいよね」
「そうだな。今度はここまで追っ手が来るな」
「それに、薬師は買い取る場所や作る場所そして売る場所に分かれているから、どこかで事件があれば姿をくらますかなぁ」
「仕方がないですね。大臣はビブラエスに始末してもらいましょう。実働部隊の方は、売り手はアークシュリラ、買い手はヴェルゼーアで良いですか?」
「残ったのがレファピテルとゼファーブルか」
「それって殺すって事だよね。それじゃ、お金は取れないよね」
「盗ると事件に成りますよ。私たちなら捜査をしても自然死の様にカモフラージュ出来ます。ゼファーブル、そうですよね」
「薬を嗅がせれば出来るけど……」
「私たちが見つかるって前提だけど。見つからなきゃ追っ手は来ないよね。そんなへまをする?」
「ビブラエスはないが、他は絶対にとは言えんな」
「ビブラエス。売り手はドコに住んでるの?」
「売り手だけでなく全員がイファーセル国内ではなく、サバラン聖教国付近にそれぞれ小屋を建てて、そこで暮らしている」
「じゃさぁ。私はやったら火をつけるよ。燃えちゃえば平気だよね」
「アークシュリラ、人を切ったことが有るのか」
「無いけど、どうして」
「命乞いなどをされても平気か」
「だったら、できない様に眠らすよ」
「ビブラエス。そうなると作業中は別々でも、同じ様な処に居るのか?」
「違うがそれ程離れても無い。週に一度ケッゼンが金を取りに行く」
「それまでの監視は」
「ケッゼンの家来が数名いて、逃亡した者や金額をちょろまかした者などを始末して居る」
「だったら作戦はビブラエスと私がケッゼンの屋敷から持てるだけ金品を奪う。出来れば貨幣が良いな。アークシュリラ、レファピテルとゼファーブルが薬師を眠らせて一カ所に集める」
「それじゃ、ケッゼンは赦すの」
「違う。疫病に罹ってもらう。薬師も同罪だ。ゼファーブルは疫病の病原菌を治癒魔法の効かない内服薬にしてくれ」
「でしたら、ヴェルゼーアはアークシュリラたちと一緒の方が良いです。私がビブラエスと一緒に行動します。ゼファーブルも私も寝ているモノを操れますから自分から飲んでもらえます。ゼファーブル、出来ますよね」
「睡眠中のモノは操れるよ」
そんな薬を飲まされて、残りの人生を生きるのなら、きっと死んだ方が楽だ。
作戦は決まった。
その後から、私は薬作りを始めた。
これじゃ、体内で増殖しても治癒魔法で消えるなぁ。
少しずつ溶かしても、今度は薬ごと消えるし……
治癒魔法が効かない様にするのは無理だ。
随分と試行錯誤をして、空は白みだしてくる。
徹夜でやってしまったが、解決の糸口もない。
窓の傍に行って外を眺める。
小鳥たちが広場で遊んでいる。
そして、思いきりのびをする。
再度作業に取りかかろうと戻る際に、先日まで作っていた耐魔法の魔法陣が目に入った。
そうか治癒魔法をキャンセルすれば良いんだね。
キャンセルするから、いくら治癒魔法を掛けても薬には効かない。
耐魔法でコーキングした薬が出来た。
そのコーキングは腸に入ると腸全体に耐魔法を張る。そして薬が溶けてそこで病原菌は増殖を続けるよ。
体外に出れば無害化もするよ。
私はヴェルゼーアの処へ向かった。
「ヴェルゼーア。やっと出来たよ」
「そうか、それじゃ行くか」
みんなに声をかけて、ビブラエスの案内で小屋が建っている平原に来た。
「一番手前が買い手の建物だ。向こうに見えるのが買い取ったセンチピードをしまう倉庫で、その隣が薬を作る小屋だ」
「ここは余り離れてないな」
「ここならゼファーブル一人で対応出来るでしょう」
「この距離なら出来ると思うよ。でも、他のも見てからだね」
そしてしばらく進むと一軒の家がある。
「ここにケッゼンの家来がナン名かいる。その先に有るのが売り手の倉庫だ」
「売り手は毎朝ここで薬を受け取って、夜に代金を渡すんだ」
「売れ残りは」
「ない。それは残ったモノを自分たちで買うか、安く売って差額を補填しているからだ」
「どうして、自腹を切ってるの」
「何回か売り切れば、薬作りに回れる」
「そうすると作る人が多く成らない?」
「一人増えたら、長く居たモノから買い手になる、買い手も同じで今度は売り手になる」
「ケッゼンは客が買おうと買うまいが、薬を作れば儲かると云うことか」
「考えましたね」
「レファピテル、関心をしてたらダメだよ」
「ごめんなさい」
「で、週に一度ケッゼン本人が、馬車で金を回収にきて、屋敷に持っていく」
「時間は」
「大体が深夜だ」
そしてケッゼンの屋敷を見てから、離れた場所に着陸した。
「ケッゼンが来る日時は判るよね」
「明日の夜だ、それが一番早い。次がそれから一週間後になる」
「見た感じでは耐魔法が無さそうだから、折角決めた作戦だけど変えて良いかな」
「昨日決めたのは出来るかどうかだ。それに机上だしな。現地を見て変えるのも必要だ。ゼファーブル、言ってくれ」
「私とレファピテルが薬師や家来、そしてケッゼンを眠らせて家に入れとくよ。三人はケッゼンの家からお金を取って来るのが良さそうだよ」
「二人で出来るか」
「私一人だと一方の端が無理かも知れないけど、レファピテルと一緒なら半々で平気だからね」
「そうですね。深夜ですからダメでも、二度、三度掛ければ済みます」
「そうか、我々は金を盗るだけで良いのだな」
「そうなるね。アイテム袋は今からでも作れるけど、屋敷に有ったら貰っちゃおうよ」
「使えるモノはナンでも使えば良い」