133 剣のメンテナンス
私たちは捜索のためにカヌーで飛行していたが、多少なりとも疲れて来たので着陸して体の凝りをほぐすことにした。
「同じ格好をしていると疲れるね」
「そうだね。アークシュリラの剣はまだ大丈夫」
「ナンで」
「こないだ堅い魔物を切ったでしょ。急に戦いになって、使えなかったら困るよ」
「全部、刃はナンともないよ。ゼファーブルもみる?」
アークシュリラは本差しや脇差し、そしてダガーを抜いてみて続けた。
「それなら、私よりヴェルゼーアたちの剣の方が心配だね」
「じゃ、ファリチスに戻って、ダルフさんの処へ行こうか?」
「そうだね。それが良いよ」
私たちは、しばらくストレッチをしてからファリチスへ戻った。
「ヴェルゼーア。あなたの剣って、メンテナンスはどうしているの」
「急に来てどうした」
「こないだ堅い魔物を切ったでしょ。だからね」
「そう言うことか、なら平気だ。私の剣は刃こぼれ一つもしていない」
「定期的にメンテナンスはしてる?」
「気になったらやっているぞ。今までは遠かったが、今では瞬時にいけるからな」
「そう、それなら良いけど、私たちはこれからメンテナンスに行くから、時間があるなら一緒に来る?」
「アークシュリラの剣は刃こぼれしたのか?」
「してないよ。でも、変なモノを切ったから行くんだよ。万が一にでも戦闘中に折れたらしゃれにならないよ」
「そうか、お主らの剣を打った者に会うのも良いな」
「その人が作ったのは、私が使っているこのダガーだけだよ」
アークシュリラがダガーをなでた。
「判った、行くよ。アークシュリラたちが信頼しているモノに会うのも良いだろう。是非とも紹介してくれ」
「ビブラエスはどうかな」
「あいつの剣は鋼でも鉄でもないから大丈夫だろう」
「じゃ、ミスリルなの」
「違う。オリハルコンだ」
「オリハルコン?」
「そうだ。ナンでも昔に龍を退治した際に、腹の中に有ったそうだ」
「龍ってドラゴン? やはり居るの?」
「そうだが。本人は龍と言うが、多分、巨大なヘビだろうな。私もドラゴンは見たことがない」
「そう」
アークシュリラは残念そうだった。
私たち三人はエマルダのそばに転移し、ダルフさんの処へ行った。
一度行かないと転移出来ないが、ヴェルゼーアもドワーフの街であるエマルダには、ナンドも行ったことが有ったからね。
「ダルフさん剣のメンテナンスをお願い」
「メンテナンスをやるのはいいが、そいつは新しい仲間か」
「ダルフさんは会うのは始めてだよね。ヴェルゼーアと言うの、よろしくね」
「判った。こちらもよろしく頼む」
ヴェルゼーアとダルフさんは握手をした。
「お前さんは、良い手をしているな。では、腰のモノを出してくれ」
ヴェルゼーアは剣を金具から外して、ダルフさんに渡した。
「これは素晴らしい剣だ。刃はもちろんだが、装飾も素晴らしい」
「そうか」
ヴェルゼーアはお世辞と受け取ったらしい。
「で、刃が弱っているがナニを切った」
ヴェルゼーアが真顔になる。
「ジャイアントライノビートルとジョーヌミルパーツだ。それぞれ一匹だ」
「そいつらだったら、この刃では無理だ。正直に言えないのならメンテナンスは出来ん」
「ダルフさん。本当だよ。ヴェルゼーアは一人で、その二匹をやっつけたよ」
「本当なのか、この剣の素材は鉄じゃないか」
ダルフさんはもう一度、刃をみてからヴェルゼーアの顔を見た。
「……」
ヴェルゼーアは黙って、ダルフさんを見つめている。
「そうか、お主の腕もアークシュリラに勝るとも劣らないモノと言うことだな。アークシュリラはその時は居なかったのか」
「居たよ。私はジャイアントスタッグビートルとジョーヌミルパーツの相手をしてたよ」
「アークシュリラも出せ」
アークシュリラは三本をカウンターに置く。
ダルフさんはそれぞれを見比べてから言った。
「そうか、判った。所でヴェルゼーアと言ったか、お主は鉄が好きなのか、それともこの剣に思い入れが有るのか、どっちだ」
「この剣に思い入れがか……そうだ、ある。これは先祖伝来の剣だからな――」
ヴェルゼーアは剣のいわれなどを語った。
「いくら後ろに居る二人にナニを言われたか知らんが、そう言う大切なモノをワシに預けるのか」
「そうだな、でも、最初はドワーフなのに人に世辞を言うモノかと思ったが、今は違う」
「ヴェルゼーア。勘違いするな、人なら百年くらいの寿命だから世辞だけでも生きていける。ワシらはその何倍の時間が有るのだぞ。技を追求せずに世辞だけでは無理だ」
「本当にそうだな」
「で、これを鍛えてもお主の技量についてこれない。この際、新たな剣を造ることを勧める。これは先祖のために残すべきモノだ。これ以上使ったら取り返しの付かぬことになるぞ」
「折れると云うのか」
「あぁ、そうだ。刃は同じ材料で打ち直せるが、刃を折ったと言う事実は消せないし、お主の傷も治せん」
「……」
「少し考えさせてくれ」
「先にアークシュリラの方を見てるが、今日中に結論がでなくとも良い、しっかり考えることだ」
ヴェルゼーアは剣を抱いて脇によけた。
「アークシュリラ。ダガーは少しメンテナンスが必要だな。この二本は返す」
ダルフさんは奥に行って作業にかかった。
「ヴェルゼーア、ごめんね……」
アークシュリラが私の肩に手を添えた。
私がアークシュリラの方を見ると、アークシュリラは頭を左右にゆっくりと振った。
しばらくの間、店の中はダルフさんが作業している音だけが響いていた。