123 転移の魔法陣を作る
ヴェルゼーアがようやく戻って来た。
「今回は長かったね。もう、ここでは会えないと思ったよ」
「いろいろ有ってな。それでお土産ではないがこれをやる」
「魔法陣の解説書?」
「そうだ。私の知り合いの魔法を扱えるモノに聞いたら、ゼファーブルたちのやっていることは、基本的に魔法陣で行うらしいのだ」
「上巻を読めば魔法陣の基本的なことは理解出来る。中巻を読めば多少の応用も可能で、下巻は奥義や秘伝だそうだ」
「ありがとう。暗礁に乗り上げて居たからね」
「ところでヴェルゼーアたちはファルケで連絡を取り合うよね。あれは誰でも扱えるモノなの」
「ファルケは、誰でも扱える訳ではない。ヒナから育てるか、それ相当の訓練が必要だ」
「やっぱり無理かぁ」
「どうしてだ」
「西方に拠点を作って居るのは知ってるよね。そことの連絡に使えたら良いなぁと思ったんだよ。ここのマークもファルケだしね」
「そう言うことか。なら、少し時間をくれ」
「良いよ」
私は数日を掛けてその本を読んだ。
読んでいる合間に、杖で本を撫でる。
「これで杖も覚えてくれたかな」
そして、アークシュリラが読み終わったので、レファピテルに渡した。
「ゼファーブル、これをどうしたのですか?」
「ヴェルゼーアがお土産にくれたよ」
「この本はガムデバズラの著書ですよ」
「えっ、ガムデバズラ?」
「我が国の最高位の魔道士、イヤ魔導師です。普通は会うことすら出来ぬお人です」
「この本がヴェルゼーアの家に有ったのかなぁ」
「そんなことは……多分、私たちのことを知って、お願いしたのですね」
「代金とかは」
「プラチナ貨で10枚か、それ以上します」
「そんなに貴重なんだ」
「そもそもガムデバズラの著書も少ないので、とても貴重ですよ」
ヴェルゼーアに悪いことをした。
これがなくとも、凄い時間がかかっても答えには辿り着けたと思う。
「しかし、ヴェルゼーアにしたらその金額は、教わった蒸留技術などに釣り合うということですね」
「それなら良いけど、読み終わったら私の所へ戻してね」
「はい」
三人が読み終わったので、作業を開始した。
「魔法陣でカヌーを運転するモノを限定することも必要だけど、ただ行き来するなら魔法陣で一気にいけないかなぁ」
「転移……」
アークシュリラが、ぼそっとつぶやいた。
「アークシュリラ、ナニか知ってるの?」
「知らないよ」
レファピテルが私たちを怪しんで居る。
アークシュリラは私を見てから、言った。
「レファピテル。誰にも言っちゃダメだよ。ヴェルゼーアやビブラエスにもね」
「二人にもダメなことですか?」
「その時になったら私から話すから、レファピテルから云うのはダメだよ」
「判りました。言ったら死ぬ呪いでも掛けても良いです」
「そんなことはしないよ。レファピテルのことを信じているからね」
「アークシュリラ……」
「私は――」
アークシュリラは、自分は他の星からの転生してきたモノであると言った。
そして地球のことなども話した。
「判りました。このことは他言しません。で、転移とはなんですか?」
「片方の魔法陣に乗ったら消えて、もう一方の魔法陣に出てくることだよ」
「簡単に言うと、時空をつなぐトンネルですか?」
「簡単? でも、そんな感じ」
「えーと。確かあの本にも、同じ様なモノがありましたね。でも、一定時間隠すだけでしたが」
「同じ所じゃね」
「他の魔法陣で遠くにあるものを取り出すのが有ったよ」
「それは術者が手を入れて……」
二週間が過ぎた。
「これらを併せて、ここがこうだから、この様に描けば良いよね」
「良いハズです」
「誰が乗るの」
「そこは、言い出したゼファーブルだよ。私たちは協力しただけだからね」
「なんで私なの、先ずは石とかで試そうよ。その次は昆虫でも魚でも良いから」
先ず石を乗せてみるが反応はしない。
「生き物でないとダメなのですかね」
「じゃ、蟻」
蟻を魔法陣に落とすと蟻は消えて、もう一方の魔法陣の上で歩いている。
「成功みたい」
「そうですね」
互いが互いを見ている。
「判ったよ。乗るけど消えたままだったら、いつかは救出してね。バラバラなら蘇生も頼んだよ」
私は勇気を振り絞って魔法陣に乗った。
そして、蟻と同様にもう一方の魔法陣に現れる。
「成功だね」
三人で抱き合った。
「後はここの住民以外を使えなくしないとね」
「それならば、こうすれば良いことが判りましたよ」
「考えていたの」
「そうです。こんなスゴい発見をしているのですから、今は使わなくてもいつか使うこともあるでしょうからね」
「カヌーとかにも応用は出来るね」
「えぇ、出来ますね」
私は、直ぐにヴェルゼーアの所へ行った。
「ついに出来たよ。これがそう」
「出来たか! おめでとう」
「向こう側でレファピテルたちが居るから行こうよ」
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
私とヴェルゼーアは魔法陣に乗って、レファピテルたちが居る場所に転移した。
「どうなっているんだ」
「あの本を読まないことには、判りやすく話しても理解することが出来ないでしょう」
「そうだな。これはどんなに離れていても平気か?」
「ハルメニア王国でも平気です」
「そうか」
「でも、ファリチスの住民以外は使えません。ヴェルゼーアが万が一、ファリチスを離れることになれば作動しなくなります」
「そうだな。誰でもだと防犯上からも善くないな」
「何枚ある」
「何枚でも作れますけど、二枚ですね」
「行きたい所は多いが、その都度行きたい処の魔法陣を準備するのか」
「だったら、ここを変えて、これで思った所へ行けるよ」
そして4枚の魔法陣を作った。
ヴェルゼーアを含めてみんなで、それぞれの場所に転移出来ることを確認した。
「でも、一回設置に行かないとダメだし、設置しても丸められていたり、荷物が上に乗っていたりしたら行けないよ」
「そこは要注意だな。非常の時に使えなければ意味がない。アリアーズにはお前たちが話してくれ」
「ヴェルゼーアがしても良いよ。あの本が有ったから出来たんだしね」
「そうですよ。今更、格好を付けてもダメですよ」
「そうか、なら西方の拠点にこれを設置したら伝えるとしよう」
「その頃までには、何艘かあのカヌーも作っておきますね」
「頼む」