11 初めての依頼を受ける
私たちは、無事に目的地に到着した。
先ず私たちは住み処となるほら穴を探すことにする。
「今年は、ここで良いかなぁ」
動物がいた気配はないしね。
私だってあからさまにナンかの巣であるとか、人が住んで居る形跡がある処には住まないよ。
「ここ?」
「そうだけど。アークシュリラは、なんか不満でもあるの?」
「ゼファーブルは家とか建てないの?」
「建てないよ。長くて半年しか居ないからね」
「そうなんだ」
私はほら穴の奥に先ずは煮炊きをする場所と言うか、暖を取る火を熾す所を作る。
それから、様々なモノを乾燥させる天棚も作った。
そして、持って来た食料を並べていく。
アークシュリラも幾つかの肉をそこに並べる。
「本当は天日干しが良いけど、動物がやって来るからね。それをするのはどんな生き物が周囲に居るか確認してからだね」
「動物? ゼファーブルは去年も来たんじゃないんの?」
「来たけど、昔、思っても居なかったヤツが居たことがあったからね」
「そうなの?」
そして、アークシュリラと周辺を少し散歩して、水飲み場とか近付かない方が良い所など、どこにナニが有るかを教えた。
まあこの近辺なら邪悪な魔物はいないから、アークシュリラだと平気かも知れないけどね。
いくら南方でも、ここも冬は寒くなるよ。
それに雨も多くなる。
少々の雨なら良いがバケツをひっくり返した様だと、さすがに外出もしたくなくなるよ。
そのために、私たちはまだ雨がそれほど降らないうちに、順調に木の実をストックしている。
でも、その量も、少し大きい壺に半分くらいの量にしているよ。
これで三食食べ続けても三週間は持つ。
果実は乾燥させても食事に適さないので、その場で食べる以外は鳥や動物のために取らないでいる。
アークシュリラも木の実を採ったりするし、時間があれば剣の素振りもしている。
そしてアークシュリラは、例のメモ帳を読んでもいる。
私も時間があれば、調合とかで様々な薬を作成して備蓄もしている。
動物がいなくなるので、どうしても新鮮な食材が足りない分を薬で補うことになる。
大昔に魔法学校で錬金術を習った時に、どの食材にどんな栄養があるか一緒に教わった。
保存に適した食材もね。
しかし、誰から依頼を受けての仕事ではないから、基本的にのんびりして作業をしているけどね。
外出していたアークシュリラが、住み処に飛び込んできた。
「どうしたの?」
「ルージュミルパーツが現れたと、旅人が言っていたよ。それで、この近くの村が襲われたってね」
「赤い悪魔ね。まだ居たんだね」
「知ってたの?」
「最初に言わなかったっけ、思ってもないヤツが居るって……」
「言ってたけど、ルージュミルパーツとは聞いていないよ」
「で、アークシュリラは、まさか退治をするって言わないよね。近くの村と言っても、この近くにあるのは……」
「私じゃ、無理なの?」
アークシュリラは残念そうに言った。
私たちは肉の備蓄も増えて来たので、最近は狩りをやる必要がない。
そのために、アークシュリラは実戦から遠ざかっている。
それに放っておくことは、アークシュリラの性格から云って出来ないよね。襲われた村と言うのも、それほど遠い訳ではないから尚更だね。
「旅人が言っているから、もうギルドから冒険者が退治に向かっているかも知れないよ。ギルドに確認に行こうか」
「ゼファーブル、そうしよう」
二人して街に行き、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドで掲示板を見ると、ルージュミルパーツ退治が張り出してある。
それには、個体数とか発見場所などの情報が書かれている。
でも、そこには受託済みのしるしはない。
「見つかったのは、一匹だけなんだね」
「ゼファーブルはナン匹と思ったの」
「二匹だよ。数年前に見た時は二匹も居たからね」
「二匹か。二匹だと私一人だと、ちょっと無理かなぁ」
「えっ、一匹なら平気なの?」
「ウルフとかしか相手をしてないので根拠は無いけど、多分ね」
「一匹しかいないってことだから、じゃ、受ける?」
本当は受けたくないけど、アークシュリラは受ける気が満々の様子だ。
ちょっと強い相手で自分のレベルを確認するのも良いかも知れない。
私たち2人で一匹の相手をするのだから、なんとか退治することはできると感じた。
「良いの」
「私が支援するよ。それにこの村は知らない処じゃないしね」
私たちはその紙を取り、受付に行く。
私たちの話を聞いていたのか、周囲の人々は道を空けてくれた。
さすがに絡んで来るモノはいない。
アークシュリラは強そうだし、私の格好も魔法使いだしね。
「これを受けたいんだけどいい」
「二人ですか? それとも他に人は居ますか」
「二人だけど無理なの? 受託条件に人数とかは書いてなかったよ」
他の依頼には、ランク3以上とか魔法使いのみとか色々と条件が書いてあった。しかし、これには一切書かれていない。
「はい、条件はありません」
「それなら良いよね」
「では、ギルドカードを出して下さい」
私たちは、受付の人にカードを渡す。
「お二人とも今回が初めての受託なのですか?」
「そうだよ。今までは勝手に魔物を倒してたけど、正式に冒険者ギルドにある依頼を受けるのは初めてかなぁ」
外野が騒がしくなる。
「そうですか、少々お待ち下さい」
受付の人は奥に下がった。
そしてナンだか格好が偉そうな人を伴って戻って来た。
「お前さんか、あの依頼を受けたいと言うモノは?」
「そうだけと、困ってるんでしょ。それに誰一人として受けてない様だからね」
「ギルドとしては、お前さんの実力が判らないから、はい、そうですかとはいかない。ケガならよいが、死なれると面倒だ」
「良いよ、それなら。私も面倒くさいから、また勝手に退治するよ。アークシュリラ、帰ろうか」
「ゼファーブル、本当に帰って良いの?」
「ランキングのポイントと報酬は無いけど、別に私たちはそんなのに興味はないし、良いよ」
私は帰ろうとする。
アークシュリラは少しとどまって、私の後を追って来た。