115 疫病? 薬を作る
私たちは宿屋に向かった。
「ヴェルゼーア。もし何処かの国が依頼したと判ったらどうするの」
「私はハルメニア王国の使者ではないから、国主に文句は言えないな」
「そうですよ。それに、我が国に病原菌を撒かれた訳ではありません。出来ることは同じ様な目にあわせるだけですね」
「ゼファーブルは同じ様なモノを作れるか?」
「出来るけど、なんだかイヤだなぁ」
「ゼファーブルの気持ちは判るけど、ずっと一人でガンバっていたサルーザたちの気持ちはどうなの?」
私はそう言ったアークシュリラを見てから言った。
「判ったよ。作るよ」
「ところで、あのカヌーは売り出すのか」
「魔石が余りないから無理だよ。作ったとしてもファリチスに居る人たちの分だね」
「これはすごい兵器になる。絶対に盗まれるぞ」
「そうだぞ。地上にどんなに兵士が居ても関係ないのだからな。それに私の様な諜報のモノにとっても有り難い存在だ」
ヴェルゼーアとビブラエスが余り作るのは良くないと言っている。
確かに一理あるね。
「二人とも同じ様なモノは作れても、スピードや旋回性能、そして航続距離など同じモノは無理だよ。材料以外に私とアークシュリラの魔力で捏ねる必要があるからね」
「そうか、なら良い」
夜になって、ビブラエスは出発した。
翌朝、少しサバラン聖教国の方へ行って見ることにした。
「ここからでも、街がやられているのが判るね」
街を囲う壁や建物も、何種類もの魔法で攻撃された跡が残っていた。
「戦争って、まだ続いているの」
「終わったとは、聞いたことがありませんね」
でも、魔法を撃ち合っている気配はしないし、兵士が進軍している訳でもない。
「あそこに山羊が居るよ」
「アークシュリラ、あれは山羊ではなくてジーガだな。大きさも2メートルはあるぞ」
「そうだよね。ここからでもよく見えるから、山羊と云うことはないよね」
こんな様にカヌーで上空から周辺の状態を確認したり、歩いて街や近場の様子を見たりして、私たちはビブラエスが戻って来るのを待った。
私だけは、エバマ大河周辺で流行った疫病と同じ様になる材料を、野山とかで収集して揃えているよ。
そして一週間してビブラエスが宿に戻って来た。
「ビブラエス、お疲れ様。どうだった」
「先ずはイールグッドだが、個人的な怨みと言うわけでは無かったよ」
「それじゃ、依頼だったの?」
「そう、依頼だった。それもイファーセル国ではなく、サバラン聖教国の司教が依頼したモノだ」
「イールグッドは敵国の依頼でやったの」
「そうだ。依頼が有ったのは開戦前だから、ギリギリセーフかな。それにイールグッドはサバラン教の信者だ」
「でも、書類を奪い合って神官たちと戦っているよ」
「アイツは、依頼が有れば友人、イヤ、親や親戚も裏切るヤツだ」
「ビブラエス、イールグッドの性格はどうでもよい。依頼主は司教個人なのか?」
「ヴェルゼーア。違う、サバラン聖教国の教祖も承認しているから、国絡みの依頼だ」
「ゼファーブル。サバラン聖教国全体で同じことは出来るか」
「全体?」
「その口調では無理か」
「ゼファーブル。出来るよね」
「出来るけど、仕掛けが大変だよ」
「我々も手伝うからやってくれ」
やはりヴェルゼーアたちは、エバマ大河で疫病を流行らせたことに怒っている感じがする。
「判ったよ」
私は一人に成って薬を作り出す。
シュラーフヴァンデルンは咲いて居ないから、ソムナムブレズムで代用した。
こっちは動物の肝を混ぜる必要性がないが、夢遊病の様になるには純度の高いアルコールが必要だ。
アイテム袋の中に消毒用のアルコールがあるので、それを活用する。
ソムナムブレズムの花粉や球根をすり潰して、アルコールと良く混ぜないといけない。
この状態で作成者が罹患することがあるけど、私の場合は杖の力を活用しているので、蒸発する気体を吸うことはない。
出来たけど……どうやって設置をするかな。
運搬は蓋があるので平気だけど、発病させるには気体を吸い込まないといけない。
錠剤にしたら雨か水を掛けて溶かさないとダメだけど、効果が薄くなるよね。
解毒剤も作るかなぁ。
それしか、みんなが安全に設置することが出来ないよね。
結局、丸一日を使ってしまった。
「これを設置して蓋を取れば良いよ」
「何日で発病する」
「調味料になるシュラーフヴァンデルンと違って、ソムナムブレズムは毒だからね。一日もあれば発病するよ。だからこの解毒剤は必ず飲んでね」
「ビンでなく、撒いたらどうなる」
「土が雨とかで浄化されるまで発病し続けるよ」
「そんな強力で死ぬことはないのか」
「この病気で死ぬことはないよ」
それからも私は病気の説明をして、設置する場所などを解説した。
「この国にある街の数だと数日は掛かるな」
「解毒剤を飲むのは一日一回で良いよ」
「判った」
全員の分担を決めて、明日から設置をする事にした。
ビブラエスはイールグッドの家にも設置することになった。
翌日から、順次分担した通りに薬を設置していく。
4日掛かったが、無事に作った全ての設置が終わった。
最初に仕掛けた装置によって既に病人が出ていたよ。
別に私はイールグッドに会う必要もないから、どの様になったかは判らない。
何処かの錬金術師が根本的な原因を調査して、装置を全て撤去するまで残念ながらこの国では病気が発病する。
と言っても、ビンの中にある全ての液体が蒸発すれば、治療が済んだら病気はもう発病しないよ。