113 疫病の調査をする
私たちは長に会うために、その家を尋ねた。
そして、サルーザの案内で、私たちは一つの部屋に連れて行かれた。
そこには足にオモリを付けた二人の大人が居た。
「ゼファーブル。トイレはどうしてるのかなぁ」
アークシュリラが小声で聞いて来た。
「夢遊病の時は食事や排泄はしないよ。あれを付けていると云うことは今は発病中かなぁ」
「父と母だよ」
「判ったよ。それじゃ、少し治療をするけど、良いかなぁ」
「いいよ」
私は瓶の中に二人のヨダレを集めてから、アイテム袋に入っている薬剤をその中に入れた。
そして杖で数度ばかりその瓶を叩いた。
しばらくすると、ヨダレの色は濃い赤に変わった。
「アークシュリラ。この匂いなら知っているでしょ」
「この香りはシュラーフヴァンデルンだね。どこかに咲いているの?」
「今の時期にシュラーフヴァンデルンが咲くことは絶対にないよ。それに水気のない場所ならともかく、こんな水辺には咲かないね」
「誰かがこれを仕掛けたと云うの」
「季節が冬なら偶然が重なって、鳥や動物たちが体に付けていた花や種を落としたかも知れないけどね」
「原因は判ったけど、場所は?」
「アークシュリラなら判るでしょ」
「判るけど、ここでは出来ないよ。それに人が仕掛けたのなら、一カ所ってことも無いよね」
「そうだね」
私はシュラーフヴァンデルンの絵を描いて、サルーザに見せた。
「こんな花が咲いているか、落ちているのを見たことはある?」
「ないよ」
「そう、判ったよ」
原因が判ったから治療薬は作れるが、まだ渡す時期ではない。
しかし、騒がない様に眠らすことは出来る。
「サルーザ。両親が発病中は騒がない?」
「賑やかになるけど、しゃべれないよ」
「もし、うるさかったら、この護符を空に投げてね。出来るだけうるさい方のそばでやってね」
「うん、判ったよ」
私たちは長の家を後にした。
「ゼファーブル。シュラーフヴァンデルンの捜索をするの」
「探すのは面倒だよね」
「数が判らないからね」
「魔法でこの付近にあるこれらを一気に消すよ」
「それをすると犯人の手掛かりも消えるよね。ならば私がやるよ」
アークシュリラが私からビンを受け取り濃い赤になったヨダレに布の切れ端を入れて、脇差しでそれを突いた。
さすがにイールグッドの時みたいに、ヨダレを空中に撒くことはしない。
「ゼファーブル。これの反応がある所は、三カ所だね」
「三カ所もあったの?」
「よく分からないけど、反応は確かにそうだね」
この追跡はアークシュリラ個人と云うよりかは、剣が持つ能力と云うことだろう。
しかし、私がアークシュリラの剣を振り回しても一向に反応はしないから、アークシュリラが剣の能力を引き出していると云うことだね。
「じゃ、行こうか」
「そうだね。上空からでもある処は判るから、行こうよ」
アークシュリラが反応があった方へ進むので、私は大人しく付いていく。
「ここら辺だよ」
「じゃ、降りて探す?」
「そうするしか無いよね」
私たちはカヌーを着陸させて、周囲を捜索する。
非常に長い時間を消費して、石を積み木で家を作った見たいに囲った中にシュラーフヴァンデルンの種を砕いたモノと、多分ジーガの肝などが布袋に入れられていたモノを発見した。
「こんなことをするなんて信じられないよ」
「でも、これは自然には起こらないよね」
人為的にやらなければ、そんな状態には絶対に成らない。
残りの三カ所も、やはり人目の付きにくい場所に設置されていた。
「雨の度に濡れて、空中に撒かれる感じだね」
「これだけ有れば良いから、ゼファーブル、残りは消して良いよ」
「じゃ、遠慮なくやるよ」
私は杖を高々と掲げて、夢遊病のモノが居た処の少し先までを範囲にして、三つ以外のシュラーフヴァンデルン……この装置を消した。
やはり三カ所以外は、この仕掛けが無かった様だ。
消えた反応はしなかった。
「無かったね」
「じゃ、治癒の魔法を掛けたら、もう罹らないの」
「そうなるね。でも、魔法でなく薬にしようよ」
私たちは犯人探しより先に、サルーザの家に戻った。
それは、金の亡者の如き魔法使いに、これ以上お金を支払わない様にするためだよ。
私たちが、その魔法使いに怨まれても良い。
「原因は突き止めたけど、私たちは処理する事があるからサルーザ、一日一回この薬を飲ませて上げてね。三日で良くなるハズだからね。その時までには帰って来るからね。他の人には、出来るだけ治癒の魔法にお金を支払わない様に言ってね。私が絶対に治すからね」
「判ったよ。おねーちゃん、ありがとう」
私たちは長の家を出て、私はアークシュリラに言った。
「アークシュリラ、お願い。誰が仕掛けたか判る?」
「判ったよ」
シュラーフヴァンデルンは、ジーガの肝と血液、角の粉末などを混ぜて水に濡れなければ、とても綺麗な花を咲かせるし、良い香りもする。
それにシュラーフヴァンデルンは、調味料にもなっている。
その上、ジーガの肝や血液を一緒に煮込む料理は、この世界にある。
料理を作っても料理人が発病しないのは、その二つだけでなくてジーガの角を粉末にしたモノが絶対に必要だからだよ。