109 疫病が流行っているの?
アークシュリラが教えてレファピテルが作った甘藷の料理を食べながら、それぞれが感想を言い合った。
その感想の中には直ぐに改善することが出来ることも幾つかあるが、実際に作りながら検討しないと成らないモノもある。
アークシュリラとレファピテルはメモを取って、後で作りながら試すつもりの様だ。
「先に聞くべきだったが、ゼファーブルたちは、ここへどの様にやって来た」
ヴェルゼーアが私たちに聞いてきた。
「私たちは、カヌーを使ってやって来たよ」
「そうか、エバマ大河は通って無いのだな」
「通るなって書いてあったから通って無いよ。そこで何が有ったの」
ヴェルゼーアはビブラエスの方を見た。
「エバマ大河の周囲で、疫病が流行りだしたんだ。その疫病では死ぬことはないが、言葉をしゃべれなくなる」
ビブラエスが言った。
「それって言葉をしゃべれなくなるだけなの」
「ゼファーブル。ナニか知っているのか」
ヴェルゼーアが私に聞いてきた。
「うん。昔に私が居た街でも、同じ様な疫病が流行ったんだよ。その時は、言葉をしゃべれなくなって二ヶ月くらいしたら、夢遊病の様に徘徊しだしたんだよ」
「二ヶ月でか。私たちがあすこを通る前から流行っていたとしたら、ちょうど二ヶ月くらい前か。ならば今頃は……」
「可能性はあるな、ヴェルゼーア。私が確認してこよう」
「頼んだぞ、ビブラエス」
「ビブラエス、行くの? だったらこれを飲んでいってよ」
私はアイテム袋から薬ビンを取り出して、それをビブラエスに渡した。
「これは?」
「その時に私が作った薬だよ。掛かりにくく成るだけだけどね」
「ありがたく、頂戴するよ」
ビブラエスは数日して、調査に出発した。
私たちはヴェルゼーアの案内で街の中を散策して居る。
「どこも、のどかだね」
「ハルメニア王国内で二番目に栄えている街と言っても、ここは国境沿いの田舎だからな」
「良いところだよ」
「甘藷の葉や茎は捨ててるの?」
畑を見ていたアークシュリラが、誰に聞くではなく言った。
「そうですね。捨てると言うよりか、あの様にして畑の肥料と云う感じですね」
「ここには酒粕もあるから、あれも美味しく食べることが出来るよ」
「どう調理するのですか」
「茎は茹でて酒粕に漬けるだけだよ。その時に味噌も加えた方が良いかなぁ。葉っぱの方はお浸しとか炒めても良いと思うけどね。あの葉や茎を全て畑の肥料にすると、栄養分が高くなるよ」
「そうか、栄養を与えれば良いと云う訳でも無いのだな」
「畑の栄養が良くなって、他の作物を育てても良いけどね」
「食べる為でもあるが、蒸留酒の為でもあるから作れないと困るな」
「さっき味噌漬けと言ったけど、醤油漬けの方はどうかなぁ。上手く調整すればご飯に合うと思うよ」
「そうですね。毎回肥料にするのも問題ですから、イロイロ考えてみますね」
「なら手伝うよ」
「ゼファーブルとヴェルゼーア。私たちはやることができましたので、少し作業をしてきます」
「分かった。アークシュリラ、宜しく頼む」
アークシュリラとレファピテルは、調理に向かった。
私とヴェルゼーアは残って散策を続けることにした。
「ヴェルゼーア。私たちを呼び寄せた本当の理由を言ってくれないかなぁ」
甘藷の料理なら三人がファリチスに戻って来ても作れるし、疫病なら逆に来るなと言うべきだ。
自分たちの国で流行って居るなら、私を呼んで治療に当たらせることも考えられなくもないが、今は違う。
「実は従兄弟が先日だが病で亡くなって、父の有力な後継者が居なくなったのだ。前だったら養子を迎えれば済んだことだが、ハルメニア王国では貴族制は廃止されたからそれも簡単には出来なくなっているからなぁ」
「どう言うこと」
「言った通り貴族制の廃止は、リルファン国王がやり遂げたんだ。なので元貴族から養子をとると言っても、今は庶民だ。そう言う、どこの馬の骨とも分からんモノに民が従うと思うか」
貴族と言うだけで、一部の庶民は畏れ敬ってくれる。
しかし、つい先日まで貴族と云っても、庶民と成っている現在ではそれは無理な相談だろう。
元々は貴族で有ったが、今は領主でないモノから選ぶことになるんだよね。
貴族制が廃止された時に、自分からその地位から降りたモノなら民のことを考えて統治をしてくれるかも知れない。
しかし、地位が無くなったことで周囲のモノたちによって降ろされたモノに任せたら、民のことより自分たちのことを考えるので民が可哀想だ。
それに民のことを考えているモノは、自分からは進んで受けないだろう。
そうなるとヴェルゼーアがやるしかない。
「判ったよ。ヴェルゼーアが私たちを呼び寄せたのは、二度とファリチスには帰らないって言うことだね」
「判ってくれたか。でも、私も父と相談して領主はオーラガニアの様に4年くらいの任期にして、選挙で選ぶことも進言している」
「その手もあるよね。でも、やらないのは、大公が納得しないの?」
「違うぞ。父はそうしたいが、取り巻きの説得に時間が掛かって仕舞っているのが実情だ」
「そこは納得させなくても良いと思うけどね。文句を云うモノはここを良くしようと云うより、自分たちのことしか考えてないのだからね」
「それもそうだな。でも、父は長い間我が家の為に尽くしてくれたその連中に、辛く当たれないからなぁ」
「ヴェルゼーアが大公に代わって、説得に当たればしがらみはないんでしょ」
「そうだが……それなら私でなくて、適任なモノがいるぞ」
「ならばその人に任せれば良いよ」
「お前とアークシュリラだよ」
「ナンで私たちなの! 私たちはハルメニア王国とは関係無いよ」
「ゼファーブル、この国に入ってからのお主らの待遇はどうだった」
そう言えば……