108 焼き芋はやっぱり石焼きだね
私たちは長であるアリマーズに、当分の間ハルメニア王国に行くのでここを留守にすると伝えてからハルメニア王国へ向かった。
いくら底板が有っても地上からの攻撃が怖い。
その為に、普通では魔法や飛び道具が届かない距離を取って、私たちは飛行していった。
もちろん街道とか街は出来るだけ避けて、人目の付かないコースを選んでいるよ。
そして途中からは、海上を進む事にしたよ。
馬よりも早いが、馬ならば両股で馬を挟んでいるし、常時足の位置が変化する。
しかし、カヌーはずっと同じ様な体勢なので、足や腰が逆に疲れてしまう。
それに、さすがに眠りながらカヌーを飛ばすことは出来ない。
そのためにハルメニア王国までの旅程は、まだまだ掛かるので私たちは適宜休憩を取って、足や腰を伸ばす体操もしているよ。
初めて海上に出たが、ハルメニア王国とオーラガニアがあるそれぞれの半島はこんなに近いのだと、今更ながらに私は感じた。
それに海は両方の半島に挟まれているので、とても穏やかだ。
これなら、船で荷物を運ぶのも大変では無さそうだね。
何日か野宿をしてハルメニア王国の領土に入った。
更に高度を地上から気にしなければ判らないくらいの高さに上げて、私たちはヴェルゼーアがいるファンセン公爵領にある中心都市のタジユシューマを目指す。
「あの街だよね」
「さっき着陸した際に聞いたが、塔が3つある城が建っている街と言っていたからそうだよね」
「ゼファーブルはヴェルゼーアたちの居所を知っているの?」
「知らないけど、城で聞けば教えてくれると思うよ」
「それにしても古い城だね」
「多分だけど、ヴェルゼーアの家も元々は辺境伯だと思うよ」
「でも、今は大公なんだよね。ずっとここに住んでいるのかなぁ」
「城って建て替えるのが手間だから、ずっと使っているんじゃないかなぁ。それに外国と隣接している所の城だと、作り替えるのも簡単じゃ無いしね」
「だよね」
私たちは街の城壁が見える草原に着陸した。
さすがの私でも城壁の脇まで行くようなことはしないよ。
カヌーをアイテム袋にしまって、ここからは徒歩で行くことにした。
街に入るために、門を警護して居る兵士に身分証を兼ねているギルドカードを渡した。
しばらく待って居ると、上官らしきモノが出てきて私たちに尋ねた。
「私どもは、今日あなた方がお越しになるとは、全く知らずに居たものですみません。本日も大公殿下は不在ですが、差し障りが無ければ、どのようなご用件でタジユシューマへお越しに成られましたかお聞かせ頂けませんか?」
「ヴェルゼーアから呼ばれたから来ただけだよ。彼女の居所を知っているなら教えてくれると嬉しいな」
「ヴェルゼーア殿下ですか、本日は蒸留所にいらっしゃいますが」
「それは、どこら辺なの」
畑なら探せば良いが、蒸留所がどの様な建物かが判らない事には探しようがない。
建物が大きいのか、小さいのかも判らないからね。
「ご案内致しますので、馬……」
「あっ、馬はないよ。歩きだからね」
「でしたら馬車を用意しますが」
「なんなら、馬を借りられたら嬉しいけどね」
「ご用意します」
上官らしきモノが指示をだし、兵士が私とアークシュリラ分の馬を伴ってやって来た。
「では、私がご案内致します。私は東門の警護隊長をしてますイゲールと申します」
「よろしくね」
私はイゲールの先導で、ヴェルゼーアがいる蒸留所に難なく着くことが出来た。
「では、少々お待ち下さい」
そう言って、イゲールは建物の中へ消えていった。
「ウチの蒸留所より大きいね」
「この国全てとはいかなくても、そこそこに行き渡らすなら小さいくらいだよ」
「そうかなぁ。で、甘藷の蒸留酒だけを作っているんでしょ」
「普段はそうだと思うけど、ブドウやエールなど他の蒸留酒も作るんじゃないの」
「そうだね。ブドウなどは一年中、収穫が出来ないもんね」
「トウモロコシでは作らないと言っていたけどね。蒸留酒が出来れば、果物を漬けた果実酒やみりんも作れるよね」
ヴェルゼーアたちが中から出てきた。
イゲールが馬に乗って帰ろうとして居る。
「ありがとう、イゲール」
「いいえ、仕事ですからお礼は不要ですが、有り難く承っておきますね」
「ヴェルゼーア殿下。これで私は仕事に戻ります。失礼します」
イゲールが馬に乗って行った。
「ヴェルゼーア、良い人だね」
「まあな」
「今回、私たちを呼んだのはどうして」
「そうだな、先ず蒸留設備を見てくれ」
蒸留設備が八台も並んでいる。
その全てがヴェルゼーアが改良したモノだ。
これなら純度が高いアルコールを作れる。
「この設備を稼働させて作る事には成功した。しかし、レファピテルが甘藷の料理を作っても、全く領内のモノの受けが良くない。これは食べ慣れていないから慣れの問題だが、手っ取り早く浸透させるにはどうしたら良い」
「ヴェルゼーア。ハルメニアの人々はナニをメインに食べているの」
「パンやパスタだな」
「パンやパスタかぁ……きんとんは作ったことあるよね」
「レファピテル。有るよな」
「甘藷だけのヤツですよね」
「それをパン生地で包んで焼けば、甘藷アンパンが出来るよ。パスタには細かく切ってベーコンとかを和えれば甘藷パスタになるよ。でも、石で焼いただけでも美味しいと思うけどね」
「石で焼くのか」
「1、2センチメートルの加熱しても割れない石で、ゆっくりと焼くんだよ」
「フライパンじゃダメか」
「それでも作れるけどね。石を熱して作った方が、私は美味しいと思うけどね」
話していても食べた事のないものの話では、想像することもできない。
いくらアークシュリラがボキャブラリー豊富に上手く話しても、味わいや食感は十全に伝わらない。
それで、作業員の食事を作る所に行くことになった。
その道すがら、アークシュリラは石をいくつも拾っていた。
「じゃ、一つはフライパンだけで、もう一つは石を入れて焼くよ。私がやっても良いけど、レファピテルが作ってね」
レファピテルがアークシュリラが拾い集めた石をフライパンに入れて甘藷を乗せた。
もう一つは、直にフライパンに入れて焼きだした。
「レファピテル。柔らかくなったら出来上がりだよ。たまに指で押して見て」
少ししてフライパンの方が焼きあがった。
「こんな感じに半分に折って食べるよ。一本丸々食べても良いけど、今日は数が足りないからね。ビブラエス、ゼファーブルどうぞ」
アークシュリラが半分に折ったのをそれぞれに渡した。
レファピテルも半分にしてヴェルゼーアに渡した。
「これはこれで充分に美味しいと思うぞ」
アークシュリラがもう一つのフライパンの状態を確認してから、甘藷を半分にして渡した。
「確かにこっちの方が、中まで柔らかくなってますね」
「皮はこっちの方が、あまり焦げてないから食べやすいな」
「そうなんだよ。石を使うと表面だけでなく、中心まで熱が伝わるんだよ。でも、これはお八つだよね」
「我々の国では食べ慣れていないのですから、最初はこう言ったモノで甘藷の味に慣れるのも良いかも知れませんね」
「石を集めて、売り出すか」
「石が無ければ、粘土を丸めて陶器みたいに焼きだしたヤツでも良いよ」
「そうですね。変な石を焼いて爆ぜたら事件ですからね」