107 ハルメニア王国へ行く乗り物を作る
ゴーレムを作るのは、本来は非常に手間が掛かる。
まず土や粘土で、人などの外枠になるものを作らなければいけない。
そして動力源にナニを用いるかで、必要となるモノが変わってくる。
簡単なのが、魔石を使う方法である。
しかし、その魔石もウルフの様に弱い魔物のモノだと、ゴーレムにしても直ぐに停止してしまう。
なので、そこそこの魔物の魔石を用意する必要がある。
魔石以外だと呪文か魔法陣を使用して動かすけど、よく理解していないとゴーレムが言うことを聞かずに暴走してしまう。
まあ、どっちも一長一短があるんだよ。
私は取り敢えず、杖を鳥に変形させてみる。
その鳥は、まるで生きている様だが、自分から動くことはない。
いくら魔物品でも、さすがに生き物になる訳がないよね。
この杖が生き物に変わるのだったら、アークシュリラの剣でも出来そうだ。
それに、もし私たちを乗せられるくらいの鳥に成ったとしても、私の魔法の威力は杖がないのだから随分と落ちるよね。
攻撃をされない様に張る結界の範囲も狭くなるし、飛ぶ周辺だけだと移動させながらなのでもっと狭まることになる。
やっぱり、杖に乗って行くことは諦めた方が良いだろう。
ならば私たちが乗るモノを作るしかない。
蔓草でも案外丈夫なモノが作れるから、それでかごでも作るかなぁ。
薬草入れの籠なども、蔓草を編んだモノで出来ているからね。
薬草入れは、もうナン年も使っているが壊れることがない。
多少乱暴に扱ってもそんなに簡単には壊れないから、私たちが乗るかごにしても平気だと思う。
私は大量の蔓草で、薬草入れの巨大なモノを作ることにした。
これを浮かすのは飛翔で出来るが、浮くだけで動くことはない。
まして希望通りに進むことは有り得ない。
やっぱり念動力を使うしかないよね。
これは空間属性に成るから難しい。
火、水、土、風の基本属性の魔法って、錬金術と基本的に同じだから私も理解することが出来る。
しかし、光、闇、時そして空間の属性は、錬金術の応用でなく本当に魔法の領域だからね。
でも、そんなことで躊躇してはいられない。
「念動力!」
作った巨大な薬草入れに乗り込んで、私は魔法を唱えた。
ゆっくりと、それは空に上がっていった。
じゃ、海の方へ進めるかなぁ。
上手く進んでいる。
良い感じだね。
少しの間あっちこっちへ動かして見たが、思ったほど魔力は減っていない。
これならハルメニア王国までは行けるが、街中では徒歩になる。
更に馬を二頭乗せても魔力的には大丈夫だが、巨大な薬草入れの強度よりも馬が大人しく乗っていられるかが心配だね。
上空で暴れて、乗り物を壊したら悲惨なことになる。
だったら移動している間は、馬を眠らせるかなぁ。
馬の問題は残るけど、これでエバマ大河を通らないでハルメニア王国までは行ける。
それならば着陸してアークシュリラの処へ行こうと考えて、離陸した私の家の上空へ戻って来た。
あっ、アークシュリラが空を見上げている。
これはマズイよね。
敵が攻めてきたと思って、魔法を放つかどうしようかと考えているみたいだ。
急いで着陸しないと私の身に危険が及ぶ……この距離でアークシュリラが撃つ魔法は雷撃位しか思い浮かばない。
一本の雷撃なら避けることも出来るが、アークシュリラの場合は四方八方から複数の雷撃が襲ってくる。
そのため避けることは至難の業だね。
どうかアークシュリラが雷撃を撃たないでいてくれと、私は念じた。
アークシュリラは乗っているのが私と判ったのか、攻撃をしてこなかった。
良かった。
「アークシュリラ、エバマ大河を通らないで、ハルメニアまで行く方法が見つかったよ」
「それで行くの?」
「そうだけど」
「見上げてたから判ったけど、下からの攻撃には無防備だね」
「自慢じゃないけど、上からも無理だよ。で、魔法を放つのを止めたのはナゼ?」
「これって1人か、多くても2人乗りだよね。上空に居るときに攻撃するより、地上に降りてきてからの方が楽だと思ったからだよ」
「もし、私が敵で上空から攻撃をして来たらどうするの」
「平気だよ。あの距離からの攻撃ならば、反撃魔法が使えるしね」
「そう。でも、これで行ったら、あっちで馬が無いんだよね」
「馬かぁ……ゼファーブルはカヌーって知っている?」
「川とかを下る一人乗りの?」
「そう、それ。この籠をカヌーに出来る?」
「出来るけど。アークシュリラは念動力は使えるの?」
「これって、念動力で動かしてたんだ。ジャイアントヴェスペの魔石と飛行の合わせ技で動かすことは無理なの?」
「そう言えばそんな魔法も有ったね。魔石を使えば、そっちの方が簡単だね」
私は木から2艘のカヌーを作った。
蔓草を編んでいるのと違い。底が板に成っているから、下から矢が飛んで来ても多少ならば防ぐことが出来る。
そして私は持って居たジャイアントヴェスペの魔石に、飛行の魔法を注入する。
これで魔力の消費は随分と抑えられるし、短時間なら自動で運転も出来るよ。
但し、自動運転と言っても旋回や停止はしないで、ずっと直進するだけだけどね。
それに念動力と違い、飛行はモノを飛ばす魔法だからスピードも出せる。
「どうかなぁ、こんな感じで良い」
「良いね。これなら宙返りも出来るし、横を見れば地上も攻撃出来るよ」
「確かにね。剣はどうするの?」
これでは、アークシュリラは剣を帯びたまま乗船することが出来ない。
使わないのかなぁ。
「船に乗っている時は、物理攻撃をする事はないと思うんだよ。鳥たちを追い払うとか、地上からの攻撃なら魔法を放つよ」
「アークシュリラは飛行を発動させながら、他の魔法を放てる様に成ったの?」
「出来るよ。でも、魔石の力があるから常時私が魔法を発動しなくても良いよね」
「そうだね。曲がりたいとか旋回の時に、魔法は少し使えば済むからね」
アークシュリラは、飛行も使える様になったんだね。
「これじゃ馬を運べないけど、どうする?」
「馬って必要かなぁ。街の中はさすがに無理でも、それ以外の所での移動ならこれで良いよね」
ハルメニア王国内での街と街の間の移動は、カヌーで行い。
もし、飛行することが無理だったら、その時になって考えれば良いと言うことらしい。
「ならばこれで行く?」
「えっ。その為に試運転をしていたんでしょ」
「そうだけど……」