106 ヴェルゼーアからの手紙
イファーセル国とサバラン聖教国との戦いは気になるが、ハルメニアで事件が起きたと言ってヴェルゼーアが今し方慌てて旅立った。
レファピテルも一緒に行ってしまったから、ナニが有ったのかを聞くことができない。
アークシュリラがやって来た。
「行っちゃったね」
「ナニが有ったのだろうね」
あの3人が行かないと行けないことで、私たちが必要無いことは限られている。
それは、ハルメニア王国内での政治的なことと言うことだ。
いくら仲がよいとは云え、うちわのことは頼まないし言わないよね。
それは寂しいけど、仕方がない。
「戦いかなぁ」
「だったら私たちも連れて行った方が良くない?」
「剣や魔法じゃなく、3人の力が必要な戦いだよ」
「???」
アークシュリラは一帯ナニを言っているのだろう。
「きっと3人は甘藷を見に行ったんだよ。蒸留の仕方はまだ研修中だから、蒸留設備の点検とか料理を先に教えにいったって処だと思うよ」
「だったら私たちも誘ってくれても、良いと思うけどね」
「私たちが居たら、それに掛かり切りになれ無くて私たちの相手もしないといけないよ。3人だけなら次々と問題を解決できるしね」
「まあ、そうかなぁ」
「それに甘藷を植える所は不毛の土地って言ってたから、部外者の私たちには知られたくもないよ」
「私ならば、見れば判るけどね」
確かに領内のどこに植えてどういった保管をするとかは、政治的な思惑が有るのかも知れない。
「だったら、なおさら連れて行かないよ」
「料理ってアークシュリラが教えたヤツだけ? 改良とかはしてないの」
「レファピテルが人によっては天ぷらは難しいからと云って、卵白を泡立てたメレンゲを入れて揚げてたよ。でもそれってフリットだよね。外はカリカリで中はふわふわという食感になるから魚とかでも作れると思うよ」
「フリットかぁ。確かに天ぷらより、食感のバラツキは少ないよね」
「それにゼファーブルが作った、生姜の粉とかを入れて味にバリエーションを持たしていたよ。カレー粉は混ぜる香辛料によって味が変わるから、現地で作ると思うけど……」
「生産が出来ないなら仕方ないけど、生姜などの粉も錬金術師なら作れるから現地で作った方が良いよね」
「乾燥させてから粉にするから、どこで作っても変わらないけど、確かに他国で作る必要はないよね」
「こんな話をしてたらカレーが食べたく成ったよ」
「じゃ、このパンを食べてみて、試しに作ってみたんだよ」
「揚げパン?」
「中にカレーが入っているよ」
「へー、カレーのパンね。ナンで揚げてあるの?」
「揚げないとカレーにパンが負けちゃうからだよ。バケットくらい芳ばしければ良いけど、普通のパンだと無理だね」
確かにコッペパンではカレーの量にもよるが、多分カレーの圧勝だろう。
「このパンって結構カレーが入っているね」
「限界まで入れてみたんだよ」
「売り出すの?」
「売るよ。ゼファーブルみたいに突然カレーを食べたいって思っても、今頃カレーを食べたら夕飯が食べられなくなるからね」
「それは、ありがたいな」
「でも、こんなに肉とかを入れると、その日に売る分しか作れないけどね」
「物珍しいから売れると思うよ」
それから数週間が過ぎて、街道を往来する人にも変化が出始めた。
最近はやたらと戦士の人が北へ行く。
戦争をしているどっちかの国で雇ってもらい、稼ごうと言う気持ちだろう。
しかし、南へ行く多くの魔法使いは、ナニをしに行くのだろう。
魔法使いが南へ行っても、特にこれと言うモノは思い浮かばない。
まさか、避難して居る訳でも無さそうだ。
イファーセル国は魔法を軽く放つのでは無くて、サバラン聖教国を本気で殲滅させる気の様だ。
その為に、敢えて周囲から力攻めをして居ると多くの旅人か言っていた。
それも、ありの這い出る隙もないほど厳重に包囲をして居るみたいだ。
それを聞いたアークシュリラは『もしかしたら、イファーセル国は負けるかもよ』と言っていた。
私としてはサバラン聖教国にも、イファーセル国にも恨みつらみはない。
戦争なんかは、ほどほどにやって早く終わってくれた方が良い。
私が一人で寛いで居ると、大きな双頭の鳥が窓の向こうから私を見ている。
ナニごとだ。
ここはレファピテルが結界を張っているから、魔物が来ることはないハズなのに……
でも、この鳥は見た覚えがある。
一体全体どこで双頭の鷹を見たんだろう……あっ、噴水だ。
レファピテルが作った彫像がこんな形だったなぁ。
そうすると、ヴェルゼーアが放ったモノなのだろうか?
近寄って見るが、暴れたり逃げたりもしない。
大人しく仕付けられている。
窓を開けて2つ有る頭を撫でると。脚にナニかが巻き付いている。
手紙なのかなぁ。
私がそれを取るとファルケは大空に舞い上がって、南の方角へ飛んでいった。
私が中を読むとそこには『アークシュリラと共にハルメニア王国へきて欲しい』と書いてあった。
それで、アークシュリラの処へ行って、ヴェルゼーアからの手紙を見せた。
「アークシュリラ、行く?」
「手紙にはエバマ大河方面には来ないで、来て欲しいと書いてあるよ」
「そうなんだよね。ハルメニア王国は半島に有るから、大河を通らなくちゃその先にあるハルメニア王国には行けないよね」
「それに上流なら良いとも書いてないけど、大河を通るとかじゃなく、その付近に近寄らないってことだよね」
なんでファルケは、私からの返事を待っててくれなかったんだろう。
エバマ大河を通らないでハルメニア王国に行く方法は、船で行くしか無い。
でも、ナゼと理由が書かれてない。
「アークシュリラ。鳥たちをヴェルゼーアの元に行かせられる。配達とか、こないだ書類を探した魔法とかで……」
「出来なくもないけど、目的地が動くから可哀想だよ」
「それもそうだね。私はやっぱり行かないけど、アークシュリラはどうする」
「一人で船に乗っているのは辛いから、私も今回は行かないよ」
それで私たちは船で行くつもりが無いので、今回は行かないと連名の手紙を書いた。
そして伝達の魔法を掛けるために、形の良い枝を探した。
「ゼファーブルは、飛ぶ生き物以外でも配達を使えるの?」
「アークシュリラが使っているのは、風属性の配達だよね。それとはちょっと違うヤツだよ。私のは水属性の伝達だよ。それにこれは魔物に掛けて荷物を運んでもらう事が出来るのだから、他のモノでも出来るハズだよ」
「でも、枝は独りでには動かないよ」
「こうすれば動くし、飛べるよ」
杖で一回撫でて枝を飛ばしてみせた。
「どういう仕組み?」
「錬金術に物質を変えるのが有るんだよ。それの応用かなぁ。ゴーレムと基本的に同じような感じだね」
「ゴーレムなの? それも空を飛ぶことは出来るの?」
「重たいから、羽が無いと無理だね」
「ほうきは?」
「ほうき自体なら出来るけどね」
「その言い方だと、人が乗るのは無理そうだね」
「無理だよ」
「アークシュリラの杖は? そんな立派な翼が生えているから飛べないの?」
「やったことないよ」
「ならばやろうよ」