104 文章を見付ける
私はイールグッドを呼び寄せる魔法を発動してから、アークシュリラの方を見て言った。
「これで少ししたら、イールグッドはやって来るよ」
「じゃ、倒れて居たところってここだっけ?」
「そう。草が折れている所だね」
アークシュリラがその付近を調べている。
「ナニを探してるの?」
「イールグッド以外の痕跡だよ。判らなくなるからゼファーブルは来ないで良いよ」
アークシュリラが地面に顔を近付けて探している。
そしてナニかを拾っては空に投げて、脇差しでそれを突く様な動作を数度やっていた。
そして、また地面にうつ伏せて、同じことを繰り返している。
アークシュリラは作業が終わったのか、はたまた諦めたのか私の近くにやって来た。
「ここで盗られているね。双方とも魔法を打ち合ったようだね」
「ここでやり合ったってことは、イールグッドは犯人を見てるの?」
「ゼファーブルは、相手に魔法を撃つとき見ないの?」
「当然、見るよ」
え~と、確か……イールグッドは犯人は知らないと言ってたよね。
知らない……知らないか。それじゃ、見てないとは言っていないじゃないの……
イールグッドが犯人を見てたなら、こんなに困ることはない。
捜索は簡単だ。
しばらくしてイールグッドはやって来た。
「二人もここに居たのですか」
「ちょっと気になることが有ったので、調べてたんだよ。それでイールグッド、犯人は見たの」
「知らないと、さっき話しませんでしたっけ」
「犯人の素姓を知っているか、知らないかを私は聞いてないよ。見たか見てないかを聞いているんだよ」
「それでしたら見てますよ」
「そうだよね。ここで魔法を打ち合ったよね。火球はどっちが放ったの?」
アークシュリラが質問をした。
「火球ですか……それは、どちらも放っていません」
「だったら氷矢は?」
「相手です」
「ならば、あなたは土壁を作ったよね」
「そんなことも判るのですか?」
「質問にだけ、正確に答えてくれる」
「そうです」
「ゼファーブル。だったら、もう犯人は見付けられるよ」
アークシュリラは私の方を見てそう言った。
「そうだね。あんたが変なことを云うから、無駄な時間が掛かってしまったじゃない」
「済みません」
「で、私たちが取ってくる間、大人しくここで待っててね」
「連れて行ってくれないのですか?」
「うん、連れて行かないよ」
「何でですか?」
「まず、犯人を見付けたら、私たちの許可なく勝手に攻撃をしそう。そして攻撃、防御共に魔法の威力が弱いから足手まといになる。更に致命的なのは、あんたが馬を持って居ないから移動速度が遅くなることだよ」
「でも、相手は5人も居たのですよ」
「それってここに来た人数なの?」
「違います」
声が小さく成った。
「あなたは私たちとのやり取りが出来ないんだよ。判る? 今は格好を付ける場面でも面白く話す必要もないんだよ。なのにそれに気を取られて、正確に話さないといけないことがおざなりに成っているんだよ」
「……」
「判ったの? 返事は?」
「判りました」
蚊の鳴くような声で答えた。
アークシュリラが氷矢の魔力が残っている土を空中に撒いて、脇差しでそれを突いた。
「じゃ、行って来るよ」
そう言って馬に乗って走り出した。
私は置いてきぼりをくらいそうだが、これだけはイールグッドに云わなければならない。
私たちが戻って来たときに何処かへ行ってられては、呼び寄せなければならないから時間の無駄だ。
「イールグッド! 食糧は少しだが置いていってやるから、どこにも行かずに必ずここで待っていろ! もし居なかったら文章は私が処分をする。それに通信使なんだから、ウルフとかが来たら自分で追い払うくらいは出来るだろう!」
私は騎乗のままでイールグッドにキツく言って、アークシュリラを追った。
アークシュリラの進んだ方向に、私は馬を疾走させている。
そんなに離れてはいないと思うんだけど……あっ、居た。
ようやく追いついた。
「時間が掛かったね」
「ちょっと強く言っといたよ」
私にはナンの変哲もない草原だが、アークシュリラにはさっきやって居たことで道順が判る様だ。
周囲には、いくつかの村も有った。
最初は目的地と思ったが、アークシュリラはナニも言わずにそれを通り過ぎた。
今度は前方には林が有って、その傍には1軒の家がある。
結構、進んだ気がするが、まだ進むのかなぁ。
これは杣工の家だろうから、どうせここでも無いのだろうなぁ。
アークシュリラが私の方を見る。
「あの家の様だよ。どうする」
「寝て貰おうか」
「そうだね。家族が居たら可哀想だよね。ゼファーブル、お願い」
私は呪文を唱えだす。
「眠りを誘う神に願う、その力を私に与え給え! ここに居る私たち以外のモノにしばしの眠りを、人形化!」
辺りに紫の靄が掛かって、その家の周辺を覆った。
やっぱり闇に属する魔法は万が一のことがあるといけないので、詠唱出来るのであれば詠唱をしているよ。
アークシュリラと私はその家に入って行く。
間取りは村の家らしく、玄関の先は土間に成っている。
そこには3人の神官が寝ている。
「この家は、木こりのじゃ無かったんだね」
「3人も居るから、違うと思うよ」
3人が眠る前に、ここの住人に布教活動をしていたとは思えない。
それに土間には、火はついていないが煮炊きをする竈もある。
「アークシュリラ。書状の有る場所は判るの?」
広くは無いが結構散らかっているので、私はアークシュリラに聞いた。
「多分、その机の上に有るよ。ゼファーブル、回収をして置いて」
アークシュリラは奥の部屋の扉を少し開いて、中を覗く。
そして、苦々しい顔をして扉をしめた。
「アークシュリラ、ナニが有ったの?」
「神官が沢山居たよ。見る?」