103 文章の捜索をする
私たちはイールグッドと別れて、どうするかを話し合うことにした。
「イファーセルのモノがガーゼル辺境伯のマークの入った文章入れを持っていたかだけど、アークシュリラはどう思う」
「辺境伯からの文章を受け取ったんでしょ」
「そう、返事をね。他国への文章は通常なら国王名で出すと思うんだよ」
「普通の文章だったらそうだね。いくら偉くても元首でなくってただの貴族だったらね。地位も取り上げられるかも知れないからね」
「そうなると文章を奪う必要があるのは一人しかいないよね」
「国王だね。でも、その文章が伯爵領での商売の許可状とかだったら、発行してもおかしくは無いよね」
「イールグッドは文章の内容は詳しくは知らないと言っていたから、許可状じゃ無いと思うんだよ」
「そうか。申請したらいくら通信使でも内容は分かるよね」
「そう。で、イールグッドがウルフとかヴァルチャーにどこも食べられていないところを見ると、一日以上は倒れていないと思うんだよ。正確な時間は判らないけど、長くても倒れて数時間程度だね。だからエンラント王国の王城があるエンストラへ行こうよ」
「そこへ行ってどうするの? 王城に入ることなんか私たちに出来ると思っているの?」
「そうだけど、書類を取ったモノが向かう先はエンストラだよ。急げば途中で追いつくよ」
「そこへ、行くならイールグッドを連れていこうよ。その方が良いと思うよ」
「イールグッドがいた方が良いかもね。だったら会うまでの間どうする」
「なんかそそっかしそうだったから、もしかして途中で落としたのかも知れないから見てみようよ」
私たちは、途中で落としてしまったと云う可能性に賭けて、イールグッドが倒れていたところから東側に進んだ。
「ゼファーブル。もし、辺境伯が国を裏切る文章を出して居ると、大変な事になるんじゃないの」
「そうだと思うよ。なんせガーゼル辺境伯の領地は、エンラント王国の全領土の20パーセントもの広さがあるからね。分離しても国としてやっていけると思うよ」
「辺境伯って云うからには、兵隊も強いんでしょ」
「国境の警備をしているからね。強いはずだね」
私たちは草原から街道に行き着いた。
この街道を行けばエンラント王国に辿りつけるから、徒歩のイールグッドが他の道を通ったとは思えない。
それに人通りも結構あるので、これ以上先に落としていたら絶対に拾われている。
「やっぱり無いね」
「そうだね。ゼファーブルは文章を奪うとして、相手が倒れるまで待つの?」
「私だったら眠らせるかなぁ」
「そうだよね。魔法が使えなければ、剣で黙らせるよね。イールグッドは眠らされていた訳では無かったよね」
「見たところ、それに刀傷もなかったよ。だとすると狙われていた訳では無いってことなの?」
「もしもだよ。あすこでイールグッドを襲って文章を奪うのは、誰にも見つからないし騒がれても助けも来ないから良いと思うんだよ。でも、諜報のモノだったらあんな処に放置しないで確実に始末していると思うんだよ。自分で殺さなくても多少の傷を付ければ、血の匂いで動物や魔物が早くやって来るからね」
国に帰った後で、取られたと騒がれる方がマズい。
万が一、顔を見られていたら尻尾を掴まれてしまうかも知れない。
「それじゃ、期限の一週間って……」
「私のカンだと出店する期限だね」
確かに国だったら通信使など使わないで、通常は表沙汰に出来ないモノだと諜報のモノで、公表されても良い場合は使節を送る。
「そうなると文章はどこにあるの?」
「商売敵が奪ったとすれば、その人の所だね。イールグッドの雇い主を強請るつもりなら、まだ奪ったモノが持っていると思うよ。計画の杜撰さから言って、奪ったモノが未だに持っていると思うんだ」
「それじゃ、見つけるのが大変に成ったよね。犯人の居所はここいら一帯と云うことだからね」
「ゼファーブルはうわさの魔法って使えるの」
「風魔法のやつ?」
「それでイールグッドの奪われた文章は良く出来た偽物って流せば、もう一度盗りにくるよ」
「辺境伯の印とかは模造したら死刑だよ。そうまでして偽物を作る必要はないから、それはバレるよ」
「ダメか。いいと思うんだけどなぁ」
「でも、良いかもよ。持っていかれたのは本物でも偽物でも構わないけど、もう一通有るって流せば襲ってくるかもよ」
「どう言うこと?」
「昔だけど両親が露天を出したときに、確か許可状と携帯出来る許可証が有ったと思うんだよ。今回は許可証は発行されてないから絶対に盗られてないよね」
「後でイールグッドに確認してみようよ」
イールグッドが通ったと思う所には落ちて無かったし、イールグッドは盗るモノの心当たりがなさそうなのでこれ以上は探し様がない。
何もしないで明日の夜まで待つのは時間の無駄だ。
「アークシュリラ、やっぱりイールグッドを捜して、うわさを流そうよ」
「そうだね。時間がムダだよね」
私たちはイールグッドが作った蟻塚の様なモノがある所へ戻って来た。
当然のこと、そこにはイールグッドはいない。
「じゃ、呼び出すよ」
私はアークシュリラにそう言ってから、蟻塚を手で撫でて魔力の残りを探る。
そしてある程度分かったので、魔法を発動させるために杖を掲げて言った。
「この魔力を持つモノに届け、胸騒ぎ!」