9 調査を続ける
私たちは扉の中にあった空間を探索している。
それで、最初の部屋にあった扉を開けた。
「これは納戸でなくって、廊下だよね」
「向こうに広そうな空間もありそうだから、廊下だと思うよ」
そこは人がすれ違うことは無理をすれば出来るが、空間的には2人立てるかくらいの狭さである。
そこを通って行くと、台所や食事をするスペースなどがあった。
ここは家主たちのプライベートスペースの様だね。
そこにも作り付けの家具以外はナニもなかった。
ここに台所と食事をするスペースが有るのだから、玄関のあった部屋は店舗の可能性が大きい。
そうなると、ベッドを置くところが、これにはない。
「ゼファーブル、もう部屋は無いんだね。ここで暮らしていた人って、どこで寝ていたんだろう」
アークシュリラも同じことを考えていた様で、私に問うてきた。
「そうだね。まさか入って直ぐの空間に、ベットを置いていたとは思えないよね」
「そうだね、これじゃ使い勝手が悪いよね」
台所を一番奥にするのは判るが、冬は煮炊きの火も貴重な熱源になる。
なので、石壁に面して竈を作らないで、さっきの部屋との境に作った方が良い。
無駄な廊下を作らないで、食事をするスペースをもっと広く取った方が便利かと思う。
それに自然に出来たほら穴とか洞窟でなく、ここは魔法の空間、そう異空間だ。
なのでもっと自由に空間を配置することが出来ると思う。
なので、入り口の直ぐにあった部屋が店舗では無くて、もし寝室だったらそこに玄関を作る意味は薄い。
このままの間取りで玄関を作るとしたら廊下だ。
「アークシュリラ。もしあるとして、どこに部屋はあると思う?」
私はアークシュリラに聞いた。
「私がここを設計したとしたら、食事をするここか……いや、さっきの使い勝手が悪い廊下だね。階段ならそこに有った方が便利かと思うよ。客も使うとなると玄関から直ぐの部屋だけどね。でも石の壁がここの広さの限度なら、それはないと思うよ」
「廊下ね。じゃ、そこを丁寧に調べようか」
ナンらおかしな処は見付けられない。
やはり魔法だから無理なのかなぁ。
今の私たちには、魔法で隠された空間を見付ける方法はないし、そう云った経験をしたことも一度もない。
アークシュリラの言うとおりに石の壁がこの空間の範囲なら、ここの造りはそれほど大きい訳ではない。
調べた感じではどこの部屋も、隠し部屋に行けそうなおかしな点はない。
しかし、暖炉はここにも、玄関から直ぐの部屋にも無かったよね。
ここは、冬になると寒いだろうなぁ。
それとも、魔法の空間だから平気なのかなぁ。
竈があの位置にあるのだから、私だったら暖炉を廊下に設置したくなる。
待てよ、この廊下だったら壁に細工すれば、玄関に続く部屋にもプライベートエリアにも暖気を運べると思う。
広くないここで、わざわざ廊下を作る必要もない。
もし暖炉があるなら、ここは廊下じゃなかったと言うことだ。
アークシュリラは、剣の柄で壁を叩いている。
まだ諦めた様子はない。
私も怪しい壁を杖で突いたり叩いたりしてみた。
音が違うと言えば違う気もするけど、同じと言われれば反論する根拠はない。
最後に、その壁を思い切り突いてみた。
杖は壁に刺さってしまった。
ヤバイ。
「ゼファーブル。今何をしたの?」
アークシュリラが突然言ってきた。
「何って壁を思い切り突いたけど……」
アークシュリラがやってくる。
「壁に穴を開けちゃったんだね」
「私も開くとは思わなかったんだよ」
「でも、壁に穴が開くってことは、向こう側はナニも無いってことだよね」
そうだ。壁に穴が開くということは、この壁の裏側は空間と言うことだ。
室内の壁だからそういう造りかも知れないけど……
「そうだね」
「じゃ、向こう側が確認出来るくらいに、もっとこの壁の穴を拡げようよ」
アークシュリラの意見に私は頷くと、その壁に開けた穴へダガーを突き刺す。
杖が刺さるくらいだから、簡単にダガーも刺さった。
「これは薄い板だね」
「じゃ、この先は私がやるよ」
私が少し広げた穴に、アークシュリラは剣を入れて穴を更に広げていった。
向こう側が見えるくらいになったので、ランタンの灯りで塞がれていた空間を照らす。
そこには上に行く細い螺旋階段や暖炉が見える。
「やっと、隠し部屋を見付けたよ!」
「そうだね」
それから何度も剣を突き刺して手が入るくらいに広げてから、板を力任せに引っ張った。
そして私たちはその板を破壊して、一人通れるほどの穴を作る。
それにしても、これでは簡単に二階に行くことは出来ない。
閉じ込めたと言うか、二階は使わなくしたと言う感じだね。
もう、来てからずっと壁とかを随分と叩いていたし、壁を壊す際にも発声したり、音をたてたりもしている。
そのため、もし人が居れば出て来るか、臨戦態勢を取っているはずだね。
私たちは一人ずつその空間に入って、前後に並んで階段を上っていく。
「ちょっと、アークシュリラ。なんで武器を持っていない私が先頭なの?」
「灯りを持って、先に階段を上り始めたからだよ」
そんなことを言っていたら、二階に着いた。
ここも広い空間があるだけだ。
そして奥に扉が二つある。
出てきてくれていないなら、こちらが確認をしない訳にはいかない。
私が聞き耳をすると、一つからなにやら音がする。
アークシュリラも真似て扉に耳をつける。
「最初は音のしない方にしようよ。音のする方は獣臭と言うか変な臭いがするので、開けるなら後だよ」
「そうだよね」
もう、気にする必要は無い。
私は扉を一気に全開にして、中をランタンで照らす。
この部屋には、沢山のモノが所狭しと詰め込まれていた。
それは水晶や何かの頭の骨とかが無造作に置かれている。
動物の頭蓋骨なんかを使うのって……一目で良くない魔法使いの品々と分かるよ。
隣の扉を無視して、めぼしいモノを持って行くかなぁ。
この部屋を探せば、ローブと杖くらいなら有りそうだ。
呪われている可能性はあるけどね。
まぁ、アークシュリラが使えるモノはないかも知れないよね。
「どうする?」
「どうするとは?」
「隣の扉を開けて、音の正体を確認するか、開けずにめぼしいモノだけもらって帰るかだよ」
「音の正体を確認してから、もらうってのは選択に無いの?」
本当にアークシュリラって、あんたは……
「じゃ、それも入れて……」
アークシュリラは不服そうだ。
「はいはい、開けますよ。開ければいいんでしょ」
「ゼファーブル、いつでも準備は良いよ」
アークシュリラは抜刀して身構えている。
見た目だけはベテラン剣士だよね。
私が扉を開けると、一人の女性が手足を縛られて床に転がっている。