Last stage★ようこそ! 放課後ロマネスク☆スター
※挿絵あり
デビューイベントは都内の某商業施設で行った。他のメンバーは分かりやすく可愛い子、美人な子ばっかりで私だけ特殊枠だなって思っていたからとても不安だった。
しかし意外と……、だった。そのデビューイベントは初めて観客の前で歌って踊った日。ステージに立った瞬間、緊張で昨晩食べた物を戻しそうになる。尚、朝は食欲が湧かなかった。
だが私のメンバーカラー、青のサイリウムを振ってくれている人がちらほらいたのだ。私を呼ぶ声が聴こえて止まっていた体中の血液がわっと沸騰するかのような感覚を、まだはっきりと覚えている。
余談だけど実はあの文化祭の後、かなりモテた。女の子に。自分で言うのもなんだけど澪の創ったファンクラブはかなりの大所帯となり、そんなことあるか? ってくらい女の子達が寄って来た。その頃はまだ演技でも堂々とすることが出来なくて、毎日毎日誰かが何かをくれるので怖かった。次第に好意だと心から理解できるようになって、少しずつ喜べるようになっていった。
私の名前を呼ぶ方へ目線を投げる。やっぱり女の子が多かった。手を振る。声が沸く。応援してくれてるんだ、私も放課後ロマネスク☆スターで良いんだって、自信に繋がった。それから会場全体をゆっくりと見渡して、なるべく全員と目が合うように努力した。一人も漏れることなく楽しんでほしい。そんな気持ちを込めて。
そしてその気持ちは今も変わらない。全部のステージを大事にしようって、来てくれた全員を大事にしようって、グループの活動指針の1つにもなっている。熱い気持ちを込めて、込めて。私はセンターに立った。この舞台に立つまで時間が掛かってしまったけど、ファンの皆様をがっかりさせた日もあったと思うけど、付いてきてくれて、応援し続けてくれて、本当に本当にありがとう。
パッと会場一面が青色になる。この瞬間が、たまらなく気持ち良い。みんなが私を見てくれている。私達を見てくれている。キラキラと揺れるサイリウム。ふといつか見た海の青さを思い出した。太陽に照らされて光り輝く水面。まるで私達みたいだな、と小さく笑う。
「世界に轟け 艶めいたハスキーボイス! 涼し気な瞳 微笑む姿は王子様 見つめられたら最後? ガチ恋不可避 知れば知るほどぉ沼!」
「好きだなんて嬉しいな 私も同じ気持ち みんなのこと 愛してる! 独り占めしたい? そんなことしなくたって 私はいつでも君を見つめているよ」
「愛の深さはマリアナ海溝 みんな大好きリーダーみなもォォ!!!」
観客の声に全身が震えて、涙をぐっと堪える。何度この曲をやっても、観客が全員で声を揃えるのを聴くと視界がぼやけてしまうのだ。
この曲の作詞は私が担当している。四人の紹介パートは時を経て少しずつ変わってはいるものの、デビュー前合宿でうんうんと頭を捻って考えたものだ。
彼女達のことを表現するのは難しくなかった。言葉選びや、音の流れは難しかったけど。しかし自分のこととなるとイマイチよく分からず。私ってなんだろう。個性ってなんだろうって何日も苦戦した。
だけどある日の朝、稽古場へ行くと珍しく私より先に四人がいて。そしてホワイトボードに歌詞が書いてあった。
「おはよ、みなもちゃん! これ、ひな達が考えてみたの! どうかな?」
私は自分のことを王子様と思ったことは一度もなかった。なので抗議をした。
「これ……あの嬉しいけど、私とかけ離れてない?」
するとみんなして首を振った。
「かけ離れてない! こんな感じだよ!」
「え……私こんな……ナンパの人みたいなこと言ってる……?」
「大体こうだよ!」
「私達のことは散々良い風〜に書いておいて、みなもちゃんだけ逃げられませんよぉ。それに、この路線でいくべきだよぉ」
「うんうん! ことり達に欠けているイケメン枠、みなもちゃんにしか任せられないでしょ!」
「イケメン枠……いや荷がちょっと重い……」
「往生際が悪いですわ。別に無理なさらなくてもありのままでこんな感じですわよ」
と、全員に押し切られた。
「てか、え、リーダー?」
「そう! よろしくね、リーダー!」
「リーダー!!」
私達はマネージャーに、「合宿を通して自分達でリーダーを決めるように」と言われていた。それは配信の視聴者さんも知っていて、リーダー予想のようなこともされていたらしい。
そして私はこの時に、彼女達が私をリーダーに選んだのだと知った。
「合宿中みんなに気を配って、揉めた時も解決してくれたのはみなもちゃんでしょ! みなもちゃんがグループのこと大好きなの、みんなに伝わってるよ」
「みんな……」
「というわけで、リーダーが決まりましたのでパーティーにします!」
「え、今からダンスのレッスン……」
「ひなパーティーやりたい! やりたくない人ー」
「いませーん!」
かくしてこの様子が配信され、私はリーダーとして認知されるようになった。ファンの方々も祝福してくれて、応援の声が届いていた。
「いつでもここにおいで ようこそ! 放課後ロマネスク☆スター」
曲が終わるとまた拍手と歓声が起こるけど、感傷に浸る間もなく次の曲の前奏が流れ出す。
楽しい時間はあっという間、というのは本当で。気付けばアンコール直前まで全ての曲を終えていた。最初は1曲でヒィヒィ言っていた私達も、今ではセットリストの最後まで楽しむ事が出来る。流れる汗、張り付く服、全てが満ち足りて心地良い。挨拶のためステージに並ぶ。
「みなさん! 本日は私達、放課後ロマネスク☆スターの日本武道館公演に足を運んでくださり、本当にありがとうございましたー!」
「ありがとうございましたー!!」
「ねー、アンコールも嬉しいね!」
「いーっぱい拍手してくれたの、届いてたよーっ!」
ことりがそう言い手を振ると、観客席からも手を振り返してくれる。
「では今日の感想を陽那多ちゃんから」
「はぁい! 天道陽那多です! 今日ははるばるありがとうございます! 念願の、ひな達にとっても、多分みんなにとっても、念願の武道館。ひな達、今日のこととーっても楽しみにしてました! セットリストもたくさん話し合って、今日に向けて何度もリハを重ねて、早くみんなに武道館の景色を見せたいなって、待ちに待っていた今日この日です! いつも応援ありがとうございます。これからもみんなのこともっともーっと大きな舞台に連れて行けるように頑張るから、ずっと応援しててねー!」
わあっと拍手が起きる。
「比嘉悠亜です! 皆様お暑い中、ありがとうございましたあ! 外もすごい暑いけど、会場の熱気もすごくってえ。皆様が大いに盛り上がってくださったようで、私達すごく嬉しいですう! ちゃんとお水飲んでますかあ? 遠慮なく飲んでもらって……。今日初めて私達のライブに参戦しましたという方ー? わあ……はじめましてえ、うふふ。次も熱い熱いライブをお届けするので、また会いに来てくださいねえー!」
「妃宮白雪です。皆様のお顔を見ていると、今日も楽しんでいただけたようですわね。わたくしが楽しんでいたかどうかも、貴方がたでしたらすぐにお分かりいただけることでしょう。わたくしは縁あって様々な活動をしていますけれど、皆様が楽しそうにしているこのライブでのパフォーマンスが一番の生きがいですわ。これからも一緒に素晴らしい景色を見に行きましょうね。ありがとうございました」
「伏見ことりですっ! わあぁ、今日もいーっぱいお兄ちゃん、お姉ちゃんが見に来てくれたんだねっ! ……って台詞も何度言ったかっていうお決まりのあれですけど、デビューからうん年。結構最近はことりより若い子とかも来てくれてるなって、実感してます! 色んな方がことり達を知ってくれてとっても嬉しいです! まだまだたくさんの方に知っていただけるように、老若男女問わず好きになっていただけるように、もっともっと頑張ります! ありがとうございましたあー!」
みんなのコメントそれぞれに拍手をいただき、私の順番がやってきた。
「放課後ロマネスク☆スターリーダー、海原みなもです! 今日も皆様にお会い出来たこと、とても嬉しいです。日本武道館は私達の中で1つの目標として、今までやって来ました。この会場が決まった時は、ついにか! という感じで。最初は驚いたんですけど、絶対やってやるぞって私達全員かなり気合十分で。そんな想いが皆様に届いていたら嬉しいです。
過去に色んなインタビューでお話しているのでご存知の方も多いと思いますが、私が初めて立ったステージは母校の文化祭のステージでした。あの時は体育館が物凄く大きく見えたけど、今日ここに立って改めて、武道館の大きさ、そしてその大きな大きな武道館を埋めてくれた皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます」
「ありがとうー!」
「みんなありがとねー!」
全員でお辞儀をしてから、手を降り会場に感謝を伝える。
「私達はデビュー当初「学生アイドル」という括りでやらせていただいていて、長い間応援していただいたおかげでついに……ついに……?」
「ことりが?」
ことりが両手を上げる。
「はーい! ことりが大学入学決まりましたー!」
「拍手拍手ー」
「ほんっっっとーーーに大変でしたのよ! ことりったらお勉強させようとすると寝ちゃうんです」
「ふふ。お嬢がね、すごくお勉強見てあげていました」
「ありがとうございます」
「よきにはからえですわ」
ことりがお嬢に深々と頭を下げる。
「こうして皆様が私達の成長を見守ってくださり、応援してくださり、今の私達がいます! これからも私達はアイドルとして、放課後ロマネスク☆スターとして走り続けますので、どうぞよろしくお願いいたします。それでは本日は私達のライブにお越しいただきまして、本当にありがとうございましたーっ!」
「ありがとうございましたーっ!!」
舞台袖に捌ける。私はみんなが舞台から降りたあと一番最後に履けて行き、お辞儀をして袖に戻って行く。鳴り止まない拍手。聴こえてくる「アンコール」の声。
一度水分を取り息を整える。急いでアンコール用の衣装に着替えると、全員で顔を見合わせる。アンコールの声援が嬉しくて笑みが溢れる。
「陽那多ちゃんっ、行こうっ」
今度は私が陽那多ちゃんの手を引くと少し驚いたような顔をして、そして一番良い顔をした。
私はどこまでも走っていける。彼女となら、メンバーとなら、ファンのみんなとなら。あの頃はどうせ未来なんてって、将来を考えることも出来なかった。だけど陽那多ちゃんが私を見つけてくれたから。暗い場所から引っ張り出してくれたから。
あまりの眩しさに目をつぶった事もあったけど、進むスピードについていけなくて立ち止まった日もあったけど。全てを乗り越えたから今がある。今があるから私がいる。
もう俯かない。これは私が太陽に出会う物語。そしてーー太陽と共に未来へひた走る私の物語。
最後までお読み下さり、本当にありがとうございました!
お楽しみいただけましたでしょうか?
感想やブクマ、評価など非常に励みになります。
また次の作品でもお目にかかれたら嬉しいです!
以下ややながいあとがき。
今回はツイッターでお世話になっているいでっちさんにお声掛けいただきまして、今企画「歌手になろうフェス」に参加させていただきました。
何を隠そう筆不精でして。
すごく気が向いた時と、毎年のなろうで催されるされてるホラー企画に参加させていただくくらいでしか執筆しておりません。
そんな私を誘ってくださったいでっちさんに、まずは大きな感謝をこの場でお伝えさせていただきます。……ここで??
ヒューマンドラマジャンルでの参加必須ということで、ヒューマンドラマとはなんぞや?? から始まりました( ´・֊・` )
ヒューマンドラマジャンルで上げた過去作はあるにはあるのですが、ジャンルに困って……そうした……ので……ヒューマンドラマが分からないまま書き始め、書き終わりました。これはヒューマンドラマで良いのでしょうか。
いつものことですが笑なかなか閲覧数も伸びず、書き終えられるか不安な部分もありました。全然予定になかったシーンが増えていくし……。ですがなんとか企画最終日までに完結することができて、今は安堵の気持ちでいっぱいです。
文化祭までが伸びに伸びてしまって、放課後ロマネスク☆スター結成後はかなり駆け足でした。本当は作中でみなもちゃんが語った出来事、全部ちゃんと書く予定だったんです。なのですが、ちょっとあと何ヶ月掛かるかって感じでしたので、ちょっと巻いていただきました。
最終話は最初に目指した場所に着陸できました。なので、結構満足しております!
みなもが前を向いてくれて、前に進んでくれて、わたしも生みの親としてとても嬉しく思っています。
ずっと彼女たちを描けたらいいなって思ってたんですけど、最終話投稿日にやっと描きました笑。
前のページで絵師さまのイラストを載せたので、ちょっと自作のものを載せるのは迷ったのですがせっかくなので……
ライブ前のオフショ風味です♡
彼女の物語を応援してくださった方々、本当にありがとうございました。またどこかで!




