18th stage★武道館……決まっちゃった……
※挿絵あり
「私は白雪お嬢さまの護衛ですぅ! なぜか護衛長から指名されたので不審には思っていましたけどぉ、学生アイドルとして活動なんて出来ませんん!」
ゆったりとした話し方からは想像がつかない程に、腕や足に筋肉がしっかり付いているのがスーツ服の上からでもよく分かった。背はスラリと高く、前髪をセンターで分け長く明るい色の髪を緩くウエーブさせている。
「比嘉、わたくしは知っておりましたわ」
「白雪お嬢さまあ! な、え、騙しました!?」
「騙すなんて人聞きが悪い。わたくしが直々に、推薦いたしましたのよ。比嘉のその美貌をボディーガードのままにしておくのは勿体無いですわ」
「なんてことを……なんてことをぉ……私、私23ですよおぉっ!?」
「ハア!?」
小さな女の子が縦ロールなホワイトブロンドの髪を後ろに払いながら優雅に言った。比嘉さんの主張に驚きの声を上げたのはマネージャーだった。
「ちょっと、23歳とか聞いてませんよ!?」
「聞かれてませんからねえ! でもぉどう見ても大人ですよ、私!」
「大人びてんなとは、そりゃ、思っていましたけども!」
「とにかくぅ、流石に自称学生アイドルは厳しいですう!」
「いけるわよ、比嘉」
「お嬢様ぁ」
揉めている。比嘉さんは言われれば大人にも見える。だが、なんとか誤魔化せるだろう。大学生とか言っとけば、ギリギリ……。
「ねえー、それよりグループ名ダサくない? もちっと可愛いのなかったの? てかグループとか聞いてないし! ソロでやれるし!」
可愛らしい声が響く。こちらも小柄で華奢な女の子だった。小さい顔にきゅるきゅるの目がより大きく見えた。黒髪で前髪をまっすぐ切り揃え、頭の上に2つのお団子。顔の横には細い三つ編みを垂らす個性的なスタイルだが、彼女のアニメから出てきたかのような外見によく似合っていた。
「伏見ことりさん、ですね? ことりさん、貴方の可愛らしさはグループの中で妹キャラとして可愛がられることでより引き立ちファンが増えますよ」
「妹キャラ……ファンが増える……ま、まあ悪くないわね」
ことりさんと呼ばれた少女は、満更でもなさそうだった。
「そっちのあんた達は」
「あっ、始めまして。天道陽那多って言います! こっちは親友の海原みなもちゃん」
「ども」
親友! 親友! 甘美な響きであった。
「仲良しこよしやってたら、売れないわよ!」
「そうなの? 有名になれるように一緒にがんばろうねっ」
陽那多ちゃんの太陽スマイルが炸裂して、ことりさんは「うう、まぶしい」と顔を手で覆う。
「な、何この太陽属性ど真ん中の女……センターの座は渡さないからねっ」
私達の初対面はこんな感じでわちゃわちゃと騒がしかった。これはまとまり悪いな、とこっそり思った。
しかし数年後。私達はすっかり1つのグループとして纏まっていた。
最初は歌の仕事よりもバラエティに呼んで頂くことが多かった。布面積が小さくてキレてマネージャーに止められたこともあった。小さなライブハウスを満員に出来なくて喧嘩になった日もあった。比嘉ねえにパパ活疑惑が出たり(実際には白雪のお嬢のお父さん、つまり比嘉ねえのボスとの打ち合わせ)、お嬢とことりが大喧嘩して顔に傷を作りマネージャーが失神したり(二人がお互いに中々譲らずついに私の雷が落ちた)、順風満帆ではなかった。
ある年にはアイドルフェスで対バンに呼んで頂いたものの、全然だめで盛り上がりも負けていたし、なんならいつも見る多くはないファンの方々も相手のアイドルさん達の出番の方が盛り上がっていたまである。
それでも頑張っていると、いつからか段々とステージそのものを楽しめるようになっていった。あの文化祭のように。そうするとお客様も盛り上がる。イベントも満員になることが増えてきた。
そしてなんと、驚くことに! あの思い出の文化祭で歌った曲『歌ウ蟲ケラ』を歌うバンドさんから曲を作って頂けることになったのだ!
曲と同名のバンド、歌ウ蟲ケラのミオタニアンさんがスタジオに現れたときは卒倒するかと思った。動画配信サイトで知った時から、彼女たちのステージをもっと見たいと思っていた。あれからテレビで出演されていると気になって録画していたのだ。
その本人が目の前に現れたのだ。烏滸がましい気もするけど、初めて私を見て泣いちゃった澪の気持ちが分かった。倒れるかと、泣くかと思った。
マネージャーが依頼をしたため来てくださったのだが、それを頼み込んでくれたのは陽那多ちゃんだった。
私の気持ちを知ってて、直談判してくれたのだ。
しかも何故だか無料で楽曲提供していただけることになったのだ。それを聞いたマネージャーはそれこそ泣いて喜んだけど、プライドの高いお嬢はぷんぷんしていた。
「わたくし達が子どもだからって優しくされたんですわ! まだまだってことですのよ、何を喜んでますの!」
自尊心のかけらもないマネージャーに対して相当憤慨しているようだった。お嬢は何か美味しいものを送りつけないと気が済まないと、マネージャーと比嘉ねえを急かした。
なんのご縁か、その後も何年かの内に恩返しと言わんばかりに数曲依頼して、以降はきちんと料金を納めさせて頂いた。
そして放課後ロマネスク☆スターを結成し、数年が経過した今。私達はやっと武道館に辿り着いた。
マネージャーがある日震える声でこう言ったのだ。
「どうしよう……ツアーラスト、武道館……決まっちゃった……」
事務所の小さなレッスンスタジオで日課であったトレーニングを行ってへろへろになっていた私達は最初事態を飲み込めず、崩れ落ちるマネージャーを眺めることしか出来なかった。
しかし高校生になり見事に華奢な体躯を保ったまま背を伸ばしたことりが、即座に身を起こしマネージャーに詰め寄る。
「なんて言った!? 武道館? 武道館つった!?」
「ちょっとことり、あんまり乱暴にすると武道館の前に刑務所に入れられちゃいますわよ」
その後はもうお祭り騒ぎだった。陽那多ちゃんがお祝いのコーラで酔っ払い、マネージャーと比嘉ねえは普通に酔っ払った。ことりとお嬢はどちらがより多くのオレンジジュースを飲めるかで競い、私はアルコールに強くて酔えなかった。そうそう。私ももうお酒を飲める年齢になった。
日本各地でツアーをさせていただき、今日に至る。
楽屋ではみんなが平然を保とうとおかしなテンションになっていた。
「やっほー来たよ。武道館おめでとー!」
「澪ちゃん!」
「天道さん、こないだの雑誌見たよ。可愛く撮れてたね」
戸を開けたのは、すっかり逞しくなった澪だった。彼女は進学後海外に留学、実力を認められ学生のうちにメイクアップアーティストデビューを果たし、名だたるスター達のメイクをして名を挙げたあと日本に帰国。今では私達なんて到底及ばない程の有名人。MIOとして、お母様共々活躍していた。
「ひゃあぁぁ海原さん! ライブ衣装!? やだ麗しい!! 色んな綺麗な人見てきたけど、やっぱり私は海原さんが一番!」
「澪。相変わらず熱狂的で嬉しいよ」
ある時から澪さんと呼ばなくなった。彼女はファン一号の座を今も大事にしてくれている。私にとっては大親友であり、大事な大事なファンなのである。陽那多ちゃんに「友達っぽく呼んでほしい」と言われて名字で呼ぶのを辞めた。すると学生時代の澪はずるいずるいと駄々を捏ねたのだ。数年掛かってこの呼び方に収まった。
「あれ、汐里は?」
「まだ見てない。もう来てるの?」
汐里さんは大学在学中、自身でファッションブランドを立ち上げた。就活も視野に入れては見たものの、汐里さんのお父さんが「パパのお金、汐里が使わないで誰が使うの!?」とごねたらしく、「せっかくなら甘えとくか」と会社を設立したらしい。お金持ちめ。しかししっかり者の汐里さんである。数年の間にお父さんにお金を返して泣かせたそう。もちろん汐里さんのお父さんは、娘にあげたお金がきっちり帰ってきてしまった物悲しさに泣いたのだ。なんじゃそりゃ。
汐里さんはいくつか会社を経営していて、その内の1つで衣装などを取り扱っている。今回の衣装は汐里さんの全面バックアップの元、アイドルなら誰もが一度は着たいと憧れるデザイナーさんに依頼をし、汐里さんの会社で制作をしてくれた。こんなに良い生地の衣装が着れるのかと、特にことり辺りがはしゃぎ倒していた。
「おじゃましまーす。あれ、みんな集まってんじゃん」
「よ! 美人社長!」
「やめてよ、陽那多。ま、事実だけど」
「汐里ぃー、見てえ! どう? 可愛くない!?」
「可愛いに決まってるでしょ。うちで作ったんだし、着てんの陽那多だし」
陽那多ちゃんと汐里さんの仲も継続して良好。やはり幼馴染には敵わないかと思うことも多々。だけど、汐里さんといる時の陽那多ちゃんがとても幸せそうなので満足もしている。
そう言えばいつかの陽那多ちゃんのお誕生日の時。自称パパラッチの汐里さんが贈ったプレゼントと、彼女が用意したお誕生日会の会場がとても一般人が手を出せる代物ではなく、ネットをざわつかせた。陽那多ちゃんはそんな騒ぎになると思わず、ただ嬉しくて写真をSNSに載せてしまったのだ。
総額を特定した方がいて、陽那多ちゃんにとんでもない彼氏がいるのでは、みたいなまずいざわつき方をしてしまった。
汐里さんが自身の企業アカウントで「とんでもない彼氏って私のことか?」と誕生日会の会場で一緒に映る写真を載せると、今度は汐里さんちの会社や彼女自身が立ち上げた企業、プロジェクトなどが話題になる。その規模から確かにこれは彼女からのプレゼントのようだと、陽那多ちゃんの件は無事に沈静化した。
挿絵は「歌手になろうフェス」の企画で柚癒さまよりいただきました。掲載許可済みです。無断転載禁止♡
可愛く描いていただきありがとうございました!




