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美味しいものを食べたかっただけなのです

 グランデ家での生活も落ち着いたのでお祖父様の許可を取って街に行く日々の再開です。

 あまりいい顔では無いけど私のやりたい事を否定したりはしない。でも侯爵家の人間になったのだから無茶な事危険な事はしないようにって。


 フランメ家からとグランデ家からとではちょっとだけグランデ家の方が街に出やすい。

 タウンハウスはお祖父様の希望で交通の弁がいい高級街寄りなの。

 フランメは多少王宮寄りだけど伯爵家なので少し表通りから奥まっている。


 私はいつもの平民スタイルでお手伝いさんっぽく裏から出入り。

 高級街を抜けるあたりまで護衛さんが追いてる。要らないっていうのはダメらしい。


 いつものパン屋さんまで小走りで向かうと近所のおじちゃんおばちゃんが、

「久しぶりだね!」

「おう、危ねぇぞ~」

って声を掛けてくれる。こんな気軽い場所がやっぱり私には合ってる。


「シャロン!」

 ちょうど焼きたてパンを窓辺に並べていたデニーが扉を開けて迎えてくれた。

「デニー、やっと来れたよー」

 勢い余ってデニーに飛びつく私をしっかり抱き止めてくれる。パンのいい匂いが鼻にふわっと漂ってくる。


「おやおや、デニー。焼きたてになっちまったねぇ」

 奥からおばちゃんが出てきて揶揄う。いつもの感じが嬉しい。

「あれ?デニーなんで真っ赤なの?」

「なんでもない!!」


 早速デニーと品切れのパンを焼く準備を手伝う。コネコネ・・・この感触がたまらない。ふとみるとおばちゃんがシチューパイ用に生地を用意してるのに気がついた。


 あの夢の世界のおやつパン・・・。


「おばちゃん!!パイシートの作り方教えてくださいいい」

 お砂糖は高価だから、甘いパンはほとんど無い。干果物やナッツ入りがある程度なの。

 甘いお菓子パン食べたい!!


「ジャムって今ありますか?」

 ふんふんと!鼻息荒くしちゃう私におばちゃんは苦笑い。

「あるにはあるけどあまりたくさんは無いよ」


 以前ジャムが欲しくてお祖父様にお砂糖おねだりしてプラムチェリーのジャムをここで作らせてもらった。それからごくたまにジャムパンデーがあってお高めだけどすぐに完売しちゃう人気パンなの。


「お砂糖ってすぐ買えますか?」


 お砂糖も高いけど蜂蜜も高いので甘いおやつは庶民街ではあまり無い。


「デニー、一緒に会に行ってきな」

 お手伝いもそこそこに買い出しに出ちゃってごめんなさい。おばちゃんはジャムパンのこともあってわりと思い付きを叶えてくれる。今もデニーにお金を渡そうとするので、慌てて止めた。

「良いんだよ。ジャムパンの売れ行きもいいし、投資ってやつさ」


 良いのかな?って悩んでたらデニーが「さっさと行くぞ」って手を引っ張った。


 行く道筋で、親元から親戚の家に引っ越しが済んだ事と、これからは以前ほどでは無いけど、気軽に街に出られる事を伝えた。

 ちょっとだけ気の毒そうにされちゃったけど、あの家に残ってるよりは今の環境は良いって説明したら「そっか~」って言ってくれた。


 商業ギルドの一角に高価な調味料の棚があって。庶民街での高価な品物の取引は個人店ではしてないって教えられた。輸入品らしい。なんて事。

 デニーは精算して持って来たリュックにお砂糖2キロを仕舞った。


 帰り道にりんごとベリーを買った。ここは私が買うって主張したのに。

「シャロンちゃん、男に恥かかせちゃいかんよ」

 って、果物屋のおじちゃんに言われちゃって撃沈。いちごをおまけして貰ってパン屋に戻った。


 おばちゃんに作りたい物のイメージを相談。りんごの甘煮とベリージャムを用意して。パイシートにバターを乗せて砂糖を織り込んで薄く層を重ねて行く。

 りんご入り、ジャム入り、プレーンと用意して上にお砂糖をかけて焼いた。


 待ってる間に他のパンの仕込みをお手伝いして。

 おばちゃんのシチューパイでご飯タイム。と食後にさっき頂いたいちごをデザートで。


 美味しいパンの香りに包まれてのご飯。最高に幸せ。おばちゃんのシチューは最高に美味いのだ。お芋がホクホク。


 休憩が終わって、焼き上がりのパイを確認したら甘いバターの香りで幸せ。

 みんなで味見。ザクっとパリっと。

「・・・・・・」

 そういえばかなりお砂糖とバター使っちゃって高価すぎるお菓子・・・。

 いけない!これは知ってしまったらいけないおやつ・・・。

 

「これは庶民街で売ってはいけないねぇ」

 あちゃー。やらかしてしまったみたい。


「このプレーン?ってやつならお砂糖減らしても十分美味しく出せそうだね」

 切り替えが早い!!早速試すってパイ生地を作り始めた。


「すっげ!こんな甘いのに甘酸っぱさがあって変わった食感でおもしれー」

 デニーがニコニコと食べてくれてよかった。私ももう一っ個プレーンを取って食べる。お砂糖控えたらクロワッサンってやつになるのかな?

 

 甘い匂いにお客さんが反応して覗いてくれたけど、出来たばかりのパイは売ったらまずいって、ジャムとバターをパンに挟んだものを急遽売ることに。デニーがずっとジャムを煮込むことになっちゃって。お砂糖が切れそうになって終了。


「ほらこれは祖父さまたちにお持ち帰りしな」

 って、パイと大麦パンとかたくさん持たせて高級街の入り口までデニーに送って貰った。


 高級街で朝付いてくれた護衛さんが待っててくれて、パンを持ってもらう。

「デニーまたね!」


 お家に着いてすぐ、護衛さんに少しパンを渡して、リビングルームに入った。

「お帰り。シャロン」


 視界にキラッと眩しい金色が入ってくる。

「・・・」

 なんか座ってるだけで光ってるの無茶苦茶目立ってますけど?どういう現象なのかしら。

 ナナにパイを少しだけオーブンで焼いて貰って欲しいと伝えて。

 お祖父様と伯父様がお部屋に入って来てハグしてくれる。

「お帰り」

「あー。私もそうすれば良かったね」

って、ルーシェンさまが言うのでびっくり。家族じゃ無いのでダメですが!?


 ナナがパイとお茶を運んできてくれたので着席して。

「お祖父様。今日はいきなり思い付いてしまって、デニーのお店でこのパイを作っちゃいました」

 売りに出しちゃいけない魅惑のおやつについてちょっとご報告。


「おお、甘い香りだね」

「美味しそうだね」


 3人ともひとくち食べて無言になってしまった。お貴族さまでもヤバいヤツなの?


 


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