マダムもお手上げなほど?
応接室で伯父様とマダム・ポントリネールがお話をするのに私も同席する事になった。
「グランデ侯爵さま、ワタクシ長い間教師をして参りましたが初めて敗北を感じておりますの」
マダムはげっそりとしたお顔でそう仰った。
「またワガママが過ぎるご令嬢を預かったと気楽に考えておりましたのよ?貴族の令嬢なんて大体は自己顕示欲の塊ですからね」
ご愁傷さまですって思うくらい想像が付く姉の行動。
「親の躾などで自分で行動を決めることができないだとか、自分が偉いと選民意識が高いのも良くある話です」
お人形タイプと傲慢タイプ?
伯父様は無言で相槌を打ちながら聞き入ってる。
「キャンディーさまは共感力や協調性が著しく欠けておられます。人がどう思うか、自分がどう思われているかなど全く考えに及ばないのです」
自己中だとは思っていたけどそんなに?
マダムは淡々と背筋ぴっしりのまま語り続ける。
「生まれ育ちと言うよりは個性・・・本質と申しましょうか?感情や思考が一般的な令嬢とは全く違うのです。今までも難しい子はいましたけど、歩み寄りを一切見せなかった子はいなかったのです」
お姉様は規格外の令嬢だったようです。
伯父様の顔が地味に青くなってきている。
「力及ばず申し訳ありません。キャンディーさまは修道院の方が余程マシなようねと昨日出て行かれましたの。もちろん護衛に付き添わせ修道院までお送りしましたわ」
礼儀作法、お掃除に簿記など何処かに嫁ぐための基本を叩き込んでいたけど、お勉強は嫌い。マナーって美味しいの?掃除なんてメイドの仕事よって全部否定しちゃったらしい。
「・・・修道院が朝早く起きて掃除してお祈りして食事当番もあるってしらないのか・・・」
「まこと、ワタクシが至らず申し訳ないですわ」
伯父様もマダムもズーーーンと落ち込んでしまった。
「マダム・ポントリネール、お久しぶりですね」
急にルーシェンさまが入ってきた。執事が入れたんだろうけど。・・・眩しい。
「あら、ルーシェンさま。せっかくお話を頂きましたのに申し訳なかったですわ」
「いや、マダムが無理ならもうこの国じゃ無理だよ」
にっこりと穏やかに話してるのに何故か黒い。
「修道院からは逃げられないように監視がついてるし、どうしても出たいと言うなら気の強い女性が好きといっていたターラス国のクローダ男爵あたりに嫁いでもらおうかな」
ターラスはちょっと遠いし気候がこことは全然違うから暮らしにくそう。
「マダム、世話を掛けたな。強烈な女でも学べば良くなると思ったが無理なものは無理なのだな」
伯父様がそう言うと、マダムが肩の荷が落ちたと言った感じで笑った。
「シャロンさまとキャンディーさまは性格が全く違いますのね。ワタクシ今後は教師を引退して穏やかな令嬢を集めてまったりお茶をしたりしたいですわ」
引退!お姉様ってば伝説クラスの教師の心を折ったのね・・・。
「エイミーさまにも一度お会いしましたが彼女はお話しすれば理解できる聡明さがございましたわ。ワタクシの弟子が教育についていりますからご安心くださいませね?」
エイミーはまだ考え方を矯正出来るんだね。あのお家じゃお母様やお姉様を真似る方が生きやすかったからそうしてただけなんだろう。
「マダム、ありがとう。貴方のおかげで幸せになっている女性は多くいる。貴方の意思を尊重していただきたいが、まだまだ教師として頑張って頂きたいものだ」
ルーシェンさまがそう言うとマダム・ポントリネールは目を少し潤ませてしまった。
それから少しお話をしてマダムはこの場を辞した。
「はぁ、キャンディーだけ強烈だったのか」
伯父様がちょっと落ち込んでるけど、お母様とお姉様は瓜二つ。お母様の方が器用ってことだと思っている。
まぁもっと高位の男を希望してたようだから一応鼻を折られたのかもしれないけど。
お姉様は取り巻きの男性の中だけ女王だったからちょっと勘違いしちゃったと思う。
美しければ誰からも好かれるなんて有り得るのかな?そうだったらお母様も王子様か公爵さまと結ばれてるよね。
お姉様は望めば誰でも手に入るって本気で思ってたのかな?
フランメが公爵家ならある程度無茶が効いて望み通りになったのかもね。伯爵家で良かったよ。
「修道院からは絶対逃亡しそうだから監視をふやさないとなぁ」
伯父様がボヤきながら少し席を外すと出ていってしまった。
いや、伯父様?ルーシェンさまと二人きりは嫌です~!!!




