第七十五話 地上に落とす、間一髪!
「さぁ、飛ぶぞ!」
「飛ぶって、これ酔うやつ!?」
「知らん!」
シェダルは足に力を入れ……俺たちは飛んだ。
下を見ると、既にビル一棟分は離れていた。
「うお!? 高い! 高い!」
「いたぞ! あそこだ!」
シェダルが向いている方向を見ると、オークが地上に向かって垂直落下している姿があった。
「さぁ、地面に向かって必殺技だ! 鍵スキルに変わってスキル必殺しろ!」
「あ、あぁ!」
俺は指示通りに鍵スキルに変身し、鍵を回した。
『鍵スキル必殺!』
両足に力が漲る。
するとシェダルは、オークの真上に移動し始めた。
「お、おい! 必殺って言ってもこのまま落下したら……」
「私が修正する! お前は必殺技をやることだけに集中しろ!」
「あ、あぁ!」
俺は再び鍵を回した。
『鍵スキル! 凄すぎフィニッシュ!』
両足をオークに向け、踏みつけた。
シェダルは俺の肩をしっかり掴み、俺を放さないように力を入れている。
高さは一気に縮まり、あと少しで地上までの所まで来た。
「今だ! 足を放せ!」
「おう!」
俺は足を曲げ、オークから離れた。
オークは何もない砂利道に叩きつけられ、辺りは砂煙が立っていた。
シェダルは俺を思いっきり持ち上げた……やはり見た目によらず、すごい力だ。
「ふぅ……間一髪だった……」
「誰のせいでこうなったと思っている! 少しは考えて行動しろ!」
「あ、あぁ……すまん……」
シェダルが怒るのももっともだった、これからはよく考えよう……
そんな事を思っていると、シェダルの羽が……消えた。
「お、おい……お前羽……」
「まずい、時間切れだ」
「時間切れ!?」
スキルに時間切れってなんだよそれ!?
「この鍵はまだ調整不足なんだ! お前が上空に送ったとか言うから咄嗟に……」
「やばい! 落ちる!」
俺はシェダルに抱えられながら、重力による抵抗を受け、下に落ちていった。
「転移スキル! 転移スキルやってくれ!」
「お前が持っているんだろう! 貸してくれとか言ったのは誰だ!」
「そうだった!」
俺はケースを弄って鍵を探す。
えーっと、持ち手が渦巻きだよな……どれだ、どれだ!?
「やばい、見つかんねぇ!」
「落ち着け! もっと慎重に……」
「この状況で落ち着いてられるかよ!」
渦巻き……渦巻き……
「あった!」
「さぁ早く変身しろ!」
「お、おう!」
俺は急いで鍵を回して、先ほどの演歌歌手のような姿になった。
「早くホールを作らんか! もうすぐ地面だぞ!」
「焦らせんなよ! 落ち着けって言ったのお前だろ!?」
俺は大急ぎでホールを作り、間一髪、入れた。
あと少し遅かったら俺たちはお陀仏になっていた。
……だが。
「おえぇ……」
「おい! ホールの中で吐くんじゃない! 私の腕に掛かったらどうするつもりだ!」
飛行スキルと転移ホールの揺れで、酔ってしまった。