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第六話 所詮俺は、行っても無駄

 体育教師が「じゃあまずは1組の1班から入れ!」と指示した、2組の5班である俺らはまだまだ先だった


「いやぁやっぱ緊張するなぁ……」

「学校が貸してくれた鎚めっちゃ脆そうなんだけど……」

「ママ……ウチ、大丈夫かなぁ?」

「……」


 同行者たちはそれぞれ緊張の色を見せていた。

 眼鏡は「そんなに緊張しなくても良いですよ」と宥めた。

 そんな姿を見ていると、尚のこと緊張が和らいでいった。


「よし! 2組の5班! 入れ!」


 体育教師がそう言うと、「さぁ行きましょう」と眼鏡が指示した。


 小松は、意を決心したのか威風堂々と歩き、三沢は鎚を引きずりながらトボトボと、羽田は弓を抱きかかえながら、岩国は杖を持って下を向きながら歩いた。

 俺も行くのか……緊張は和らいだが、怖いのは事実だ。

 つばを飲み込んで、叔父さんからもらった剣を抱えて、俺も歩き始めた。



「行くぞ!」

「うわぁ……グロい」

「ウチちょっと吐きそう……」

「……」


 モンスターを倒す、ということは即ち、そのモンスターを殺すということだ。

そんなこと当たり前だって? そりゃそうだろう。

剣で体を切ったり、鎚で潰したり、矢で射貫いたり。

そうなると当然どうなるか……言うまでもない、正直俺も気分が悪くなっていった。

これがもしもゲームやアニメだったら、対象が爆発したり、消えたりしているだろう。

制作会社はその辺のリアリティを自重していたのだと、最初の座学の時にテンションを挙げていた連中は思うに違いない。

 そんなことを考えながら俺も攻撃参加してみるが、やはり鍵スキルの俺は思うようにいかない。

剣で攻撃しても、小松のような攻撃にはならないのだ。

圧倒的なレベル差もあるだろうが、やはり鍵スキルのせいだろうか?


「さぁ、皆さん、授業で解体の仕方は習いましたよね? 実践しましょう!」

「えぇ……せんせぇ……マジでやるのぉ? ウチやだー」

「悠里! 我が儘言うな! やるぞ!」

「そんなぁ……翔琉ぅ、私のこと好きなら同情してよぉ」

「これは授業だぞ! ちゃんとやれ!」

「はぁい。」


 眼鏡は小松の言い分に頷いた。

全員が支給されたナイフを手に持つ、勿論俺も。

モンスターを倒す、ということは、それらの解体作業と後始末もやらなきゃいけない。

聞いた話では、それらの処理もやるゲームもあるそうだが、そういうのはオブラートに包んであるもので、さすがにリアルでやるとエグい

関節が千切れる音、切ると出てくる血液、そして何より死体を処理するという行動自体。

皆が解体したものを、俺は袋に小分けした。

皆、気持ち悪がっていた、勿論俺も。

この授業のおかげで、我々が口にしている肉も、このようにして食卓に運ばれていると思うと、犠牲になってくれている動物や、それの処理を担当する業者さんに今すぐにでも感謝の言葉を言いに行きたくなるのだ。


「皆さん! これは命の大切さを学ぶ機会でもあるんですよ!」


 しかめっ面で作業をしている俺たちに、眼鏡はそう言った


「そうは言っても先生、これちょっと無理かも……」


羽田は口を抑えながら言った。

もしも中身を出したら、愛しの王子様に引かれてしまう、そんな考えが顔でバレバレだった。


すると、吐き気を催していらっしゃるお姫様に一匹の魔物が襲い掛かった。

危ないと思い、応戦しようとする王子様。

そんな王子様とお姫様の後ろから炎の球が通過し、魔物に命中、魔物は火を消そうと横に転がるも、その努力はむなしく絶命した。


「……危なかったね」


 魔女様の救済により、間一髪、2人は助かった。


「岩国さんナイス!」

「すごいよ岩国さん!」

「そうでも……ない」


 2人は魔女を褒め称えた。

眼鏡も「これは評価に値しますよ」と言った


「チクショー! 俺も負けてらんねぇ!」


三沢は解体処理を終え、鎚を振り回して魔物を退治し始めた。

それに続くように小松も攻撃に参加し始めた。

俺もやるか、と思って攻撃参加しようとしたとき、突然頭の中である出来事が再生された。


『やっぱ鍵スキルは使えねぇな!』

『レベル1は足手纏いなんだよ!』

『クソの役にも立たないわね!』

『使えない人……』


 俺は進もうとしていた足を止めた。


どうせ俺が頑張ったって、ダメージは与えられない。

どうせ俺が頑張ったって、足手纏いだ。

どうせ俺が頑張ったって、何にもならない。


 行ったところで無駄だと考えた。


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