閑話 少年の過去 後編
『一体何をやってたんだい!? 帰ってきたら、風呂場で昇くんが湯船に顔を突っ込んでてて……』
叔父さんは状況が呑み込めないようだった。
『叔父さん……心配になったんだよ! 本当に大丈夫なのかい!?』
その時、俺は気が付いた。
これでは、父さんと同じではないか。
父さんも似たような状況だったのかもしれない。
生活が激変して、急に自分が取り残された感じがして、頭が付いていけなくて。
だが、俺は父さんとは違った。
ちゃんと心配してくれる人が、ずっと近くにいたのだ。
『……ごめん、風呂掃除やろうと思ったら、滑って転んじゃって』
俺はその時、かなり無理がある言い訳をした。
『昇くん!』
『は、はい!?』
叔父さんの怒った姿を初めて聞いた俺は、つい敬語で話してしまった。
『良かった! 何ともなくて!』
『お、叔父さん!?』
叔父さんは急に俺を抱きしめてきた。
『家の事やってくれるのはありがたいけど! 風呂掃除するなら足元に気をつけなさい! わかったかい!?』
『う、うん……』
『さぁ、風呂は叔父さんがやってあげるから、宿題やってなさい』
『う、うん!』
俺は平然を装って、風呂場を後にしようとした。
『ね、ねぇ……』
『なんだい? 昇くん』
『その……ありがとう、叔父さん……』
『うん!』
俺はその時初めて、叔父さんを認めた。
その後は、ずっと右から左に流していた授業を真剣に聞くようになった。
スキルはゴミでも、叔父さんの役に立てようと思って。
高校受験は、比較的学費の安い県立高校一筋にした。
叔父さんは、「昇くんの学力なら、もっと頭のいい私立高校のほうがいいんじゃない? 学費なら出すよ?」と言っていたが、少しでも叔父さんに楽させたいと思った俺は、それを拒否した。
そして、今の県立祇園高校に入学した、また新しい人生が始まると思った。
……でも、ダンジョン探索の授業から、どこか劣等感を感じるようになった。
陰口も、中学からずっと続いていた。
これでも、叔父さんのおかげで、少しは楽しくなったとは思うが……
「母は鍵スキルに認定された私に言ったんだ、『どんなスキルだろうが、体を張って打開策を見つければ、きっと世間は認めてくれる』とな!」
シェダルの言ったことをふと思い出した。
シェダル……? そういえば、俺、今まで何してたんだっけ……?
次から本編に戻ります。




