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閑話 少年の過去 中編4

 こうして俺は引き取られ、苗字も「金剛」に変わった。

住んでいる場所も、刑務所みたいな施設から、見るからに古そうな鍵屋へと変わった。


『ごめんね、見た目は汚いけど、中は新居同様だから! 鍵屋は見かけだけとは「限」らないって! なんちゃって! ははは!!』

『……』


 今考えれば、初対面から、叔父さんは寒いダジャレを言っていた。


『そうだ! 昇くん! 昇くんって好きな料理は何かな?』

『……ない。』

『ないことはないでしょー! 叔父さんに作れるものなら何でも作るよ!』


 今思えば、もっと愛想よく振舞えばよかったと思う。

当時の俺は、それを考える思考もなかったと思う。


『チンジャオロース……』

『何? もう一回言って?』

『好きな食べ物は……チンジャオロース』

『うん! じゃあ叔父さん、頑張っちゃうからね!』


 叔父さんは、好きな料理を作ってくれた。

家はそこまで裕福でもなかったが、できる限りのことをやってくれた。

……そういえば、そのお礼、ちゃんとできてないな。

でも、当時の俺は、それらになんの心も動かなかった。


学校では、特に人とかかわることもなく、空気でいることに徹した。

鍵スキルだということは、周知の事実みたいになってて、陰口を言われるようになった。

ただ、小学校の時のように、人の前で何かされるみたいなことはなかった。


 ある時、俺はすべてが嫌になった。

学校へ行ってもつまらない、外に出ようにもやることがない。

叔父さんは、「何かやりたいことある? 欲しいものはある?」と頻りに言っていたが、俺は何も言わなかった……何も求めなかった、というのが正しいのだろうか?

俺は、全て終わらそうと思って、誰もいなくなった風呂場で、溺れてしまおうと考えた。

水に突っ込んだ時、色んなことを思い出した。

父さんや母さんに怒鳴られたこと、鍵スキルを馬鹿にされたこと、養護施設の職員に怒られたこと。

 そんな時、肩に謎の力が働き、俺は走馬灯から解放された。

振り向くと、それまで仕事でその場にいなかった同居人がいた。


『大丈夫かい!? 昇くん!』


俺は何も言えなかった。

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