第三百二十二話 悩み事、打ち明けよう
「って、そんな話してる場合じゃないだろ!? おい、昇! なんか話があるんだろ?」
愁が話を切り上げ、俺に振ってきた。
いやいやちょっと待て、この状況で俺に振るんかい。
えぇーっと……。
「あ……その……えっと……」
やべぇ……何を言いたかったんだっけ? 4人が盛り上がっているところを見てたらド忘れしちゃった……。
「すまん……何言いたかったか忘れちゃった……」
俺は思わずその場で頭を下げた。
「いやいや、謝ることねぇよ!」
翔琉が俺の肩に手を掛ける……。
なんか……本当に申し訳ない。
「そういえば……俺最近悩んでいることがあるんだ」
翔琉が流れを変えるためか、話を振った。
翔琉の……悩み?
「俺さ……このまま父さんの会社を継ぐべきか……迷っているんだ」
「……え?」
どういうことだ? 会社を継ぐか……迷う?
何故だ? 俺だったら、大企業の社長に必然的になれるって思うと、凄く嬉しいんだがな。
「今まで父さんの会社を手伝ってきたんだけど……最近、なんか違うような気がするんだ」
「……なんか違う?」
「あぁ……俺は父さんの考え方が理解できないんだ……人を容赦なく切り捨てるような奴になりたくない……」
「……」
翔琉のお父さんってそんな人なの? なんか……怖いな。
「でも……継がなかったからと言って、何ができるか……何をしたいのか……分からないんだ」
何をしたいのか……分からない。
翔琉も俺と同じ……。
『金持ちや権力者が必ず幸せってわけではないぞ、昇』
……シェダルが言いたかったのはそういう事だったのか?
……そんなことを思いつつ、俺は口を開いた。
「実は……俺も」
「……昇もか?」
「あぁ……俺、昨日冒険者ギルド……剣さんから『本格的に冒険者をやらないか』みたいなことを言われてさ……でも……分からないんだ、俺は別にそれをやりたいわけでもないし……」
……そうだ、それが先ほどド忘れした言葉。
……分からない、自分が何をしたいのか、将来どういう風になりたいのか。
「ウチもさ……将来が分からないんだ……一応、事件を経験して、何か役に立てることはしたいって考えているんだけど……何をしたいのか分からない」
「俺も……お袋にあっと驚かせるようなことをしたいとか考えてはいるけど……どうすればいいんだろう……」
「……私も……バイクの勉強……やるか……大学に行くか……迷っています」
……悠里、愁、薫も同じことを悩んでいるようだった。
将来に悩むのは、皆同じか……どうすればいいんだろうな。
「どうしたの? 皆して浮かない顔しちゃって」
悩む俺たちに、一つの声が乱入する。
「……ママ」
この喫茶店のオーナー……悠里のお母さんだった。
「あぁ……実は俺たち、将来について不安なんですよ」
「そうなんだよママ……やりたい事がよく分からないんだよ~」
翔琉と悠里が、事情を説明する。
2人の言っていることはもっともだ、不安だし、やりたいことがよく分からない……俺たちはどうすればいいんだろうか?
「まぁまぁ、皆まだ卒業まで時間あるんだし、なるようになるよ!」
「口で言うのは簡単だけど、ウチらどうすればいいの?」
「どうすればいいかねぇ……とりあえず悠里は、大学行く行かないは置いておいて、勉強してなさい! あんたは祇園高校に入れただけでもラッキーなんだから!」
「は~い」
悠里はテーブルに突っ伏しながら、素っ気ない答えを吐いた。
勉強か……俺は一応それなりにやってるけど、受験勉強ってもうやったほうが良いのかな?
でもなぁ……大学行くにしても、良い大学に行けなきゃ意味が無い気がする。
ましてや、高校の方針的に、そうしなきゃいけないような……そんな気がする。
「……なるようになる、か」