第三百十二話 噂の2人、名乗り合い
「君たち……噂の鍵スキルのお二人?」
「う、噂?」
「いや、ダンジョンの中の僕の仲間から聞いたんだよ」
仲間……道中のスライムの事か?
「鍵を使って色んな姿になる男と女が厄介で困るって……まさか合体してやってくるとは思わなかったけど」
「が、合体って……」
確かに間違いではないけど、言い方よ……。
「特に女の方! 勝手にダンジョンに穴開けて自分の領域作らないでよ! こっちはいい迷惑なんだよ!?」
「あ、えっと……申し訳ない」
シェダルは珍しく動揺した様子で、謝罪をした。
「ま、いいや。君たち、僕を殺しに来たんでしょ?」
「いや、まぁ……そうだけど……」
……だから言い方よ。
事実ではあるけどもうちょっと上品に言えないのか……。
「じゃ、さっさと始めようよ」
「いやいや、なんかちょっと……」
「なんかちょっと何?」
「いや……その姿で戦うとなると、罪悪感というか……」
「僕の仲間を散々殺してきたくせに、よく言うよ」
「あ、その……」
やばい……会話ができるモンスターと戦うのって、凄い躊躇してしまう……。
「私も同じ気持ちだ、昇」
「……だろ?」
シェダルも俺の考えに同意をしてくれた。
「はぁ……あのね、僕たちモンスターは、結局何かに殺される運命なんだよ」
「……え?」
「僕がこうしてダンジョンの頂点になれたのは偶然も偶然、一歩間違えたらなんかしらのモンスターの餌になってた、それが今、こんな奥深くで馬鹿みたいな幻を作って、誰かに殺されるのを待っている……何と言うか、モンスターって虚しいよね」
「「……」」
「でも、君たち冒険者は違う、僕たちモンスターをただ殺すだけじゃなくて、資源として使ってくれている、普通に死ぬよりも誰かの役に立った方が本望だよ」
「あ、その……」
なんだろう……凄い哲学だ。
何と言うか、悲しいというか、清々しいというか……。
「だからさ、早く片を付けようよ、安心していいよ、君らが死に掛けたら魔法で外に放り出しておくからさ」
「……あいにくその必要はない、お前をここで倒すからな! な? 昇!」
「お、おう!」
俺たちは構えを取り、戦闘態勢へと入った。
「そういえば戦う前に名乗り合うのがそっちのやり方何だっけ? 僕の名前は……決まってないけど、適当に『キクス』とでも呼んでよ、君たちは?」
「私は……銀の鍵使い、シェダルだ、その名前、覚えておこう、キクス」
「俺は……金の鍵使い、昇だ」
「シェダルに昇か……いい名前だね……それじゃ、行くよ!」
少年……キクスの身体は、青い液状となり、姿を消した。
ど、どこだ!?




