第二百九十九話 居心地どう? 何言ってんの!?
「それで……カルデナちゃん? その……鑑別所はどう?」
「……」
「あ、えっと……」
……自分で言っておいてなんだけど、意味不明だ……なんだよ! 鑑別所はどう? って! 「最近どう?」みたいなノリで聞くんじゃねぇよ!! ここはテーマパークじゃねぇよ!! ……俺は心の中で自分にツッコミを入れた。
「……おい昇! ……ここはそんな楽し気な場所だと思うか!?」
「……いや……だって……」
シェダルも俺の発言に違和感を感じたのか、小声でツッコミを入れた。
そりゃそうだわ、ここは仮にも拘置所みたいなものだし、楽しいわけが……。
「……鑑別所の人は……優しい」
カルデナちゃんは下を向きながら静かにそう言った。
「私は……ずっと孤独だった、お父さんもお母さんも病気で死んで、孤児院に預けられた……スキルのせいで気味悪がられて、ずっと一人だった……」
「……スキル?」
「時空スキル……私はそれを使って、みんなにモンスターの携帯を渡した、それが正しい事だと考えてた……」
「……」
そういえば……シェダルは以前、こんな考案をしていたな。
『恐らく、変身者ではない何者かが、その『突然』にあたる数秒の間に付けた……というのが私の推理だ』
『これは『時空』スキルだ、この鍵は未完成だがな』
『これはユニークスキルの一つだ、時空に関するあらゆることができる、時間を止めることもできる』
そうか……ヒューモンスターの携帯を渡したのは、カルデナちゃんだったんだ……。
「私は多くの人に、モンスターの携帯を渡した……人を殺そうとして……多くの人を傷つけた、家も破壊した……でも、ここの人はそんな私を普通に接してくれている……」
「……」
「でも……ここから私はどうすればいい? これから裁判を受けて……全て終わったら、私はどうなる? ヒースもいない……私には何にもない!!」
カルデナちゃんは、机を叩いて……項垂れた。
……何にもない、その言葉に俺は引っかかった。
そうだ、あの時の俺と同じだ。
うるさい父さん母さんが死に……学校の奴らや養護施設の職員に四の五の言われ……。
俺は元より、何もなかった……でも今の俺には叔父さんにシェダル、翔琉や愁、悠里や薫がいる……。
でも彼女には……何もない。
親代わりと思われるヒース社長は捕まり、彼女は独りぼっちだ。
彼女の心のよりどころを奪ってしまったのは俺たちだ……なんて言えばいいのだろうか……。
「……何にもなくはない」
……シェダルがそう口にする。
その口調は、俺や薫を叱った時のような……そんな感じだった。