第二百九十八話 面会しにきた、私はカルデナ
「面会時間は20分です」
「わかりました」
少年鑑別所の受付で、面会を希望すると、割とあっさりと案内された。
どうやら剣さんが既に話を通してくれたようだ……流石は冒険者ギルドの幹部……。
俺たちは鑑別所の職員さんと共に、面会室へと入った。
……面会室に入ると、俺に鍵を渡した少女が、下を向いた状態で座っていた。
えーっと……なんて声を掛ければいいんだ?
とりあえず話したいのは山々だけど……何から話せばいいんだろう?
「やぁ、こうやって面と向かって話すのは初めてだね、私はシェダル。こっちは昇だ、君は?」
席に着くや否や、シェダルは開口一番そう言った。
良かった……これでなんとか……。
「……話したくない」
……わけでもなかった。
少女は席を立ってその場から去ろうと立ち上がるも、向こうにいる職員さんに止められ、渋々席に着いた。
「……なんでヒースを捕まえた人と話さなきゃいけないの?」
少女は職員に向かってそう言う。
……彼女にとって社長はそれほど大事な存在なのだろうか? ……俺で言う叔父さんやシェダルみたいな存在……。
「いやその……君の大切な人をああいう風にしてしまったのは確かに俺たちだ、それに……俺は君を襲おうともした……そこは謝る」
俺はつい、思ったことを口にした。
「だがな……彼はこの世界を潰そうと目論んで、それによる犠牲者も出てきたんだよ? それでいて、君をモンスター人間にして、それによって君は殺人を犯そうとした……いくら大切な人だからと言って……」
「お前らに何が分かるんだ!!」
「ッ!?」
少女は突然、机を叩いて立ち上がった。
俺は驚いて、座っていた椅子と共に後ずさりをした。
鑑別所の職員さんが、彼女を取り押さえた。
「いいか! テロリストだろうと、私を利用したとしても……ヒースは私の大切な人だ! それを……それを……」
……大切な人。
彼女の言い分は正しいのかもしれない、絶対にないとは思うが、もしも叔父さんが人を殺したり、テロ行為を犯したら……俺はそれでも、叔父さんは俺の親で、優しく包んでくれる人としか見れない……恐らく彼女にとっての社長は……。
「……申し訳ない、デリカシーの無い事を言ってしまって」
俺は立ち上がって、頭を下げた。
もう少し客観的に考えるべきだった、もしも逆の立場だったら、もしも自分自身だったら。
「……昇」
シェダルは俺の肩を抑え、座らせようとする。
……だが、今頭を上げてはいけない、俺の心の中で、そんな考えが過る。
「……」
向こう側から、騒がしい音が消える。
「……カルデナ」
「……え?」
少女が冷静な口調で言葉を発し、俺は腰を下げた状態で正面を向いた。
「私の名前はカルデナ……常滑・ロウ・カルデナ……」
……少女、カルデナちゃんは先ほどの質問の答えを発した。
常滑・ロウ……社長と同じ苗字だ。
「ほら、昇。着席しろ、今日は頭を下げに来たわけじゃない」
俺はシェダルに誘導され、再び着席した。