第二百九十三話 無能な鍵使い、その為じゃない
「まだ……まだだ……」
奴は床に落ちた携帯電話に手を伸ばしている。
シェダルは俺の身体から離れ、咄嗟にそれを足で蹴り飛ばした。
奴の携帯はもう届かない位置まで行っていた。
「もう……終わりだ、ゲームオーバーですよ、長官」
「く……クソ……」
奴は気を失ったのか、まるで力が抜けたかのように崩れた。
「昇……」
「あぁ……」
これでケリはついた。
もう……思い残すことは……。
「ふふふふ……アハハハハ!!」
突然、笑い声が響いた。
……その声の主は、倒れている元魔王だった。
「私を倒して満足しているのかァ……鍵スキルのクソども……」
奴は体を震わせながら、立ち上がった。
「いいか……いくら貴様らが強かろうがなァ……所詮貴様らはクソの頂点に君臨する鍵スキルだァ……誰も貴様らになんか見向きもしない……分かるよな? お前らは……その兵器が無ければ、ただ鍵の解析しかできない無能な鍵使いだ! そんな奴らと私……どちらが敬われるか……答えは分かる筈だよなァ……?」
奴はゆらゆらと揺れながらこちらに近づき、呪詛を唱えている。
俺は……その言葉に腹が立ったのか、揺れている奴の服を掴んだ。
「この野郎……大勢の人を犠牲にした癖に、まだそんなことを言うのか!」
「アハハ……憎いかい? 憎いよな?」
「クソ……」
俺は右手で拳を作り、奴の顔面目掛けてそれを思いっきり近づけた……。
「……昇!」
突如、向こうに聞き覚えのある声が聞こえ、奴の至近距離で拳が止まった。
声のした方向を見ると、4色の戦士が見えた。
「……皆」
俺は、今まで込めていた力が一気に抜け、奴を離した。
そして、拳に暖かい何かを感じる……ふと見ると、シェダルが俺の手に触れていた。
「昇、お前のその手は、こんな奴をぶん殴る為にあるんじゃない」
「……」
俺はシェダルのその言葉を聞き……腕を降ろした。
確かに……こんな奴を殴ったところでどうしようもない、もう……終わったんだ。
「同志! 無事か!?」
翔琉たちの後ろから、剣さんたちが駆けつけてきた。
皆……無事なようだ。
「よくやったな! 主犯格の常滑を止めるなんてすげぇぜ!」
剣さんは俺の肩をがっちり掴み、そう言った。
「昇! シェダルちゃん! 本当に無事でよかった……」
「もう! ウチらも大変だったんだからね!」
翔琉と悠里は、シェダルに近づいてそう言う。
……でも、たった4人であんなに大勢のモンスター達と戦って生き残るなんて……本当に凄いと思う。
俺たちが成功を噛み締めている中、警察と自衛隊もここまでやってきた。
「常滑・ロウ・ヒース、モンスター化携帯所持、使用で午後7時20分、現行犯逮捕」
警察は腕時計を見ながら、奴に手錠を掛けた。
奴は下を向いたまま……連行された。
「……後は法に任せよう、昇。あんな騒動を起こしたんだ、極刑は免れないだろう」
「……あぁ」
……法が奴の処遇を決める、確かに、相応の罰は受けるだろう。
俺はそう考えた。
「さ、君たちは事情聴取に、下のパトカーに乗って! ……怪我は無いかい?」
「はい、大丈夫です」
「じゃ、こっちへ」
俺たちは警察の人に誘導され、下へ降り立った。




