第二百五十三話 さぁ帰ろう! うるさい消えろ!
「昇くん、さ、家へ帰ろう……」
卓郎さんは、私越しに、腕を伸ばした。
卓郎さんの声……昇に届いたのか?
「昇くん……」
昇は……こちらを見つめている……。
卓郎さんの差し伸べる腕には見向きもしていない……これは。
「卓郎さん! 下がって!」
「……え?」
私は向こうを指差し、卓郎さんには離れるよう、指示をした。
卓郎さんは慎重に……それでいて足早に離れた。
卓郎さんが遠くに離れた、その時だった。
「あああああああああああああ!! うるさい! うるさい! 消えろ! 消えろおおおおおおおおおおお!」
昇は再び腕から生えた槍を振り回し始めた。
私も身の危険を感じ、一度遠くへ離れ、卓郎さんと合流した。
「シェダルちゃん……アレは本当に昇くんなのかい?」
「えぇ……そうです」
「そんな……」
卓郎さんは遠くで暴れている昇を見つめて、悲しい表情を浮かべた。
……無理もない、私だって驚いた。
「はぁ……はぁ……ぐわああああああああ!!」
昇は天に向かって咆哮を上げる。
まるで、犬や狼が遠吠えを上げているようにも見えた。
「昇くん……叔父さん……何もできないのかな?」
卓郎さんは、今にも泣きそうな目でそう言う。
……私は。
「……私はそうは思いません」
「……シェダルちゃん?」
「少なくとも先ほどは……卓郎さんの言葉に耳を傾けたように見えました」
「……」
そうだ、さっき卓郎さんが話しかけた時、そういう風に見えた。
「だから……語り掛けましょう、今はあんな姿でも、昇は昇です」
「そう……だよね、ごめんね、気を遣わせちゃったみたいで……叔父さん、頑張るよ! ……姉さんの分まで育てるって決めたんだし、このくらいできなきゃ仕方がないよね!」
「……卓郎さん」
卓郎さんは、何か決意をしたかのような表情を浮かべる。
……どことなく、その表情は昇と似ていた。
「さ、行こう! シェダルちゃん!」
「……はい!」
私たちは、再び昇の元へと向かった。