第二百五十二話 迎えに来た、お腹空いた?
「着きました」
「うぉお!? もうかい!? ……ここ、本当にダンジョン!?」
卓郎さんは、安息の地の神殿に着くや否や、その内装に見とれていた。
……昇もこんな感想を抱いたのであろうか?
そうだ、一応万が一に備えて武器は持っておこう。
『鍵スキル!』
「スキルチェンジ」
『スキル解放! 凄すぎる! 鍵スキル!』
私は白銀のコートに身を包み、ドライバー型の槍を装備した。
……さて、昇はどこだ?
一応、安全面を考えて、神殿の中には転移はさせていない。
神殿の中に転移をさせて、中がめちゃくちゃになり、何かの拍子で神殿が崩れて、昇がそのがれきの下敷きになる可能性があるからな。
「昇くーん! どこだい!?」
卓郎さんは、神殿の中にいると考えたのか、大声で昇を呼び掛けた。
私が恐らく外にいると卓郎さんに言おうとした、その時だった。
『うわああああああああ!! 殺す! 潰す!!』
外から、そんな声が聞こえる。
この声に、私たちは良き覚えがあった……そうだ。
「……この声は」
「昇くん!?」
……間違いない、昇の声だ。
「行きましょう! ……なるべく私の後ろにいてください、卓郎さん」
「あ、うん!」
私たちは声のした方へ急行した。
◇
「ぐわああああああ! 憎い! 憎いぞ!!」
昇はすぐに見つかった。
幻の太陽の光が、昇の金の装甲を、さらに眩しく輝かせていたからだ。
昇は、花畑の中で……暴れていた。
それはまるで、何かと戦っているのか、抵抗しているのか。
私たちは、その光景を黙って見るしかできなかった。
「消えろ! 消えろ! 消えろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
昇の周りに咲いていた花々は、その黄金の棘で切り刻まれ、花畑のその部分だけが丸裸になっていた。
……近づこうにも、こんな状態では近づけない。
どうしたらいい……。
「……昇くん」
……私が方法を模索している中、卓郎さんは、静かに昇に声を掛けた。
「はぁ……はぁ……」
昇は卓郎さんの言葉が聞こえたのか……若干ではあるが、落ち着いたように見えた。
金の装甲に身を包んだ昇は、私たちを見つめながら静止している。
……私は卓郎さんの盾になるように立ち回り、少しずつ前進を始めた。
「昇くん……迎えに来たよ」
「はぁ……はぁ……」
「昇くんの好きなチンジャオロース、作ったんだ、家に作り置きがあるんだ」
「……」
「昇くん、お腹……空いてるでしょ?」
「……」
卓郎さんは、昇に語り掛ける。
これは……行けるか?
 




