第二十八話 好きな料理、動かない箸
行ったり来たりで……もう辛い……
あの後何往復も、鍵屋と安息の地を往復した。
「持って行くものが山ほどある」と言っていたが、その内容は紅茶セットだったり、工具だったり、本だったりと……
重い物から割れ物まで、文字通り山ほどある上に運ぶのに神経を使った。
「よし! これで全部だな!」
空き部屋に持ってきたものを置いていくシェダル。
「俺マジで三半規管弱いんだよ……車乗るだけでも酔うのに……」
「それを鍛えるいい機会だったろ?」
「……」
三半規管を鍛えるってなんだよ!? ふざけんなよ!?
そう反論したかったが、そんな気力も残ってなかった。
「昇くん! シェダルちゃん! 夕食の準備ができたよ!」
「よし、昇! 行くぞ!」
例によって、シェダルは俺の腕をつかんで連行した。
もう、抵抗する気も起きない……
◇
「さ、召し上がれ! 昇くんの大好きな料理! オムライスに、チンジャオロースに、フライドポテトに、チョコレートケーキだよ!」
「まぁ、とっても美味しそう! 昇もそう思うだろ?」
「あぁ……」
確かにどれも好きな料理だが、食欲が湧かない……
「さ、いただこう! いただきます!」
「あら日本らしい! 私も、いただきます!」
「いただきます……」
「さぁ昇、若いんだから、どんどん食べろ!」
「お、おい……」
若い? 俺とあんまり歳は変わらないように見えるが……というか量多いわ!
「人数が増えると、賑やかでいいねぇ」
叔父さんは、いつものようにニコニコしながら、そう言った。
気分が悪くなっているときに、脂っこいものを二つも食べなければならないこの状況、拷問だろうか?
「昇くん! そういえば、叔父さんの買ってきた剣、役に立ったかな?」
「あ、あぁ……まぁ、一応」
「良かったぁ~、奮発した甲斐があったよ! 剣だけに、「堅」実な買い物だったかな? ははははは!!」
叔父さんのくだらないダジャレが炸裂した、シェダルも流石にドン引き……
「あはははははは!! おい昇! 剣だけに堅実だと! あははははは!!」
「……」
シェダルは持っていた箸を置き、両手を俺の肩において爆笑した。
おいおい、ダジャレでこんな笑う人初めて見たぞ。
叔父さんもこの姿にはドン引き……
「あはは! シェダルちゃん、ダジャレ好きなんだね!」
……するわけもなかった。