閑話 ヒューモンスター出現 1
『繰り返し、お伝えいたします。モンスター人間が出没しました。現在、祇園市内の住宅街を疾走中とのことです、付近の住民の皆さまは、命を守る行動を優先してください』
「お爺ちゃん! 逃げて!」
「それはこっちの台詞だ薫!」
祇園市内はまさに混乱状態であった。
薫はいざという時の為に、変身武器であるヴァイオレットステッキを構えていた。
『こちらは自衛隊です! 市民の皆さま! こちらにお集まりください!』
自衛隊は市民の安全を最優先に考え、輸送車を手配し、祇園市の人間に乗車するよう要請した。
それを聞いた市民たちは、焦りつつも、そちらの方へ駆けていく。
『皆さま! 落ち着いてください!』
焦った市民が、他の市民を押し退けて車に乗っていく。
自衛隊員は落ち着くよう、市民に呼び掛けた。
「さ、薫! 行くぞ!」
薫の祖父は、孫を引っ張って車へと急ごうとした。
だが……。
「お爺ちゃん……私は……残る」
「何馬鹿な事を言っているんだ! 殺されるぞ!」
「お爺ちゃん……」
薫は、昨夜祖父が言った言葉を思い出した。
『その時はその時だ、モンスター人間がこの家に来やがったら、俺が返り討ちにしてやる……』
『あぁ……人様の家に土足で上がり込んだことを後悔させてやる……』
薫は、昨夜に引き続き、祖父に反抗をした。
「薫!」
「……人様の家に土足で上がり込んだこと……後悔させる」
「……薫?」
薫の祖父は、昨夜、自身が見栄を張る為に言った言葉を孫が口にしたのを見て、困惑してしまった。
2人が家から出るか否かで事が進まない中……。
「うわああああああ!? モンスター人間だ!」
「逃げろ!」
「殺されるぞ!」
既に、薫の家のすぐ近くに、ゴーレムヒューモンスターが現れたのか、市民が声を上げた。
市民は、その恐ろしい姿を見て、自衛隊員の声がする方へと駆ける。
「薫! 早く行くぞ!」
「……嫌!」
「お前……」
薫は、それでもその場から離れようとはしなかった。
今、自衛隊員は、市民の避難で手が一杯。
ならば、祖父にはいち早く安全なところへ行ってもらって、自分ができる事をやらなければならないと、そう考えた。
「私は……戦う」
「……薫?」
薫の祖父は、今まで見たことのない孫の顔に、またも困惑してしまった。
薫は携帯を顔に近づけ、呪文を叫んだ。
「スキル……実装!」
『イェーイ! レッツフィットイン!』
変身を急かす待機音が家の中に響き渡る。
それはまるで、これから戦いに行く薫の背中を押すようだった。
薫はその歓声に答え、携帯を杖に差し込んだ。
『魔法スキル、アームド!』
眩い紫の閃光が、家の中を照らす。
薫の祖父は、その光を遮るように、腕で自身の目を抑えた。
『マージマジ! ヴァイオレットマジシャン!』
薫は、紫の魔法使い、ヴァイオレットマジシャンに変身した。