閑話 魔法使いの過去 中編3
……転機が訪れたのは、中学生の頃だった。
私は、家に帰る途中だった。
その時も、いつものように授業を聞いて、1人で家に帰っている時だった。
帰ったら何しようかな、お爺ちゃんは珍しく忙しそうだし、ご飯でも作って、宿題して、寝ようかな。
そんな事を考えながら、いつもの通学路を歩いているいた。
ちょうどその時、工事現場の横を通った。
新しいビルが建つのか、数か月前から工事が進んでいた。
別に私は、工事だろうが麴だろうが、どうでもいいと思っていた。
でも、その現場は、私に構って欲しいのか、鋼鉄の塊を落としてきた。
「危ない!」
「避けて!」
周りからそんな声が聞こえる。
でも、私はその場から動けなかった。
私はただ、上を見上げ、接近してくる鋼鉄の塊をただ見つめることしかできなかった。
……でも、このまま死ぬのも悪くないかな、とこの時は少し思った。
このまま生きたところで、何になるというのか。
だったら、このまま死んだ方が幸せなのかもしれない。
そんな事を考えながら、落ちてくる物を受け止めようと、目を閉じた……。
……しかし、本来ならば受けるであろう、痛みや苦しみは……受けなかった。
恐る恐る目を開けると、受け止める筈だった鋼鉄の塊は、私の真横に落ちていた。
偶然落ちる位置がズレたのか? と最初は考えた。
でも、そんな考えはすぐに消えた、なぜなら……。
「ネンカイッパタダッツ」
「……?」
何やらおかしな恰好……口で表現するならば、海外の子供向け番組に出てきそうな魔法使いのコスプレをした白人女性が、意味不明な事を口にしてきて、私は困惑してしまった。
外国語だと言うのは分かるのだが、英語でも中国語でもない、未知の言語のように聞こえた。
「ウイブジョダ?」
「……はい?」
女性は相変わらず意味不明な事を言っている。
なんなんだろう、とこの時は思った。
「ヤ、レルアマカテクスンノホウケワタホ」
女性はそう言うと、何やら呪文を唱えた。
例によって何を言っているのか分からなかった。
そして再び女性の口が開き、また意味不明な事を口にする……と思われた。
「ごめん、言ってること分からなかったよね、大丈夫だった? 怪我は無い?」
「え、あの……はい」
突然、女性は日本語を話し始めた。
一部始終を見ていた周りの通行人や工事関係者は、私たちを凝視していた。
「すごい……」
「あれが魔法か!? 信じられない……」
民衆はそんなことを呟きやいていた。
ま、魔法? どういうこと?
最初はそう思った、しかし、この後の女性の言葉である意味で納得した。
「あと少し詠唱が遅れていたら、貴方、すぐにでも押し潰されていたのよ」
「詠唱……?」
詠唱、私は魔法スキルなので、一応そういうものがあると言うのは知っていた。
だが、はっきり言って、この時はそんなものには興味はなかった。
「あぁ、この国ってスキル社会導入してまだ間もないんだっけ」
「そ、そうです……けど……」
「じゃあ、ピンとこないか、えぇっとね……」
女性が詠唱の説明をしようとしたその時、赤いランプを点した車が私たちの目の前に到着した。
そういえば、私が事故の被害者だということをすっかり忘れていた。
「だ、大丈夫ですか!? お怪我は……」
降りてきたお巡りさんが、私達に向かって、そう言いながら走ってきた。
私とその女性が事情を説明し、一旦警察署まで行く事になった。
めんどくさいなぁとは思ったけど、まぁ仕方がない。
私とその女性はパトカーまで案内された。
「……時間かかりそうだね、また今度説明するよ」
お巡りさんに連れられる私を見て、女性はそう呟いた。
女性は、私と一緒にパトカーへと乗った。




