第百七十一話 目が覚めた、お姫様!
「……全く、以前したのは前祝じゃなかったのかよ」
「いいじゃないか、嬉しかっただろ?」
「……おう」
気絶した俺は、しばらくして目が覚めた。
全く……それをするなら予告しろよ……嬉しかったけどさ。
シェダルは元気を取り戻したのか、いつものようにからかってくる。
やっぱりこういうシェダルの方が好きだ。
「さ、そろそろ行くか! 準備はいいな?」
「ちょ、ちょっとその前に酔い止め薬飲ませて……」
◇
「ほら! 置いていくぞ!」
「待てよ!」
俺たちは第10階層を抜け、第11階層を滑走していた。
全く、元気を取り戻したらこれかよ……嫌な感じはしないけど。
「昇! 目の前にモンスターだ!」
「えぇ? どういうの!?」
ここからでは見えなかった。
シェダルは途中でブレーキを掛け、止まった。
俺はようやっとシェダルに追いついて……目の前にいるモンスターを見た。
「あれは……」
「……『アイスマッコーシュ』だ」
あの甲殻類野郎の氷バージョンか……確かに見た目はカブトガニとザリガニをミックスさせて、その甲羅を氷にさせたような感じだ。
「あいつは通常よりも装甲が脆くなっている! その上でめちゃくちゃ攻撃が強くなっているから気を付けろ!」
「お、おう!」
俺たちは滑走を始め、奴の様子をうかがった。
奴はこちらを見ると……なんと、俺を後ろ向きで追いかけ始めた。
「な、なんだありゃ!? 気持ち悪!」
確かにエビとかザリガニは後ろ向きで泳ぐけど……あんな図体のデカい奴がそれをやると不気味だ。
……と、ちょっと待て。
「めちゃくちゃ早いし、あいつの甲羅、棘生えてね!?」
「通常よりももっと早めに滑るんだ! 串刺しにされるぞ!」
「あぁもう!」
俺は言われた通りに滑る。
……見た目はフィギュアスケートなのに、今やっていることはスピードスケートだ。
このまま追いかけっこを続けていたら埒が明かないぞ……。
「昇! 距離を取ったら鎚スキルに変えろ!」
「……なるほど、分かった!」
俺はシェダルの指示を理解した。
今の距離は……3mくらいか? もっと離れよう。
4m……5mは離れたか? 今のうちに鎚スキルの鍵を……。
「あぁやっべ!」
まずい! 鍵を落としてしまった!
このままじゃ対抗策が……。
「昇! 受け取れ!」
「ありがとう!」
シェダルはいつのまにか俺と並走をしていて、鎚スキルの鍵を手渡してきた。
これならいけるぞ!
シェダルは鍵を渡すと、俺から離れた。
途中でブレーキを掛け、奴の方向へ向き、鍵を変える。
奴は後ろ向きで状況が読めていないのか、脳死でこちらに突進してくる。
『鎚スキル!』
「スキルチェンジ!」
『スキル解放! 潰しすぎる! 鎚スキル!』
鎚スキルになった瞬間に、俺は必殺技の準備をする。
『鎚スキル必殺!』
俺は鎚を横に構え、奴を吹っ飛ばす準備をした。
「いけえええええええ!!」
『鎚スキル! 潰しすぎフィニッシュ!』
目の前まで向かってきた奴に対し、俺は鎚をお見舞いしてやった。
奴の甲羅は粉々に砕け散り……絶命した。
「よくやったぞ!」
シェダルがこちらに近づいてそう言った。
「おう!」
俺たちはハイタッチをしようとした……。
「うおぉ!?」
「危ない!」
……俺はまたお姫様になった。




