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第百七十一話 目が覚めた、お姫様!

「……全く、以前したのは前祝じゃなかったのかよ」

「いいじゃないか、嬉しかっただろ?」

「……おう」


 気絶した俺は、しばらくして目が覚めた。

 全く……それをするなら予告しろよ……嬉しかったけどさ。

 シェダルは元気を取り戻したのか、いつものようにからかってくる。

 やっぱりこういうシェダルの方が好きだ。


「さ、そろそろ行くか! 準備はいいな?」

「ちょ、ちょっとその前に酔い止め薬飲ませて……」



「ほら! 置いていくぞ!」

「待てよ!」


 俺たちは第10階層を抜け、第11階層を滑走していた。

 全く、元気を取り戻したらこれかよ……嫌な感じはしないけど。


「昇! 目の前にモンスターだ!」

「えぇ? どういうの!?」


 ここからでは見えなかった。

 シェダルは途中でブレーキを掛け、止まった。

 俺はようやっとシェダルに追いついて……目の前にいるモンスターを見た。


「あれは……」

「……『アイスマッコーシュ』だ」


 あの甲殻類野郎の氷バージョンか……確かに見た目はカブトガニとザリガニをミックスさせて、その甲羅を氷にさせたような感じだ。


「あいつは通常よりも装甲が脆くなっている! その上でめちゃくちゃ攻撃が強くなっているから気を付けろ!」

「お、おう!」


 俺たちは滑走を始め、奴の様子をうかがった。

 奴はこちらを見ると……なんと、俺を後ろ向きで追いかけ始めた。


「な、なんだありゃ!? 気持ち悪!」


 確かにエビとかザリガニは後ろ向きで泳ぐけど……あんな図体のデカい奴がそれをやると不気味だ。

 ……と、ちょっと待て。


「めちゃくちゃ早いし、あいつの甲羅、棘生えてね!?」

「通常よりももっと早めに滑るんだ! 串刺しにされるぞ!」

「あぁもう!」


 俺は言われた通りに滑る。

 ……見た目はフィギュアスケートなのに、今やっていることはスピードスケートだ。

 このまま追いかけっこを続けていたら埒が明かないぞ……。


「昇! 距離を取ったら鎚スキルに変えろ!」

「……なるほど、分かった!」


 俺はシェダルの指示を理解した。

 今の距離は……3mくらいか? もっと離れよう。

 4m……5mは離れたか? 今のうちに鎚スキルの鍵を……。


「あぁやっべ!」


 まずい! 鍵を落としてしまった!

 このままじゃ対抗策が……。


「昇! 受け取れ!」

「ありがとう!」


 シェダルはいつのまにか俺と並走をしていて、鎚スキルの鍵を手渡してきた。

 これならいけるぞ!

 シェダルは鍵を渡すと、俺から離れた。

 途中でブレーキを掛け、奴の方向へ向き、鍵を変える。

 奴は後ろ向きで状況が読めていないのか、脳死でこちらに突進してくる。


『鎚スキル!』

「スキルチェンジ!」

『スキル解放! 潰しすぎる! 鎚スキル!』


 鎚スキルになった瞬間に、俺は必殺技の準備をする。


『鎚スキル必殺!』


 俺は鎚を横に構え、奴を吹っ飛ばす準備をした。


「いけえええええええ!!」

『鎚スキル! 潰しすぎフィニッシュ!』


 目の前まで向かってきた奴に対し、俺は鎚をお見舞いしてやった。

 奴の甲羅は粉々に砕け散り……絶命した。


「よくやったぞ!」


 シェダルがこちらに近づいてそう言った。


「おう!」


 俺たちはハイタッチをしようとした……。


「うおぉ!?」

「危ない!」


 ……俺はまたお姫様になった。

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