閑話 夢
「今だ! 決めろ! 昇!」
「おう!」
私たちは今、「敵」と戦っている。
奴はかなりの強敵だが……今の私たちならいける!
昇は必殺技を決めようとしていた、私も応戦しよう!
……そう考えていたその時。
「ぐわぁ!? がああああ!!」
「どうした!? 昇!」
昇が腕輪を抑えて苦しみだした。
なんだ!? 昇、一体どうしたのだ!?
『う、うわあああああああああ!?』
……ふと、ウトピアの頃の事がフラッシュバックした。
そう、あの学会発表の時の……あの研究員と同じに見えたのだ。
私は昇に近づき、腕輪を取り外そうとした。
……が、外れない。
まるで腕輪に根っこが生えているようだった。
「ぐわああああああ!!」
「昇! しっかりしろ! すぐに助けるからな!」
私は渾身の力を込めて腕輪を外そうとした。
早く助けないと……昇が!
「うわあああああ!!」
「うわぁ!?」
昇が私を突き飛ばした。
私は地面に叩きつけられた。
「昇……?」
「はぁ……はぁ……」
昇は目が血走っていて、両手で握りこぶしを作り、体中の筋肉が……脈打っているように見えた。
「おい! 昇! どうしたんだ! 昇!」
私は昇を呼び続けた。
……が、昇は何の返事もしなかった。
「はぁ……はぁ……潰す……」
「……昇?」
「潰す! 潰す! 潰す!!」
「おい! 昇!」
昇は咆哮を上げて……昇の体が変化した。
その姿は……頭からつま先まで金の装甲に身を包み、両腕からドライバーのような槍が生えていた。
金の装甲からは棘が生えていて、触れる事すらできないと一目でわかった。
「昇……?」
私は恐る恐る、昇に声を掛けた。
声に反応したのか、金の装甲を身に纏った昇が振り向いた。
「昇……」
「……」
昇は……黙っていた。
すると、昇の異様な姿を茫然と見ていた「敵」が、背を向けた昇に向かって襲い掛かろうとしていた。
「昇! うし……」
私が昇に対して警告をしようとしたその時……昇は腕の槍で突き刺した。
「敵」は突き刺さったまま動かなくなり……血を噴き出していた。
昇は自らの足で敵を槍から剥がした。
敵は倒れたまま……動かなくなった。
「昇……お前……」
「……」
昇は倒れた敵に乗っかり……再び槍で突き刺した。
それを抜いてまた突き刺し、また抜いては刺し……。
動かなくなった敵に攻撃を続けた。
「昇!」
私は昇の一連の行動を止めようとした。
……だが、私の声が届いてないのか……聞いていないのか……昇が突き刺すのを止めなかった。
「やめろ! 昇! そいつはもう死んでいる! それ以上やっても何にもならない!」
「……潰す」
「やめるんだ!」
私は昇の肩を掴んで止めようとした……。
「……え?」
振れた掌を見てみると……血が出ていた。
棘だらけの昇は……もはや触れる事すらできなかった。
もう昇に触ることができない、もう抱き締めることも、背中を擦ることも……。
昇は未だに突き刺すのを止めない。
「……潰す……潰す……潰す……」
昇は小声でつぶやきながら、突き刺している。
止めなきゃ……止めなきゃ……。
私は……昇を……止めなきゃ!
血まみれになってもいい! ……私は昇を抱きしめた。
私の体に痛みと熱い感触が伝わる。
私の血液が昇の全身を汚している。
それでも、止まるまで私は昇を抱きしめる。
昇……。
「お願いだ……やめてくれ! 昇!」




