閑話 弓使いの過去 前編
物心ついた時から、パパの顔をあまり見ていない。
理由はパパが国を守る仕事に就いているからだった。
そのことを知ったのは小学校の頃、ママに聞かされた。
「パパはね、私たちを守るための仕事に就いているんだよ」
「そうなの!? パパ、かっこいい!」
……そう、最初、ウチはパパの事をカッコいいと思っていた。
ウチらを守るために、毎日戦っている、だから、たまにしか帰ってこなくても、何とも思わなかった。
「ただいまー! 悠里! 帰ったよ!」
「パパ! おかえり!」
パパが帰ってくる日は、飛び上がるほど嬉しかった。
パパが帰ってくると、必ず家族でどこかに出かけた。
……その日、ウチらはショッピングモールに出掛けた。
パパはその日、私の為にオシャレなバッグを買ってくれた。
すごく嬉しかった、大人になった気がした。
そう思っていると、前の方で悲鳴が聞こえた。
悲鳴の先を見ると、人々が手で体の一部を抑えていた。
よく目を凝らしてみると、刃物を持った男が、こちらに向かって走ってきていたのだった。
ウチは怖くなって、思わず叫んだ。
すると、その叫び声を聞いて気が立ったのか、刃物を持った男がウチに向かってきた。
このままじゃ死んじゃう……と思ったその時だった。
パパが体を張ってウチを守った。
パパの腕に刃物が刺さっていて、そのままパパは男に回し蹴りをした。
男は倒れ、周りにいた警備員が男を取り押さえた。
ウチはパパの腕に刺さった刃物を凝視した。
凄く痛そうだった、凄く苦しそうだった。
それでもパパは私に笑顔を見せてきた。
「悠里! 大丈夫か?」
パパは荒い息遣いでそう言った。
ウチはただ、頷くことしかできなかった。
ウチの頷きを見たパパは笑顔になって……倒れた。
「パパ! パパ! 死んじゃいやだよ! パパ!」
私はパパを揺さぶった。
ママもパパに駆け寄って、呼びかけた。
パパは笑顔のまま、片手で私の頭を撫でた。
「悠里……お父さん、頑張ったよ……」
「……パパ!」
パパはそのまま、目を閉じた。
……最初は死んじゃったと思った、でもその後救急車に運ばれて、奇跡的に軽傷で済んだらしい。
その後、パパは警察から表彰された……らしい。
ウチはこれ以降、傷口やグロい物が苦手になった。