閑話 科学者の過去 中編2
そこからは、退屈な日々だった。
私は家に戻り、母と二人でひっそりと過ごすことにした。
母は「開発」スキルで、様々な事業をやっていたので、私はそれを手伝うこともあった。
しかし、それはとてもつまらなかった……私とやりたいこととは、違かったのだ。
……私はどうすればいいのか分からなくなった。
折角自分の研究の成果が出たのに、折角スキル社会を打倒できるようなものができたのに。
私はもうどうでもよくなって、母を真似して、片っ端から色んな事業を展開した。
商会に学校、建設に傭兵組織、ありとあらゆる事業をだ。
腕輪の力で、どうにでもなった。
そうしているうちに、私の手元には消費しきれないほどの大金が手に入った。
普通そんな状況になれば、飛び上がるほど嬉しくなるだろう。
だが、その時の私に、そんな元気など無かった。
事業を売って、私はフラッと放浪の旅に出た。
目的地など無かった、死ねるなら死にたかった。
街に着けば意味もなく買い物をし、ダンジョンに入れば腕輪でモンスターを倒し、暴漢に襲われれば腕っぷしで圧倒した。
そんな時、「あいつ」と出会った。
どこかの街で出会った女だった、最初の出会いは……山で魔法修行をしている姿を見ていた時だったかな。
そいつは的に目掛けて魔法をひたすら打っていた。
それを興味本位で見ていたら、向こうがこちらに気づいて、近づいてきたのだ。
「あなた誰? ここで何をしているの?」
その女は、青色の髪が特徴的だった。
身長は私と変わらない、見た目的に魔族の子供だと判断した。
「魔法、頑張っているみたいだな」
「うん、でも、私は魔族なのに……魔法が下手くそで……」
話を聞くと、どうやら洗礼式で「掃除」スキルと判別されたらしく、周りから馬鹿にされているらしい。
何とか見返そうと、魔法の練習をしているとのことだった。
私はその姿を、私立校に通っていた自分に重ね合わせた。
私はその女に魔法を教えた……腕輪を使って。
次第にその女は、魔法がどんどん上達した。
ダンジョンに入り、モンスター相手に練習もした。
日が経つにつれ、そいつは私が援護せずとも、一人で対処できるほどに成長した。
「ねぇ! 先生! 私、先生にお礼がしたいの!」
「ほう、そうか、期待しているぞ!」
その女はある日、私にお礼がしたいと言っていた。
私はそれが楽しみで仕方が無かった、一体どんなお礼をしてくれるのだろうと思った。
だが……。
「開けろ! 我々は諜報局の者だ! お前に国家転覆罪の容疑が掛けられている!」
突如、宿泊していた部屋のドアを叩く音がした。
その時私は寝ていたのだが、その音に叩き起こされた。
そして、その諜報局を名乗る集団に言われたことに、私は耳を疑った。
国家転覆罪? 何の罪だそれは?
恐らく、色んな事業を展開していく中で、何かが政府の逆鱗に触れたのだろうと判断した。
すかさず私は、奇跡的に上手く作ることができた転移スキルの鍵でその場を去ろうとした……が。
(あの女のお礼……受け取ってないな……)
私の中で、迷いが生じた。
だが……。
「10秒以内に投降しろ! さもなくばこの扉を強行突破する!」
……まずい。
このままでは、お礼を受け取る前に、私の命が危うくなる。
(すまない……)
私は転移ホールに入り、宿泊先を脱出した。
「動くな! 諜報局だ! ……あれ?」
「いない!?」
「どこだ!? 探せ!」




