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閑話 御曹司の過去 前編

「ただいま戻りました、父さん、母さん」


 小松工務店。

 江戸末期に、大名の家臣が設立した建設会社で、戦後、ビル建設や巨大なコンサート会場やスポーツ会場の建設を担い、現在は建設だけではなく、あらゆる事業に手を出している小松グループの中心的存在。


「遅かったな、翔琉、何をしていた?」


 その小松工務店の20代目当主、「小松恵吉こまつ けいきち」の息子が俺、小松翔琉だ。


「はい、友人が大怪我をしたので、叔母さんの病院まで運びました」

「ほう……それほど大事な友人なら……相当使える奴なのだな?」

「……そうですね」


 俺は幼少期から、このように親に教えられた、「人を見極められる能力を身に着けろ、時には切り捨てる覚悟を取れ。」と。

 最初は何も疑問を持たなかった、友達になった人間も、俺は切り捨てる覚悟でいた。

 だが、ある日を境に、その考えに対して疑問を持つようになった。

 それはいつだったか……。


 ある日、俺は習い事を終え、帰りの車を待っていた。

そこで俺は、子どもには厳しすぎる光景を見た。

男数人が、か弱そうな男1人を集団でリンチしていたのだ。

通行人は、数人いたが、皆見てみぬふりをしていた。

車通りも少なかったので、攻撃を仕掛けている男たちの罵声がこれでもなく聞こえた。


「テメェ! またしくじりやがったのか!」

「全部売り切るまで戻ってくるなって言ったよな!」

「ほんとクソ使えねぇな!」


 男たちは一通り殴り終わると、ヘラヘラ笑いながら捨て台詞を吐いた。


「お前もう絶交~」

「お前を拾った俺たちが馬鹿だったよ」

「二度と顔見せんなよ!」


 ……俺は当時、何故彼が殴られたのか理解できなかったが、時が経ち、その意味を理解した。

彼は何かを売れと命令され、結果的にそれが達成できず、一方的に切り捨てられた。

彼は友達だと思っていたのに、たった一言でその関係が破れた。

これが父の言っている「切り捨て」なのかと考えた。


 ……俺は、そんな父の考え方は間違っているのではないかと考え始めた。

更なるきっかけは小学校5年生の頃、あのウトピアとダンジョンの出現だ。

当時の俺は何が起きているのか分からなかった。

 父は父で、会社がどうのこうの、母は母で、財産がどうのこうのと、自分の事しか考えていないなかった。

 俺はこの時、この2人にとって「仲間」や「友達」というのは、単なる自分を上げるための道具に過ぎないのではないか? と考えた。

 そしてそれから間もなくして、学校でのスキル認定が始まった。

俺のスキルは「剣」みんなもスキル認定され、一喜一憂していた。

だが、一人だけ、明らかにテンションが低い奴がいた。

東雲しののめ いさむ」、俺の当時の友達だ。

奴は東雲商事の社長の息子で、俺よりも成績が良く、運動神経も抜群だった。

いつも明るい奴が今まで見ないくらいテンションが低かったので、俺は帰り道に聞いてみた。


「なぁ、どうしたんだよ? さっきからテンション低いじゃん」

「……」

「おい、勇?」


 勇は下を向きながら歩いていた。

 このままでは柱などにぶつかってしまう、そう思った俺は勇の肩を掴んで、一旦立ち止まらせた。


「おい! 黙ってないでなんか言えよ! どうしたんだよ!」


 すると、今まで口を開かなかった勇は、ゆっくりとその心情を語った。


「俺のスキル……『料理』だってよ……意味わかんねぇよ……」

「いいじゃねぇか料理! メシ作り放題じゃん!」


 俺は勇を励まそうとして、そう言ったのだが、それが奴の琴線に触れたのか、俺の腕を払いのけて、怒り出した。


「お前にはわかんねぇよ! 俺は将来的に父さんの後を継ぐために、中学は地元の学校よりも何千倍も優秀なところを志望していたのに……これじゃあスキルで弾かれちまうよ!」

「落ち着けよ! 別に料理スキルだって……」

「お前はいいよな! 剣スキルという平凡中の平凡でよ!」

「あ、おい!」


 勇は泣きながら俺を横切って交差点へ走った。

……そこに。


「危ない! 勇!」


 ……既に遅かった。

 電子的な警告音が道路に鳴り響、勇はその音を発する鉄の塊に激突し……。


「勇!」


 勇は……動かなくなった。

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