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19 甘味は誘惑の甘い罠


 カンカン。

 キンキン。


 金属音と木が何かとぶつかる音が聞こえる。

 ここは訓練場。


「熱気が……凄い……」


 三十人ほどの騎士達が打ち合いをしたり、案山子相手に木製の剣でひたすら打ち込みしてたり、とりあえずなんか各々で自主練している。


 あ、ちゃんとあのこわーいライオネルが居ない事は確認済みです。

 討伐に行ったので2、3週間は帰ってこないそうです。やったー。


 やっぱり怖い人いたらやりにくいじゃん、こういうこと。


「さてさて、ルー達は……と、居た!」


 頑張って案山子に打ち込みしているのは三人組。皮の鎧を着けて頑張っている。

 本格的に打ち込みをしているのはルー。軽装の金属の鎧を着けて真剣での打ち合い。

 流石、年齢制限を超えて騎士になっただけあります。


 ルーには声をかけられないので、三人組……の中でもへばってるポールに声をかける。


「ポール!」

「んえ?わあ、お料理聖女様だぁ」

「ケイだよ」

「ケイ様ぁ、どうしたんですか?ここは危ないよお?」

「差し入れ持ってきたんだ!みんなで休憩しよ」

「差し入れ!?わあーい!休憩だあ!!みんなーー差し入れだってー!!」


 私が声を掛けると、木刀を放り投げ走り出して騎士達に伝えるポール。おい、お前さんさっさまでへばってたやないかい。

 差し入れの力は怖い。特にポール。


「ケイ様、ありがとうございます。他に手伝うことはあります?」

「厨房にまだはこべてないのがあるんだけど、それを……」

「了解しました、すぐ持ってきますです!」


 ヤックがさっと動いて厨房まで走る。

 みなまで言わずとも、の働きをするんだよな、ヤックって。頭の回転が速いんだろうとは思うけど、最後まで聞かないのも困る気がする。特に、こういう騎士とかいう職業は。

 ヤックは騎士と言うか……もっと別の職業のが向いていそう。たとえば商人とかさ。


「おい、それ、貸せよ」


 考え込んでたら、後ろからダンが私が持ってた荷物を奪って持っていった。びっくりしたけど重かったから助かった。

 私が指示するまでもなく、ダンはどこからか木箱を持ってきててそれにパンプディングや、ラングドシャを並べてくれていた。

 ダンは口数すくないけどよく周りを見て、自分が今何をすべきか、をきちんと理解して行動する。リーダー素質があるんだよなあ。

 うん、ダンは本当に騎士向きだね。天職なんじゃなかろうか。将来がとっても楽しみです!


「ケイ様あー、みんな呼んできたよお」


 ポールの後ろから騎士達がぞろぞろとついてきた。ポールは見た目からか人懐っこくて騎士達から三人組の誰よりも愛され構われている、言わばこの騎士団のマスコットキャラ的な存在だ。ケンカしててもポールがいればすぐ収まる癒し系。そのくせ食には機敏で貪欲なので、騎士と言うよりコックの方が向いてると思う。


「えーと、パンプディングとラングドシャという異世界のお菓子を作ってみました。どちらも甘いのでお口に合えばと思います!」


 集まった騎士達が興味津々にダンが並べてくれたお菓子を見ている。


 甘いお菓子、と言ってもこの世界には無かったものなのでみんな不思議そうに見ている。

 そりゃそうだ、未知なる食べ物だもんね、警戒しちゃうか。失念した。


「わー!おいしそう!ボク、このラングドシャ?ってのから食べたーい!いっただきまーす!!」


 困惑している騎士達をそっちのけに、ポールが空気を読まずラングドシャをぱくり。

 騎士達の視線がポールに注目されるも、気にせずパクパク食べていくポール。

 騎士達は、ポールの感想待ちだ。


「お、美味しいー!ボク、こんなの食べたことないっ!あまぁいのがほろほろーで口で溶けるのぉ!」

 

 数枚食べたあと、ほっぺを両手で抑えながらポールは叫ぶ。その一言を皮切りに、お腹をすかせた騎士達がラングドシャに殺到。

 出遅れた騎士の一部はパンプディングを食べているポールのもとへ。

 当然これも配膳してはうれる、という感じで直ぐに無くなった。


「これが異世界のお菓子というものなのか」

「あまいけど色んな味がする!」

「甘いの食べたくなったらはちみつを舐めればいいとおもっていたけど……これは別格だな」

「異世界はこんな素晴らしいものを食べているのか!」


「「「「異世界ってすごい!」」」」


 今にも神に拝まんとする騎士達だったが、作ったのは私だと分かっているので熱視線が集中した。私的にはこの世界が異世界なのでこちらの方がすごいと感じるんですがね。

 立場変われば価値も変わるってね。


 瞬殺で無くなったお菓子の追加をヤックが持ってきてくれたけど、これも一瞬でなくなってしまったとさ。



***********



「ねえ、ルー?団長さんは居ないの?」


 お菓子もあらかた配り終え、皆さん今は落ち着いて各々お茶や水を飲んでいる。

 ちゃっかり自分の分を確保してラングドシャを食べながらルーは宿舎を指さして。


「あそこです」

「あそこって……団長室?」

「はい。団長は滅多に自室から出ませんから」

「そうなの!?」

「そうですよ。なのでケイ様と御一緒に食堂へ来た時はびっくりしました」


 だからあの時モーゼだったのか、納得。


「じゃあ、普段の食事とかはどうしてるの?」

「当番制で届けに行ったり、ですかね?ですが食事を取られないことも多いので……お断りになることが多いです」

「な、んだ……と……」


 それはダメだ。由々しき事態を暴いてしまった……聞いたからには放っておけないではないか。

 なんとなく騎士達との壁を感じていたのはこういう事なのだろう。何か事情はあるんだろうけど、食事を取らないのは頂けない。

 やっぱりお菓子、届けよう。


「ケイ様、今度お菓子の作り方も教えてくださいね」


 ルーはラングドシャが気に入ったみたいで、大事そうに食べながら懇願する。


「うん、もちろん!ラングドシャ気に入った?」

「はい!このホロホロとした食感が楽しいです!」

「そっかそっか、これ、マヨネーズ作る時に余った卵白で作るから次にまた大量にマヨネーズ作る時に作ろうね」

「はい!!楽しみにしてます!」


 マヨネーズは当番制で大量に作ることが決まったらしい。ポールが一番気に入ってるので積極的に作っていくそうだ。


 ああ……この世界にマヨラーを誕生させてしまった……。


 異世界もので必ずと言っていいほど調味料チートするマヨネーズですからね……沼ですよ、沼。


 しかしまだまだマヨネーズのポテンシャルは引き出せていないし、マヨネーズはズボラ料理には欠かせないし万能で凄いのでちょこちょこ出していこうと思う。

 それにはまずは柔らかいパンを作りたいし、なんならパスタでもいい。


 そういえばお昼も作らなければなので自分の分のお昼は何にしようかな、なんて考えていると騎士達がザワザワとしているのに気が付いた。


「お料理聖女様がきてから、美味しいもの食べられてるよな」

「そうだな……この二日だけで神の食べ物を何度食べたか……」

「昼も食べられるかな?」


「「「「お料理聖女様……」」」」


 みんなの熱視線が痛い……。

 私は聖女じゃ無いので反応しませんよー……。

 

「……ルー、私そろそろいくね」


 ここは逃げるが勝ちです。

 なんとなく感じる騎士達のプレッシャーに、大事になる前に退散しようと思います。

 今は居ないけど何かあったらライオネルに角が生えてまた怒られるからね。


 それに来てそうそうに騎士達の胃袋を掴んでしまったようだけど、全員分を毎回は私にはちょっとプレッシャーなのです。


 気が向いた時に一品、とかならいいんだけどね、それに私はここにずっといる訳じゃないし、ずっと居られない。


 いつか離れなければならないのだからあまり料理しない方がいいのかな。

 こういうことも相談しにいこう。いや、しなければ!


 みんなが使ったお皿を片付けつつ考えていると、綺麗に完食されているパンプディングの空皿を見て、それはそれで嬉しくてによによするわたしなのであった。

 




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