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36 夢でも逢えるなんて素敵

 沙漠と火の国の連中がぞろぞろと町に向かって歩きだすさまを、ザウターは岩陰からうかがっていた。

 浜辺には大きな岩塊がそこかしこにあったので、身をかくすには困らなかった。


 ティファナはかがんでいるザウターに寄りかかるようにして寝息をたてていた。

 苦しそうな様子はなく、むしろ昼寝をしているかのようにやすらかである。


 敵一味のすがたがのぼり坂を折れて死角に入ったので、ザウターはティファナの頬をかるく平手でうつ。


 ティファナはびくっと痙攣したのち、やや不機嫌そうに目を醒ました。


「……おはよう?」

 ティファナはむくりと起きあがると大きく伸びをした。

 すらりとした白い腕は間近でみると血管が透けてみえる。


「この景色もオレたちも幻像じゃないよな」ザウターが訊ねると、「ん?」とティファナは口をつぐんで両目を見開く。


「やだなぁ、自分が不確かなの? じゃあ、確かめる方法を教えるよ!」ティファナはにやりとしたのち、ザウターの背中に腕をまわして抱きついてきた。「ほら、あったかい!」


 身体を投げだしてきたので、思わずよろめきそうになったが、なんとか受けとめた。ティファナの感触は、幼い頃からずっとそうであるようにあたたかく、そしてやわらかい。


「わかったわかった。オレが悪かった」じっさい感触や体温も幻覚の可能性はあるだろうが、ティファナが離れてくれそうもないのでザウターは観念した。


 するとクスクス笑う複数の声が聞こえた。


 ザウターははっとして身構え、声のほうをにらむ。

 ティファナがからみついているので武器をとりだすことはできなかったが、その必要はなかった。

 声のぬしは全員子どもだったのだ。


 (二人がかくれている)岩のうえから二人の少年が身をのりだし、岩の横から少女が一人のぞきこむようにしてザウターたちをみつめていたのである。


「あ、気づかれた! もうちょっとでキスシーンだったのにな!」と少年の一人が叫ぶ。「みつかったぞ、にげろ!」もう一人が顔をひっこめ、岩の背後に跳びおりる。

 少女にいたっては、きゃあきゃあ奇声をあげているだけだった。


 ザウターがティファナをひっぱがしているうちに、子どもたちは一目散に駆けだしていた。

 どうやら間近にいたのが三人だっただけで、全体では七人ほどいるグループのようだ。

 町の悪ガキたちにちがいない。


「こらー! きみたちにはまだ早いぞー!」ティファナが右手をグーにしてふりあげながら笑う。


 それによって火に油をそそいだみたいに、子どもたちは歓声をあげて盛りあがった。


「ふふ、みせつけちゃったね」ティファナがにやにやしながらふりかえる。


 ザウターは気にせず目を細める。「しかし、ここはいったいどこだ?」


 ティファナは返事をする代わりに、両耳に手をそえて黙りこむ。

 うさぎのまねでもしてるかのようだった。


「なんかねぇ、さっき眠りから醒めるとき、波のなかにいるみたいな、そんなふわふわした感じだったんだ」ティファナは口をとがらせる。


 うさぎのものまねと合わせると、だいぶおかしい。


「海の浅瀬で寝てるみたいで気持ちよかったんだよ」すると、ティファナはその不可思議なしぐさをやめる。「もしかしたら夢のなかだったりして」


「……夢だとしたら、だれの夢だ?」ザウターは同調してみることにした。「オレの夢に、ティファナたちがでてきているわけじゃないんだろうな」


「夢でも逢えるなんてすてき」ティファナは身をよじる。「でも、ちがうかなぁ」


 ザウターはその意見について考える。「オレたちではないなら、だれか夢をみてるやつがいるってことだな?」


「うん」ティファナは大きくうなずいた。「きっと、きれいな人だよ。きれいな人のきれいな夢なの」


 どう返答すればよいかわからなかったので、ザウターが「オレたちも町にいってみよう。そのだれかに逢えるかもしれない」と提言すると、ティファナは「お散歩だね!」と急に興奮した。


「あんまりはしゃぐなよ、連中にみつかってもよくない」ザウターが警告するのもむなしく、ティファナは一気に10メートルくらい走ってからふりかえり、「はやくはやく!」と両手をふりまわして急かしてきた。

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