13 半分夢の中
それが歌だということを理解することに時間がかかった。
アルバートははげしい船酔いで嘔吐して失神したのち、みずからが半分夢の世界にいるような錯覚におちいっていた。
あるいは完全に夢のなかだったのかもしれないが、すでに簡易ベッドに寝かされている状態だったのでどちらでもおなじことだった。
船旅の経験がなかったこともあり、アルバートは波のゆれに耐えられなかったのである。
馬車なんかで乗り物酔い体質であることは知っていたが、船酔いのそれは経験不足だったことはいなめず、とにかく想像以上で不覚をとった。
直前に重労働していたことも災いしたのではないだろうか。
自覚症状がでたと思ったら、あっという間に立っていられないほど悪化してしまった。
胃のなかにあるものをすべて吐きだしてしまわないとめまいがおさまらなかったし、胃がからっぽになってもしばらく吐きけがつづき、食道がふるえた。
水さえ受けつけない。
ジェラルド王子たちのまえで醜態をさらしてしまったことよりも、ルイのまえで不始末をやらかしてしまったことのほうに緊張感というか恐怖心があった。
目醒めたら、あれやこれやどやしつけられるに決まっている。
憂鬱だった。
なぜかルイのまえでだけ、いつもよりふがいない自分をみせつけてしまう悪運があるような気さえする。
でも、船酔いに関しては体質の問題なんだからしかたないじゃないか……、アルバートは(夢か現実か)目前にいて不服顔をしているルイにいいわけをこころみる。
するとふしぎなことにルイのけわしい表情が、ウェルニックの温和な、それでいてごつい顔になったり、ベリシアのやさしいまなざしになったりした。
顔や頚がぬれた布でふかれているような肌ざわりも感じる。
そして、ベリシアの慈愛の瞳が遠い記憶の一端――赤ん坊の頃ゆりかごのなかからみた母親のそれとシンクロしたかのような気がしたとき――その歌が聞こえたのだった。
白い雲とともになだらかに空をとんでいるような気持ちになる、高い音域の伸びのある歌声だった。
最初はとても遠くに聞こえたが、やがて耳になじんできた。
きれいでここちよいソプラノの歌声だった。
母親が歌っている子守唄だろうか――アルバートは漠然とそんなことを考える……。




