プロローグ
雲一つ無い晴天で、太陽が草原と一本の道を照らしていた。
そしてその道には、一台の馬車が走っていた。
その馬車には、荷台いっぱいに積まれた木箱と、そしてその荷台に余ってる少しのスペースには、一匹の毛が白黒の猫と、白と茶色が混ざった毛の犬の二匹が寝ていた。
そして、馬車には猫と犬とそして、一人の若い少年が乗っていた。
その若い少年は、少し長い赤髪の、赤目で目付きは鋭いが何処と無く優しい雰囲気を出していた。
・・・
僕は荷台に乗っている猫のタマと、犬のハチを後ろを振り向いて、そして撫でる。
二人とも気持ち良さそうな声を出した。可愛い
そして、太陽が下がってきた頃に、大きな城壁と城門があった。門の脇には剣を持った兵士らしき人物が二人居てそして右側には大きな詰め所があった。
僕は、城門の前まで言って兵士に呼ばれる。
「行商人さんですか?身分証明書の提示をお願いします」
僕は横に置いてあったバックを漁り、身分証明書と提示すると、兵士はそれを返して、身分が確認出来たのでどうぞ、と敬礼しながら城門を開けてくれた。
僕は馬を走らせ、馬車を発進させた。
・・・
「今日はどうしようかな」
と、僕は呟きながら町を見渡す、町の家には天井にまで生えたつるや、壁が崩れていたり住んでる様子はなかった。
そして、なかなか宿屋らしきものも見つからない。
「今日は野宿かな」
そう諦めて呟いたら、右から女の子らしき声が聞こえた。
なんだ、と思い右を見てみると一人の美少女が居た。
同じ年くらいの黒目がパッチリしていて長い黒髪に整っている顔、美少女以外の何者でもなかった。
その美少女は、手を振りながら近付いてきた。
「行商人さん、宿探してるでしょ?うちの宿どう?」
と提案してきた。
僕は特に拒む理由もないので、泊まる、と言って案内すると言った美少女の後ろを着いていく。
三分ぐらいすると、女の子が着きました。
そう言って僕の左斜め前にある宿屋を紹介してきた。
その瞬間僕が思った事は、ただ一つだった。
それは、物凄く“ボロい”ということだった。
民家などよりは広いし、宿屋みたいだが状態が悪くて、宿屋とも呼べないし、民家とも呼べない。
ていうか、経営状況が物凄く心配になる宿屋だった。
僕は思わず
「ここであってますか?」
と聞いてしまった。
美少女はすぐに
「私の宿屋であり、私の家なんですよ?間違えるわけがないじゃないですか」
と返してきた。
そりゃそうだ、間違うはずがないが、僕はただただ嘘であって欲しい、間違いであって欲しい、そう願った、が、その願いは叶わず、美少女に中に入ってどうぞ、と言われた。
さすがにヤバそうなので僕は、やっぱ泊まりません。
そう告げると、美少女は悲しい顔になりながら言った。
「私、もうこの宿屋、閉めようと思うんです」
僕は意味が分からなかった。閉めるのは分かる、こんな状態だし経営状況が良く無いことは誰にでも分かる。だが僕に言う必要はなんだろう、そう思っていたら美少女は悲しい顔のまま続けた。
「私の家系は代々宿屋を経営していたんです。
先先代までは大繁盛していましたが、先代、母親の時代、二十年程前に二つの災害が起きました。知ってますか?」
「知ってますよ、魔物の大発生と水害でしょ?」
「そうです、行商人さんの言ったその二つです。
最初に起きた魔物の大発生では、宿屋が全壊しました、借金もして、そして客足も九割減りましたが、宿屋を直し二年程すると客足も戻ってきました。
ですが、その半年後にあの水害が起きたんです、
近くにあった大きな川が氾濫し、うちの宿屋も浸水し、また建て直すことになりましたが、母親は、魔物の大発生の時みたいに客足が戻ってくると思ってましたが、そう上手くいかなかったんです」
すると、美少女は目が潤ってきた。
そして続ける。
「水害で、出ていく人が多かったんです。
魔物の大発生から例え二年半程立っているとしても、商売を生業にしている者は魔物の大発生で、商品が駄目になり、借金してなんとか立て直したのに水害でまた駄目になり、立て直せなくなりどこかに行ってしまいました。農家も他の職業もそのような感じでみんな出ていきました。
もう、この町に残っているのは、ここで働かされてている奴隷か、貧困の人々ばかりなんです」
「そうか」
「だから、売り上げも無くて宿屋を閉じることにしたんです。だから、だから」
その美少女は、頬に一粒の涙を流し、右手で目を擦りながら言った。
「最後のお客様に、なってくれませんか?」