47・マリンちゃんに手を出す奴は許さない!
サバルナ獣人国とエルファリアの会談が始まろうかという時に、何者かの精神攻撃がその場を襲った。
おそらくレジストに成功したのは数名だろう。参ったなぁ、どうすっかなぁ。
「お姉様に近づくな、殺すぞ、貴様!」
「ランスロード様、コイツらは俺が殺ります! マリン様の避難を!」
「おいどんに任せるでごわす、奥方には触れさせん!」
「メソの姉貴はあっしが守るでやんす! 根性でやんすよ〜!」
蜘蛛女、ブーザン、ヨドン、狸くんが次々と飛び出し、争いを始める。
みんな言ってる事がバラバラだな。
操作や魅了ならバラバラにはならない。
支離滅裂な事を言っているわけじゃないから混乱でもない。
だとすると、仕掛けられた精神攻撃はおそらく幻覚。それも個別に違う幻覚を見せられているんだろう。
全く、厄介なことになったな。
レジストに成功したのは、奥さんとトンコちゃん、それにクロスだけか。
僕が真っ先に心配したのはマリンちゃんだけど、気絶しているみたいだ。身体に影響はないみたいだし、トンコちゃんがしっかりと抱き抱えているから心配はないけど、何故気絶したのか?
考えられるのは、マリンちゃんだけは幻覚ではなく喪失系、おそらく昏倒の攻撃を受けたという事。しかしなんの為に?
もう一つおかしいのがエレンスィリアの様子だ。エレンスィリアは精神魔法が得意だった筈。そのエレンスィリアがレジストに失敗した? かと言って幻覚を受けている様子もない。
何か別の、わかんないけど、別の何かに支配でもされているような感じだ。
もしやエレンスィリアが、いや、ないなぁ。メリットがないし、今のエレンスィリアの状態の説明がつかん。
ああ、もう、わけわからん。
ただ一つだけわかっているのは、何者かが精神攻撃を仕掛けてマリンちゃんを気絶させたという事実だ。僕のマリンちゃんをだ!
マリンちゃんを攻撃するなど、この世界にあってはならない程の大罪! 許される筈がない。
見つけ出して思い知らせてやらなければなるまい。後悔する暇すらない程の苦痛を味合わせてやろう。
それを行うことは面倒くさい行為ではないし、嫌でもない。世界の意思であり、僕の義務だ!
「あんた、クロス、コイツら全員叩きのめ」
「マリ、メソ、タツキ、ライオル、全員ぶっ飛ばし」
「獣人兵ども、エルファリアの奴らを全員ぶっ殺せ! 俺の妹を助け出すんだあ!」
「我がエルフの戦士達よ、サバルナの者共を壊滅しわたくしを助けなさい!」
奥さんとナスカくんの言葉が、シヴァルとエレンスィリアの大声で上書きされてしまった。
途中までしか聞こえなかったけど、奥さん、ナスカくんもだけどぶっ飛ばして正気に戻そうってのかな、二人共強引だなぁ。まあそれしかないかもしれないけど。
それに幻覚を受けてるシヴァルはともかく、エレンスィリアがエルフ兵に命令するってどういう事だ? 幻覚を受けてるのか?
「「「「「「オオ〜!」」」」」」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
シヴァルとエレンスィリアの言葉に答えたエルフと獣人の兵達が、横幕を破り乱入してくる。全く、また厄介な事に。
ドゴオオォォン! ズタアアァァン!
「呆けている場合ではないのだナスカ! 兎に角今は、殴って止めるしかあるまい!」
「それしかないよな、お前も動けよランスロード」
乱入してきた兵達にクロスと僕がナスカくんと同じくらい警戒していた小さな女の子が攻撃を始めた。
やっぱり竜族の関係者か。
女の子は姿を変えていた。
頭にツノを生やし、両手足の爪が伸び、立派な太い尻尾が生え、背中にはドラゴンの羽。身体の一部にも鱗が見えている竜人とでも言うべき姿へと変化していたのだ。
スドオン!
「ぐふぅ!」
「脳筋馬鹿獅子と人間の小僧! あんたらも手伝いなさい! ほら、あんたもだよ!」
ゾーンさんを蹴り飛ばしながら奥さんが檄を飛ばす。
嫌だなぁ、幻覚を見ているとはいえ、仲間をぶっ飛ばすのは気が引けるなぁ。
先程は自分から似たような指示を出そうとしていたナスカくんも、今は動けないでいる。
この子も多分、仲間を攻撃する事に抵抗があるのだろう。一度は決断したけど、その指示を遮られた事でブレてしまっている。
良い子なんだろうな、ナスカくん。
「ごめんねエアちゃん」
ズダアンッ!
「悪いわねガラジャ」
ドシイィン!
ヴィアさんの檄に答えたのは、獣人化した女の子と人間の女の子だ。
獣人化した女の子は狐さんみたいな姿になった。人間じゃないとは思ってたけど、獣人化って事は幻獣系なのかな? でも幻獣に人化は出来ないから霊獣? 霊獣は獣人化出来ない筈だから他にも何かあるんだろうな。
人間の女の子も闘気と魔力を高めている。そしてそれは僕の予想以上だった。
人間レベルを遥かに超えている。
この娘、300年前の僕と大差ないんじゃないのか? 持ってるスキルがわからないから断言出来ないけど超人レベルじゃないか!
ナスカくん、竜人の娘、狐の娘と超人の娘。この四人だけで、ヴァンレイン亜人国の全戦力よりも上かも知れないじゃん。やだやだ。
「ウィンドショット!」
ブワッシャアァァッ!
「きゃああぁぁ!」
突然の風魔法でトンコちゃんが飛ばされた。やっぱりコイツ・・・。でも何故?
「お嬢様、マリンお嬢様ぁ!」
「おい、どういうつもりよ性悪女」
マリンちゃんを奪われたトンコちゃんが手を伸ばし、ヴィアさんが鋭い目付きで睨みつける。
もう理由なんてどうでもいい。
「悪いわねヴィア、貴女達にはもう少しの間、大人しくしていて欲しいんですの」
その汚い手を。
「そういやああんた精神系の魔法が得意だったわよね。この状況もあんたがやったって事でいいのかしら」
今すぐにその汚い手をどけろよ!
「ええ、幻覚を見せているのはわたくしよ。そうそう、心配はしなくていいわ。この娘に掛けたのは昏倒ですからね、命に別状はないわ」
その汚い手でその娘の頭に触るな!
その汚いナイフをその娘に向けるな!
その汚い息がその娘にかかる、今すぐに呼吸を止めろ!
止められないなら、この僕が止めてやるよ、マリンちゃんを離せ、エレンスィリア!
ピクッ
エレンスィリアの手が一瞬揺れる。
「動いては駄目よランスロード。いくら貴方でもわたくしがこの手を引き抜くよりも速くは倒せないでしょ」
僕の僅かな動きに反応して、エレンスィリアがマリンちゃんの首筋にナイフを当てがう、そしてその手に力を込めた。
クソ、動けない! 可愛いマリンちゃんに擦り傷一つ付けるわけにはいかない。
このクソ野朗が、絶対に許さんぞ!
「きゃあっ!」
「こんまいのが出しゃばるもんじゃないっべよ」
ユールがアライグマの娘を捕まえた。こんな時に何やってんだよユール、いつまでもクソエルフに幻覚見せられてんじゃねえよ!
「ラスリルを放すっす、デカ女!」
「待て、ポンキチ!」
「出しゃばるなって、言ってっべよ!」
ドゴンンン!
「ぐぎゃあぁ!」
「がふうっ!」
グシャアン!
ユールが捕まえていたアライグマの娘で助けに入った狸の子を殴る。そのままユールはアライグマの娘もろとも狸の子を天幕を囲む柵の杭へと投げつけた。
ナスカくんの制止は間に合わない。
「ぽ、ポンキチ、ラスリルぅぅ!」
アライグマの娘と狸の子を助けに行こうとするナスカくんに向かってクソエルフが声をかける。
「貴方もまだ、動いては駄目よナスカくん」
ムカつく声だ!
「うるせぇ! 黙れ!」
ドガゴオオォォォン! ズダアアァァァン!
「ぐわああぁ!」
「ぎひぃいいん!」
ユールとグルニの2体など眼中に無かったのだろう。ナスカくんは無人の野を駆けるが如くユールとグルニを殴り倒してアライグマの娘と狸の子の下へと向かった。
やはりナスカくんは仲間思いの優しい子だ。大丈夫、その2頭は間に合う筈だ。
気持ちはわかるが落ち着いて欲しい。今はエレンスィリアを刺激したくない!
「ラスリル! ポンキチ! しっかりするんだ」
「メソ! 二人に治癒魔法だ! 早く!」
「はい!」
治癒魔法が得意なんだろう、狐の娘が2頭の下へと走る。これであの2頭は心配ない筈だ。
仲間を傷付けられたナスカくんの苛立ちが伝わってくる。
これ以上ナスカくんを刺激するのは危険だ!
僕のそんな願いは、又しても仲間に邪魔されてしまう。
「ぎゃひいぃん!」
ヨドンのハルバードが狼くんの身体を斬りつけたのだ。
スヴァディリに跨り騎馬となっていたヨドンと、その騎馬を援護していたトラさんを、狼くんはたった1頭で相手していただが、流石に1頭では捌ききれない。
「タツキィィ!」
「クソッ、わかっておる! マリ、ルルを頼むのだ!」
「任せなさい!」
ナスカくんが叫び、竜人の娘と超人の娘が狼くんの救出に向かう。
仲間達を傷付けられていくナスカくんの悲しみと怒りが増幅していく。
不味い、これ以上ナスカくんを刺激しては。
「エレンスィリアァァァァァ!」
クソ、落ち着いてくれナスカくん。
「何? ナスカくん。そんな大声で呼ばなくても聞こえているわよ」
テメエは黙れよクソエルフ!
「貴様は絶対に許さないぞぉ!」
止めろ! エレンスィリアを刺激するな!
「あら、怖いこと。ナスカくんがあんな事言っているけど、いいの? ランスロード」
いいわけないだろ! それに挑発した口調で話してるのはテメエだろうが!
エレンスィリアのナイフを握る手に力が入る。止めろ! 刺激するな!
ナスカくんがゆっくりと歩きながらエレンスィリアへと近づく。
おい、止めろよ、何をしようとしている。
まさか、エレンスィリアと戦う気か?
おい、待て、止めろって、僕の娘が、マリンちゃんがいるんだぞ!
おい、小僧! それ以上近づくんじゃねえよ!
止まれ小僧! それ以上動くんじゃねぇ!
《全員んん、その場をぉぉ、動くなあぁぁ!》
俺の腹の底からの大声が平原中に鳴り響いた。
その余りの大音量は、平原でありながらやまびこを生じさせたかのようなエコーがかかっていた。
そしてその大音量は衝撃波のように、その場にいた全ての者を襲い、全ての者の動きを停止させたのだ。
仲間を傷付けられたお前の怒りはわかる。
だからといって、お前が今やろうとしていた事を許すわけにはいかない。
お前がやろうとしていた事の先には僕の娘が、マリンちゃんが傷付く結果が待っていた。
たとえ誰にどんな理由があろうとも、マリンちゃんに擦り傷一つ付ける事も許されないんだよ、小僧が!
[転生5回目・・・]との完全リンク2話目です。
この2話分は、先に[能力はチート・・・]の部分の大まかな文面や全体像を考えながら[転生5回目・・・]の話しを書き上げて、その全文をコピーしてからセリフや効果音の部分を残して、他の部分を書き直すという手法で書き上げました。
次回は2作品分を同時進行で書き上げてみたいと思っています。
新連載[ユーウィル!]の出足が不調です。
読んで頂ければ、楽しんでもらえる自信はあるのですが、ページを開けてもらえないっす。
是非一度読んでみて下さい。
↓
https://ncode.syosetu.com/n3451ge/
☆
【作者からのお願いです】
読者様からの反応を何よりの励みとしています。
ポイント評価、ブクマ登録、感想、レビュー、誤字報告を頂けますと、創作意欲のより一層の向上に繋がります。
お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。
連載中の[不幸続きで転生5回目・・・]です。
この小説とリンクする作品となります。
↓
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互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。




