42・巨大な騎馬って強そうで嫌だな
アルス山脈の中央部に聳える2つの山峰、アルガーとユンゲフロウ。その山々を治める2体の首領とオーガストラ、ギガースゾーンとの2対2の一騎討ちは互角だった。
だが、そこへ乱入してきた2頭の魔獣、8本の脚を持つ巨馬スレイプニルの存在が、戦いを新たな局面へと変化させることとなるのだ。
「乱入するとは汚ねぇぞ、テメエら」
「おう、その通りだ、一騎討ちを穢す気か!」
2対2の一騎討ちを遠巻きに見守っていたオーガとギガース達が一斉に騒ぎ始めた。
それはそうだろう、他の局面では勝利を収め、全員で戦えばヴァンレイン亜人国の完全勝利は間違いなかった筈なのだから。参戦せずに敢えて一騎討ちを見守ったのは、単衣にオーガとギガース達の戦闘種族としての誇りに他ならない。
一騎討ちは穢されてしまったが、乱入してきたのは2頭のスレイプニルのみ、残敵は4体の魔物だけ。ヴァンレイン亜人国の勝利に疑いはない。
オーガやギガース達も参戦の意思を固めた。一騎討ちを穢した者共を殲滅せんと迫る。
「止まれ! 来んじゃねえぞテメエら!」
「そうやな、あんたら出番ちゃうわ、邪魔せんとき!」
ギガースゾーンとオーガストラが大声を上げて味方の参戦を拒む。
「何故っすか姐さん、先に乱入してきたのは奴らの方ですぜ!」
「黙れバカどもが、テメエらの目は節穴か! 奴らの姿をよく見てみろや!」
ギガースゾーンが己の部下を叱責する。その間も両の目は2体の首領の姿を捉えて離さなかった。
全身を燃えるような真っ赤な毛に包まれた牡馬の背に跨った雄の首領が、牡馬が携えてきたハルバードを掲げる。
雌の首領もまた白銀に光り輝く真っ白な毛に包まれた牝馬の背に跨り、牝馬が携えてきた方天戟を構えた。
それぞれのベルグレシとスレイプニルはしっくりとした一体感を魅せており、まるで2体を合わせて1体の魔物であるかのような錯覚に陥られる。
「これが奴らの本来の姿なんやろ、なら認めるしかないやろなぁ、一騎討ちの邪魔や、退がっときや」
オーガストラの言葉に、出かかっていたヴァンレイン亜人国の戦士達の足が一斉に止まった。
「よかとか? 非は先に乱入したおいどん達にありもす」
「ああ、遠慮することはない、全員でかかってくるが良かろう。俺達に文句を言う権利はない」
「ああん、舐めてんじゃね〜ぞテメエら、一騎討ちで始めた喧嘩だぜ!」
「そうやね、最後までわてら二人で相手したる。二人で充分やしね」
「おらたつには助かるけんどもよ、本当にそれでよかっべかね〜?」
「良いって言ってんだから良いんじゃないの、どの道この戦争自体は私達の負けでしょうから、お言葉に甘えて意地だけは見せてあげましょうよ」
言葉を交えた直後から、ギガースゾーンとオーガストラが再び構える。
「んじゃ改めていくぜ! 戦闘狂の馬鹿女!」
「わての足を引っ張んなや、筋肉女!」
ヴァンレイン亜人国側が先に動く形で、変則一騎討ちの第2ラウンドが開始された。
☆
第2ラウンド開始から10分。早くもギガースゾーンの顔面は赤く染まっていた。
ブウゥゥーーン、ガシッ、ドッゴオオォォン
雄の首領が7メートルもあろうかというハルバードを横一文字に振るう。
その攻撃に対して、敢えて真っ直ぐに突っ込み、その長い柄を掴んで、ギガースゾーンがハルバードを止めた。
直後、真っ赤な牡馬が4本の後ろ脚で立ち上がり、4本の前脚でギガースゾーンを蹴り飛ばす。
ドガアオオォン
「ぐはあっ」
蹴り飛ばされたギガースゾーンは、岩山に背中から激突した。
岩山を背に蹲ったギガースゾーンに真っ赤な牡馬が迫る。速い!
ドシュッ
8本の脚で疾風のように駆ける赤い砲弾の突進を、斜め横に身体ごと飛んで回避したギガースゾーンは、騎馬の左斜め後ろに回り込もうと移動する。
ドンッ
「がはっ!」
低い体勢で移動するギガースゾーンを、馬上の雄の首領がハルバードの石突きで上から突き下ろす。左肩に突きを受けたギガースゾーンが苦悶の表情を浮かべる。
ドガアオオォン、ドッゴオオォォン
「ぐふぉおぉぉっ!」
真っ赤な牡馬の追撃の蹴りを受けて飛ばされたギガースゾーンは、またしても岩山に叩きつけられてしまった。
白銀の牝馬が連続して繰り出す蹴り攻撃を、ジャンプを繰り返して空中戦で対処するオーガストラ。
空中から馬上の雌の首領へと蹴りを繰り出すが、方天戟の柄で悉く防がれてしまう。
ビシッ、ピシュッ
空中からの蹴りを捌きながら、方天戟を駆使して時折攻撃を繰り出す雌の首領。
身動きのとりづらい空中で身体を捻り、どうにか致命傷だけは回避するが、浅く斬り付けられていくオーガストラ。
トン、シュッ、ドッゴオオォォン
「ごふぉっ!」
雌の首領の攻撃の一つを見極め、方天戟の柄を蹴って身体を捻ったオーガストラが、バク宙するようにして雌の首領へと回し蹴りを蹴り落とそうとした。
その時白馬が8本の脚で勢いよく地面を蹴って跳ね上がり、オーガストラの鳩尾へと頭突きを築き上げた。
ドゴオオン、ドガアオオォン
「げはあぁっ!」
距離の近くなったオーガストラへ、雌の首領は右拳を振るった。
その拳を顔面に深く叩き込まれ、殴り飛ばされたオーガストラは、そのまま岩山へと叩きつけられた。
☆
「し、信じられん、あの姐さん達が一方的に」
ギガースとオーガ達が驚愕の表情を浮かべる。その表情の中には絶望という感情も垣間見えていた。
戦いの時は更に20分が経過した。
騎馬となった2体のベルグレシの戦い方は、単体だった時のものとは一変していた。
防戦一方となったギガースゾーンとオーガストラだが、かろうじて致命傷だけは避けている。しかし敗北は時間の問題となっていた。
「もう止めもはんか? 戦争はおい達の負けでごわす。この一騎討ちでおい達は意地を見せることも出来もした。もう充分でごわんど」
「馬鹿言うんじゃないよ。あたいはランスロード様の部下として負けるわけにはいかないんだ、最後までやらせてもらうよ」
「しかしでごわす」
「それ以上言うな! コイツの意思は固い、最後まで戦い続けることこそが俺達の責務だ!」
真紅の牡馬の言葉に雄の首領は、出かかっていた言葉を飲み込む。覗き込んだギガースゾーンの眼から放たれる確固たる意志を確認した。
「わかりもした。この一騎討ちの後、おはんらの部下達は?」
「退かせる。コイツらはあたい達の部下じゃない。ランスロード様の兵達だ。あたい達の勝手で失うわけにはいかない」
「いいなテメエら! もしあたいらが負けたら一旦退いてゴブルザーク達の指示に従え。この場にて死ぬことは許さんぞ!」
「「「わかりました!」」」
ギガース達と共にオーガ達も了承の意を示す。
「ふん、決着はわてが先につけたるわ!」
ギガースゾーンの隣の戦場で激闘を繰り広げていたオーガストラが駆け出してジャンプする。
「良いでしょう、こちらも決着をつけましょうか」
応じるように地面を蹴った白銀の牝馬が大空へと飛翔した。その高さはオーガストラの高さを遥かに上回っている。
上空で交錯すると思われたオーガストラと白銀の牝馬だが、オーガストラの進む先にズレが生じている。オーガストラの目標地点は小高い岩山の頂上であった。
「うりゃあああぁぁ!」
岩山を蹴って、オーガストラは更に高く飛翔した。白銀の牝馬よりも更に高く。
ズドオオン!
「がふっ!」
高い位置から白銀の牝馬の頭部へとオーガストラの回し蹴りが炸裂した。脳を揺らされて白銀の牝馬の意識が一瞬飛ぶ。
「これでしまいやあ〜!」
「貰ったっぺよ〜!」
続け様にオーガストラの渾身の右拳が、雌の首領へと放たれる。
雌の首領は方天戟による突きで迎え撃つ。
牝馬へと繰り出した回し蹴りの分、オーガストラには隙があった。
間合いの有利もあり、雌の首領の方天戟の刃は確実にオーガストラを捉える。
バギィイイイィィン!
オーガストラの目の前で突然方天戟の刃が砕けた。オーガストラを捉えた筈の方天戟は粉々に砕け散ってしまった。
「水さしてごめんね。でもさ、君らが殺られちゃうと僕が嫁さんに怒られちゃうからさ」
大空に蝙蝠の様な翼を広げて、一人の吸血鬼が浮かんでいる。
オーガストラをお姫様抱っこで抱えている吸血鬼は、嫌そうな、面倒くさそうな顔で口を開いた。
「悪いんだけどさ、こっからは僕がやるよ。嫌だけど」
ランスロードは心底嫌そうな顔で、自らの参戦の意思を告げた。
う〜ん、まさか今話でも決着がつかないとは考えもしませんでした。
ギガースゾーンやオーガストラの戦闘が書いててこんなに楽しいと思ってなかったので、というか、強力な馬に乗る騎馬での戦闘を初めて書いたのですが、これも楽しかったので、まあ仕方ないかな。
でもまあ、次回はランスロードによる戦闘なんで、部下達の主役回は一応終わったって事で納得して下さいね。
28日の作者誕生日スペシャルの詳細がまだ決まりません。というか執筆が中々進まないっす。
明日、27日には投稿済みの活動報告に詳細を追加しますので、良かったら覗いてみて下さい。
☆
【作者からのお願いです】
読者様からの反応を何よりの励みとしています。
ポイント評価、ブクマ登録、感想、レビュー、誤字報告を頂けますと、創作意欲のより一層の向上に繋がります。
お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。
連載中の[不幸続きで転生5回目・・・]です。
この小説とリンクする作品となります。
↓
https://ncode.syosetu.com/n7763fx/
互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。




