41・2体2の一騎討ち
アルス山脈中央部の魔物達との戦いが始まった。
あたいの相手は5メートル近い巨体を誇る怪物。ベルグレシ族2体の首領の内の1体だ。
あたいの目の前を巨岩のような拳が唸るように吹き抜けていく。反撃に繋がるように最小限の動きで躱したものの、巨岩が巻き起こした猛烈な風圧により、3メートルもあるあたいの身体がバランスを崩しかけてしまう。
あたいは土台となる下半身に力を込めて体制を強化し、反撃の拳を叩き込む。
ゴン
脇腹を狙ったあたいの右拳は、大木のような腕に阻まれて鈍い音を上げた。大木というより硬い岩盤を叩いたような衝撃が拳から伝わり僅かに眉根を寄せる。
あたいは巨人、いや大巨人の右側面に廻り、城壁のような背中に向かって二撃目となる左拳を振り放つ。
城壁はあたいの目の前から忽然と消えた。視界の左端に違和感を感じてゆっくりと首を回すと、少し離れた岩山の上にその大巨人は立っていた。
5メートル近い巨体とは思えぬ程の俊敏な動き。あたいらギガース族を上回る強靭な肉体を持つベルグレシ族。その内でも一段上の能力を持つであろう首領の力は、あたいの予想を超えていた。
まあ、でも想定は超えていないな。決して敵わない相手ではない。
「ほへ〜、小さいのにやるもんだべ。びっくらしただなや。おめ〜なんてんだっぺか?」
小さいって・・・。初めて言われたな、この野郎。
「人に名前を聞くのなら、先ずは自分から名乗るべきでしょうよ。礼儀がなってねえな、あんた」
「はれま、名前、まあそらそんだろうけどもよ。おら達には名前なんてねえずらよ。種族さ聞いたつもりんだったんずらよ。おら〜ベルグレシってんだわ」
コイツ、こんなに強くてネームドじゃねえのかよ全く。
「あたいの名はギガースゾーン。ランスロード様頂いた名だよ。種族はグレートギガースさ。あんたはユンゲフロウのアルガーを支配している2体の首領ってやつの1体かい?」
「んだ、おらはアルガーの方さ治めてるっぺよ。んでな、ユンゲフロウの方さ治めてる幼馴染ん雄が、この辺の山さ全部仕切るべ言うてな、おらも出てきたっぺよ」
グィネ様に聞いていた2体の首領は雄と雌が1体づつ。そしてコイツがその雌の方ってわけだ。
山岳地帯に暮らしているだけあって非常に引き締まった良い身体をしている。あたいもプロポーションには自信があるけど、コイツはあたい以上だな。まあ、胸はあたいの方がデカイけど、戦闘には関係ない、寧ろ邪魔だし、あたいよりも戦闘に特化した身体と言えるだろうな。
「んでよ、おめえさんも随分と強いからよ、おら達と一緒に山さ治めねか?」
「あたいはランスロード様の命令で、テメエらをブチのめしに来てんだ。馬鹿言ってんじゃねぇよ、タコ」
「そか〜、残念だけんど仕方なかっぺよ〜、んだばわりけんど退いてもらうっぺよ〜」
「おう、退かしてみろや、こら」
再び両者の距離が縮った。両者同時に繰り出した右拳が、両者の中間で激突する。
ドッゴオオォォン!
空間が弾けるほどの衝撃音が辺りに響き木霊する。その音を合図として巨人と大巨人の戦闘は激しさを増していった。
☆(2時間後)
ズドオオォォン!
ギャシャアアァァン!
バガアアァァン!
ドッゴオオォォ!
既に大方の戦闘は終了していた。結果的にはヴァンレイン亜人国軍の圧勝である。
しかしながら、未だ辺りに衝撃音を響かせている戦いが2カ所だけ、いや、1カ所だけ続いている。
ギガゾーンVS雌の首領、オーガストラVS雄の首領の戦いは、いつの間にかギガゾーン・オーガストラVS2体の首領という2対2の戦いへと変わりつつ続いていた。
2対2という異例の一騎討ち、その光景を既に戦いを終えたオーガとギガース達が見つめていた。
戦闘種族としての誇りがその戦いの邪魔をしてはいけないと、ただ黙って見つめている。
「はあ、はあ、ちょっと筋肉女、はあ、はあ、あんたはん弱くなったんとちゃう、はあ、はあ、わての足を引っ張らんといて」
「ぜえ、ぜえ、んだとテメエ、ぜえ、ぜえ、テメエがあたいの足を引っ張ってんだろがよ」
「はあ、はあ、驚いたなや、はあ、はあ、おら達相手にここまでやれっぺか」
「ぜえ、ぜえ、ほんに驚きもした。ぜえ、ぜえ、こんなにこんまいのが、ぜえ、ぜえ、大したもんす」
4体とも既にダメージ、体力共に限界に近い、それでも休むことなく激突を繰り返していく。
「おいどんが突っ込みもす。援護をお願いしもす」
「任せっぺよ!」
「どきな、トラ。そのデカブツはあたいが止める、あんたは邪魔だよ」
「ふん、精々大木同士でじゃれ合ってなはれ、後ろの田舎者はわてが遊んでやりますよってな」
ガッギシイイィィィィ
雌の首領よりも更にデカイ5メールを超える巨体を誇る雄の首領の突進を、ギガースゾーンが体ごとぶつかって食い止める。そのまま両手が組み合う形となり、両者が力比べを始める。
「ふんぬうぅぅぅぅ!」
「うおりゃあぁぁぁぁ!」
両者の膂力は互角。だが体格で勝る雄の首領が上から体重を乗せて潰しにかかる、ギガースゾーンの背中が徐々に反り始め、全てを支え続ける背骨が悲鳴をあげる。
「てはああぁぁぁぁ!」
雌の首領が組み合う2対を回り込み、岩場とは思えぬ移動速度でギガースゾーンの背後を襲う。
「あんたの相手はわてやろがあぁぁ!」
ゴズウゥゥゥン
その移動速度をも上回る速さで、オーガストラが空に舞う。5メートル近い高さの雌の首領の顔面に、回し蹴りが直撃する。
ガッ
「へいりゃあぁぁぁ!」
頬深く叩き込まれた右足を、雌の首領は平然と掴み取る、そして強引にオーガストラを地面へと叩きつける。
「舐めるなあぁぁ!」
グルグル、ドガドガアァァァン!
掴まれた右足を軸にオーガストラは回転し、残った左足の踵が再び雌の首領の顔面を捉える。
その衝撃で雌の首領は吹っ飛ばされるが、オーガストラも同時に地面へと叩きつけられた。
「がはあっ!」
「ごふあっ!」
「ぬうりゃああぁぁぁ!」
ギガースゾーンが両手を組み合ったままの雄の首領の胸の下に頭を差し入れる。そのまま反り返り、雄の首領を自らの後方へと投げ飛ばした。
ドスウウゥゥゥン
「ぬぐううっ!」
重量級の2体の衝撃で地面が割れ、雄の首領は呻き声を上げる。
上手く体制を入れ替えたギガースゾーンが、雄の首領の腹の上に跨り、絶好の機会を得た。
「貰ったああぁぁぁ!」
ギガースゾーンが両手で組んだ拳を大きく振り上げる。
ババガラ、ババカラ、ババガラ、ドゴオオン! ゴドン、ガゴン
「ぐはっ、な、なんだ?」
ギガースゾーンは突然飛び込んで来た、赤い砲弾の如き巨大な何かに吹っ飛ばされ地面を転がった。
「死ねやあぁぁ!」
先に立ち上がったオーガストラが、未だ倒れたままの雌の首領へと襲いかかる。全ての力を込めたオーガストラの右拳が、体制の整わない雌の首領の顔面へと急速に迫る。
ババガラ、ババカラ、ババガラ、ドゴオオン! ガゴオオン!
「げはあぁっ、な、何や?」
突然飛び込んで来た白き巨大な砲弾は、オーガストラを岩山へと吹き飛ばした。
「何をしているお前達、この様は何だ!」
「まあまあ、でもまあ間に合って良かったでしょ」
赤い砲弾は雄の首領、白い砲弾は雌の首領の下へとそれぞれに駆け寄っていた。
2頭の砲弾は、赤と白の見事な毛並みを靡かせて、悠然と立っていた。
スレイプニル。8本の脚を持つ巨大な馬。雄々しく立つその姿は、美しい芸術作品の様だった。
今話で決着する予定だったのですが終わりませんでした。もう一話、お付き合いください。
☆
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連載中の[不幸続きで転生5回目・・・]です。
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互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。
 




