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39・エレンスィリアって性格悪くて嫌だな

 国のとしての体裁を整える為に急造した迎賓館だったが、改装され、今では見た目だけでなく内部も立派な建物となっている。その迎賓館の2階にある来客用の応接室は、不穏な空気に包まれていた。


 絶世の美女と言って過言ではない二人の女性が向かい合う形で座っている。

 こう表現してしまうと不穏な空気とは無縁な状況に感じてしまうのだけれど、その女性達は一言も発する事無く、一人は鋭い視線で相手を睨みつけ、一人は不敵な笑みを浮かべながら視線を合わせようとしない。この状態のまま、既に20分の時が経過していた。


 相手を睨み続けている女性は、かつて【麗美なる吸血姫】と呼ばれた僕の奥さん、ヴィア=ヴァンレイン。

 視線を逸らし続けている女性は、奥さんが【黒怒竜】ニーズヘイルに仕えていた頃の同僚で、現在は大陸中央部の北側を治めるエルフの国エルファリアの王【エルフ女王】エレンスィリアである。


 何の事前連絡もなしに突然ヴァンレイン亜人国へとやって来たエレンスィリアを、とりあえず応接室へと案内し、かつての同僚である奥さんが対応に出たのだが、お互いに挨拶すら交わさないまま着席してのこの状況である。


 奥さんに同席させられた僕は、もうこの状況に耐えられない。嫌だなぁ、勘弁してよ〜。


「え、え〜とさ、あの、ふ、二人とも久しぶりで」


「何しに来たのよ性悪女。用があるのならさっさと言いなさい」


 おわあっ! ヴィアさんてば、話し始めた僕の言葉を遮ってまでの第一声がそれですか!


「用があるから来たに決まっているでしょう。貴女も相変わらずせっかちな方ですわね。それに言葉も乱暴ですし、お里が知れましてよ」


 エレンスィリアさんも、言葉使いは丁寧だけど棘があるんだよなぁ、昔から。


「お里は魔界よ、悪かったわね、まあ性悪よりはマシだと思うわよ。そんな事よりさっさと用件を言ったらどうなの、あたし達も今はちょっと忙しいのよ」

「あんたの相手をしている無駄な時間なんてないの」


「わたくしも性悪は自覚してましてよ、わたくしの得意な魔法術式は精神操作系ですからね。忙しいってあれでしょ、アルス山脈で魔物の群れが暴れてるってやつでしょ、何なら、森の静謐な空気の中で生まれ育った上品なわたくし達エルフが力を貸してあげても良くってよ」


「余計なお世話よ、いいから本題に入れって言ってんのよ。何、あんた、耳が遠くなったの? その無駄に長い耳は飾りか?」


「なら本題に入りましょうか。貴女の無駄に多い血液が、充血して紅くなり過ぎた瞳から流れ出してしまう前に」


 何で二人とも喧嘩口調から始めないと話しが始められないのかな? 300年前も、この二人の会話はこんな感じだったもんな。

 ただ、不思議なことに、この二人って仲悪くはないんだよな、寧ろ仲が良かったと記憶している。


「用件と言っても今すぐにって訳じゃなくてよ。今回来たのは挨拶、来たる時に備えての顔見せと思って貰えればいいわ」


「前置きが長いのよ、さっさと本題に入りなさいよ」


「ランスロードにも聞いておいて欲しいのだけど、宜しいかしら?」


「え、ああ、僕も一緒に聞」


「旦那にはあたしから伝えるから気にしないでいいわ、さっさと始めなさい」


 ヴィアさ〜ん、目の前に居る僕を完全無視しないで〜。


「ニーズヘイル様が南の大陸において復活なさったのは貴女も知っているでしょう。他の大魔王達と違い竜族であるニーズヘイル様は、完全覚醒までにはまだ暫くの時間を要しますわ。そして完全覚醒が成された暁には、ニーズヘイル様をわたくしのエルファリアにお迎えしたいと考えておりますの」

「ヴィアとランスロードには、わたくしがニーズヘイル様をお迎えするおりに、力を貸して欲しいんですの。どうかしら?」


「ああ、つまりはその時にちょっかいを出してくるであろう、女性蔑視の男尊女卑脳筋馬鹿獅子のライオルと対抗する為の力になれって事ね」


「そういうことですわ。あの下品な野蛮獣人も、生意気にも自分の国にニーズヘイル様をお迎えしようと企んでいますわ。あんな獣臭い国にニーズヘイル様を行かせる訳にはいきませんのでね」


 同じ昔の同僚なのに酷い言われようだなぁライオル。僕からするとライオルの言動は裏表のないハッキリしたもので、嫌悪感なんて微塵も感じないんだけど、女性からするとライオルってそう見えるのかな。


【獅子王】ライオルとは、僕の奥さんやエレンスィリアと同じく【黒怒竜】ニーズヘイルの幹部だった獅子の獣人だ。


 300年前、【勇者】カイザーのパーティーは、四大魔王最後の一体となったニーズヘイルを討伐後、ニーズヘイルの部下達への追撃は行わなかった。

 カイザーとルフェイは、最後の戦いの後に行方不明となった僕を探すと主張したモルドを説得して、三人共真っ直ぐにスペルレイン王国へと帰国したのだ。

 僕とヴィアはアルス山脈南端の洞窟へ移り住んだ。

 大陸の中央部を支配していたニーズヘイルの残党は、その後に二つの勢力に分かれる事となる。

 一つが大陸中央部の北側に位置する広大な森、エルフの森を支配するエルファリアであり、その頂点に君臨したのが【エルフ女王】エレンスィリア。

 もう一つが獣人を中心に魔物達も配下に加え、大陸中央部の南側に広がる平野と砂漠を支配した、【獅子王】ライオルが国王に君臨する国、サバルナ獣人国である。


 この300年間、エルファリアとサバルナ獣人国は度々争いを繰り返してきた犬猿の仲であり、要するに今回エレンスィリアが奥さんに持ちかけてきたのは、復活したニーズヘイルを自分達の国の方へと迎え入れたいから協力してくれって事だね。


 内輪揉めであり、正直言って僕は関わり合いたくない問題だ。面倒くさいし。たぶん奥さんも断るんじゃないかな。


「いいわよ、協力するわ。そのかわり、あんたにもあたし達の国の為に便宜を図ってもらう事になるけどね」


 え、マジで! 断んないんだ!


「エルファリアとサバルナとは、あたし達の国と国境を接している以上、どちらかとは手を組む必要があるからね。消去法だけどライオルよりはあんたと組んだ方がやりやすいわ」


 そんなにも嫌いなんだライオル。


「理由はどうあれ、助かりますわ。まだまだ先になるでしょうけど、その時が来たらわたくしから連絡を差し上げますわ」


 うわ〜、大陸中央のゴタゴタに巻き込まれるのかぁ、嫌な予感しかしないよ。





「ヴィアさん、あんな事を約束しちゃって良かったの?」


 そろそろグィネさんのところにトラさん達からの報告が入る時間なので、僕と奥さんは嫁さんの執務室へと連れ立って向かっている。その途中で僕は奥さんに質問した。


「いずれ関わる事になる問題だってわかっていたから、事前にグィネと方針は定めておいたのよ。予定通りだから心配はいらないわよ」


 そうだったんだ。僕はやっぱり蚊帳の外なんだなあ、まあいいけど。


「ところでさ、一つ疑問なんだけど、エレンスィリアもライオルもニーズヘイルの完全覚醒まで待っているのは何でなの? 別に覚醒前に自分の国へ連れて来たっていいと思うんだけど」


「大神ポドセインと関わりたくないからでしょうね。海の大神であるポドセインの影響を受けている唯一の陸が南の大陸なのよ。ポドセインは300年前、いや、それよりも以前から、ニーズヘイル様を自分の陣営に引き込む様に画策していたと聞いているわ。大陸中央部を支配していたニーズヘイル様が南の大陸で復活されたのも、おそらくはポドセインの仕業よ」


「ポドセインの陣営ってどういうこと? ポドセインってゼースの陣営じゃないの?」


「表向きはね。ゼースに対抗している神は、冥界神であるバルデスだけって事になっているけど、海神ポドルセインも相当な野心家だとニーズヘイル様に聞いた事があるわ」


「ふ〜ん、なんか大変なんだね、天界も」


 僕達がそんなゴタゴタに巻き込まれなければ、正直どうでもいいんだけどね。

 何でみんなそんな面倒な事をしたがるのかねぇ、僕には理解出来ないなあ。



 そんな事を考えている間に、グィネさんの執務室へと到着した。


「グィネ、オーガストラから連絡はあったの?」


「ありましたわ奥様。作戦内容を聞き、問題ないと判断したのでわたくしの方で承認しておきました。但し、わたくしの見立て通りに進んだ場合、旦那様にもやって頂かなければならない事がありますわ」


 え、僕が? 何か嫌な予感が。


 僕は嫁さんから詳しく話しを聞いた。結局はそういう事になるのか。

 嫌だなぁ、面倒くさいなぁ。

 大陸西部が安定してきて、いよいよ中央部の話しが出始めました。[転生5回目・・・]とのリンクも間近に迫ってきましたね。







 【作者からのお願いです】


 読者様からの反応を何よりの励みとしています。

 ポイント評価、ブクマ登録、感想、レビュー、誤字報告を頂けますと、創作意欲のより一層の向上に繋がります。

 お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。




 連載中の[不幸続きで転生5回目・・・]です。

 この小説とリンクする作品となります。

 ↓

 https://ncode.syosetu.com/n7763fx/



 互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。

 こちらもよろしくお願いします。


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