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クイーン・カンナpart2

 なぜかは全く解らない。解らないが、どうやら自分はキッコに嵌められたらしい。


 一人きりでクイーンの寝室に放り込まれたアキラは、ギギギ……と身体を強張らせてクイーンに向き直る。


 深紅のドレスに純白のブーツ、頭の後ろへ綺麗に結い上げたピンク色の髪の上で輝く、クイーンの象徴――宝石を散りばめた銀のティアラ。


 紛うことなき、『セクシークイーン・ハートフルメロディーコーデ』を纏う女性――クイーン・カンナと、アキラは対峙する。


「え、ええと、あの……」


部屋の中は黒いカーテンが閉めきられ、明かりは燭台の火だけで、かなり薄暗い。


 天蓋つきのベッドや、金色の細工が施されたテーブルや、背もたれの広いイス、真っ赤な壁、そこに掛けられたプリンセスの肖像画は女王の部屋にふさわしく豪奢だったが、薄暗い中で見るそれらには不気味さの影がある。


 カンナは暗がりの中から、ギラギラと光る目でこちらを睨み、


「……そう。やはりここへ来ましたのね。けれど、あなた一人ではここまで来られるはずがありませんわ。協力者は誰です? アヤネさん? それともキッコさん?」

「…………」


 ――キッコさん、どこに行ったんだよ……!


 まさか、逃げたんじゃ……。その思いが頭を掠めるが、そうとは言い切れない。というか、そうではないと信じるしかない。


「まあ、よろしいですわ」


 口を噤むアキラに、カンナは苛立たしげに言う。


「誰が一緒だろうと、全ては無駄。絶対に、この命を懸けてでも、わたくしからプリンセスは奪わせませんわ」

「……ということは、やっぱりあなたの胸からもハートのカケラは抜けていないんですね」

「それが何か? あなたにはなんの関係もありませんわ。さあ、早くここを出ておゆきなさい」

「え……? 私を見逃すんですか?」

「ええ。あなたにとって幸運なことに、ここはわたくしの私室……。わたくしはここで力を使うつもりはありませんわ。ですから、わたくしがここにいるうちに早く城を――いいえ、この国を出て行くことですわね。でなければ、今度こそあなたを死刑に処して差し上げますわよ」


その目に怒りを隠さずに、カンナは言う。


 今の言葉、決して脅しではないだろう。アキラは思わず後ずさりそうになるが、そもそもドアが開かないのだから逃げることはできない。


 どうにかカンナと穏便に交渉がしたい。会話の方向を変えてみる。


「カンナさんは普段も、昼間からずっとこの部屋にいるんですか?」

「そのようなこと、あなたには関係ございませんわ」

「なぜカーテンを全て閉めてるんですか? まだ外は明るいのに。ここは高い場所なんでしょうし、眺めもいいんじゃないですか?」


 ふっ、とカンナは口元を歪めて、


「あんな景色……見てもしょうがないでしょう? 汚いものを見たって、いたずらに心が汚れるだけですわ」

「汚いもの……? じゃあ、あなたはカーテンを閉め切って、この国から目を逸らしてるっていうことですか? この国のクイーンなのに」


 この部屋だけではなく、廊下の窓にも全てカーテン掛けられていたのはそのためか。思わず詰難したアキラを、カンナはキッと強く睨んで、


「わたくしだって努力はしましたわ。でも、結局は何も意味がなかった。もう全ては終わってしまったことなのです。それならば最期の時まで、皆それぞれに好きな世界で生きるのがよいのではなくて?」

「そんな……。いや、例えそうだとしても、クイーンのあなたは――」

「ああああああああっ! うるさい、うるさいっ!」


カンナが金切り声で叫んだ。


「この国で生きてもいない人間に説教なんてされたくありませんわ! いいから早くわたくしの前から消えてっ!」

「それはできません。あなたがプリンセスのハートを渡してくれるまでは」

「……そう」


カンナは目を伏せながら静かに言い、それと同時、ゆらりと燭台の火が一斉に怪しく揺れる。


「わたくしは、あなたにご警告をして差し上げましたのよ? なのに、あなたはそれをお受け取りにならなかった……」


 ガタン! とイスから立ち上がり、鬼のような顔でこちらへ怒鳴る。


「このわたくしがっ! クイーンであるこのわたくしがわざわざ警告をしてあげたのに! あなたはそれを無視した! このわたくしを! 冒涜した!」


 燭台の炎が、その怒りを表すように赤く大きく燃え上がる。


 怖い。だが、怯んではいけない。それに、


 ――もしかして、怯む必要なんてないのかもしれない……。


 そう感じながら、じっとカンナを睨み返す。


 カンナはその髪を掻きむしるように頭を抱え、


「わたくしは何も悪くありませんわ! なのに、なぜわたくしばかりが責められなければなりませんの!? わたくしは何もしていない! 人から責められることなんて、何も! わたくしはただ、プリンセスを誰よりも愛していただけなのにっ!」


燭台の炎がカーテンや壁に燃え移り、プリンセスの肖像画をも呑み込んでいく。だが、カンナの目に最早それらは映っていない。


「絶対に、プリンセスは奪わせませんわ! もう容赦しない……! 神人だろうと……ここで殺すっ!」


 思わず怯んで、動き出しが遅れてしまう。アキラは『水氷宮(ウォータリィ・パレス)』の女子力を発動し、まずは部屋を包み始めた火を消そうと試みる。


 だが、いくら水を放射してもキリがない。炎は水を水蒸気にして跳ね返し、瞬く間に天井まで立ち上る。


 部屋は煙と水蒸気で満たされ、ほとんど何も見えない。何かを喚いているカンナのヒステリーな叫び声を聞きながら、アキラが身を屈めていると、


「……大丈夫、落ち着いて。姿は隠してるけど、ボクは君の傍にいるから」


耳元で、キッコの囁き声がした。それにハッとすると、


「わたくしの部屋をよくも……! 焼け焦げた肉を骨にして灰にして、その灰も残らないくらい燃やし尽くすまで許しませんわ!」


 カンナが叫び、そして窓ガラスの割れる音が響く。


 すると、煙と水蒸気が吸い込まれるように窓の外へと出ていく。


「ふふっ……見つけましたわっ!」


薄くなった煙と水蒸気のヴェールの向こうで、カンナがニタリと口角を吊り上げる。そして、アキラへ向かって火炎を放射する。


「ぐっ――あああああああああああああああああああああああっ!」


 逃げることなどできなかった。アキラの身体は、轟音を立てる炎に包まれる。


 炎に包まれる黒い影となったアキラを、カンナは満面の笑みで見つめる。が、その炎の上から噴き出す白い水蒸気を見て、ハッと息を呑む。もう遅い。


 アキラが自分の身代わりに作った氷像が倒れて砕けるよりも早く、アキラは素早くコーデをチェンジしていた。


 『キュートビショップ・フローズンオーロラコーデ』のワンピースを身につけたまま、それをスカートとして使いながら、『キュートポーン・シューティングスターコーデ』のトップスとブーツを着る。


 着崩しが許されるなら、重ね着だって許されるはず――


 その一瞬の賭けは、見事に成功した。カンナの炎を突き破って氷の枝がカンナへと伸び、その胴体に巻きつく。


 やはり――アキラは予感を確信に変えながら言う。


「カンナさん、あなたは大切なことを忘れています」

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