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クイーン・カンナpart1

アキラとクルミを、キッコがすぐに見つけてくれた。


 既に城の周囲に来ていたらしいキッコは、どうやら時計塔の上からこちらを見つけて、文字通り空から降ってやってきた。事情を説明すると、


「先生はあっちだよ。ついてきて!」


 そうアキラを先導してくれる。すると、確かにその先――城へと入る正門にほど近い路地の中に、チナツはいた。


「チナツさん、クルミが……」


 ああ、とチナツは冷静に頷いて、アキラが背負っていたクルミをその腕に受け取る。


「だが、君は行かねばならない。それは解っているな?」

「はい。私とキッコさんで、必ずプリンセスを復活させます」


 そうしなければ、この国、そしてクルミのことを救うことができない。プリンセスが目覚めさえすれば……間違いなく全てが変わるのだ。


 チナツは硬く頷いて、


「キッコ、勝手なことはしないでアキラと力を合わせるんだぞ」

「解ってるよ、それくらい」


 キッコは顔を背けながら言って、行くよアキラ、と駆け出す。


 アキラは慌ててそれを追うが、


「キッコさん、どこに向かってるんですか?」


 キッコが向かっているのは、せっかく近くにある正門とは異なる方向である。


「こっちに、城の上のほうに繋がる抜け道があるんだよ」

「抜け道? そんなものが……」

「絶対に誰にも言っちゃいけない秘密の道だけどね。でも安心して。ボクがたまに使って点検してるから、道が途中で崩れてるとかそういうことはないよ」

「はあ……。いや、でも、キッコさんの風の女子力を使えば、てっぺんまでひとっ飛びできるんじゃないですか?」

「うーん。できなくはないけど、戦いの前に疲れたくないんだよね。女子力を使うと、体力っていうより心がくたくたになっちゃうから」


 確かに。アキラはそれを実感として知っている。愚問だった。大切な戦いの前だ。可能な限り力は温存しておかなければならない。


 キッコは入り組んだ狭い路地を軽快に走っていきながら、


「それにさ、そんな堂々と突入したら、みんなと戦わなきゃいけなくなるじゃん?」

「みんなって?」

「今、クイーンから、『アキラとクルミを捕まえるように』っていう命令が出てるんだよ。今はどこもかしこもクイーンなんて無視してるような状況だけど、秋組のみんなも、流石に君が城に入ってきたら黙って見てるわけにはいかないよ」

「秋組っていうのは……確か、ナイトの役職者の下にいる……」

「そう、城内の警備はナイトの担当なんだよ」

「なら、キッコさんがみんなに命令をすれば……」

「残念ながら、誰もボクのことを上の人間だなんて認めてないよ」


 キッコはこちらを振り返って寂しく笑う。


「でも、やっぱり仲間同士で戦いたくなんてないでしょ? あっちだって、ボクのことはどうか解らないけど、神人様の君を捕まえたくなんてないだろうし……」

「……そうでしょうか、やっぱりキッコさんとも戦いたくないはずですよ」


 そうかな、と呟いて、キッコはとある家の中に周囲を伺ってから入っていく。


 そこは、もうしばらく誰も住んでいないようなホコリ臭い家である。


 キッコはその片隅にあった、ベッドにしても机にしても使いづらそうな、石のブロックを積み重ねた物の前に立つ。そして、その表面の石板をスライドパズルのように動かし始めた。


すると、やがてガコンと重たい音がして、そのブロック全体が三センチほど沈み込んだ。そしてそれを奥の壁へと押し込むと、それは床の石板と共に三十センチほど壁の中へと入っていく。そして動いた石板の下には、ぽっかりと暗い穴が口を開けている。どうやらこれが抜け道の入り口らしい。


アキラが先にそこへ先に入ると、シュッとマッチを擦る音がして、キッコが階段下に置かれてあった燭台にその火を移す。


「行こう」


 再びキッコを先頭に走り出す。


 抜け道は人がかろうじてすれ違えるほどの幅しかなく、高さも百七十センチほどしかない。だが、今は背が百五十センチほどしかない女の子の身体だから、問題なく走ることができる。


地上と同じように、迷路のように入り組んだ路地を走ることしばし、


「ん……?」


 先の曲がり角に明かりが見えた。


 と思うと――そこからぬっと現れたのは、分厚い鎧を纏った兵士だった。それも、ただの兵士ではない。装甲の合間から赤い炎を噴き出させる、異形の兵士である。


アキラが驚いて足を止めると、キッコも同時に立ち止まる。


「キ、キッコさん、あれ……!」

「クイーンが使う女子力の一つだよ。確か、名前は、えーと……なんだっけ?」

「な、名前はともかく、どうして兵士がこんな所に? まさか、こっちの動きが読まれてるんじゃ……」


 そうだろうね、とキッコはさらりと言って、


「でも、ボクが君とベストフレンズになってることは予想してなかったんじゃないかな」


 先ヘ駆け出し、どしどしと壁のように歩いてきた兵士に向かって、手を伸ばす。


 と、水など全く使っていないにも拘わらず、炎はすぅっと静かに消え去り、空になった鎧がガランガランと虚しく崩れ落ちる。


「今のは……?」

「あれの周りから空気を奪ってやっただけ。あんなの全然ボクの敵じゃない、余裕すぎて溜息が出るね。さあ、行くよ、アキラ」


 そう言ってキッコは再び駆け出し、アキラはそれを追う。


 抜け道を警戒していた炎の兵士たちだったが、キッコの前では単なるおもちゃでしかない。


 数え切れないほど大小の階段を上り、五つ目か六つ目の鎧の上を跳び越えると、その先の壁にパソコンのモニタほどの穴がある。


 キッコはそこに設けられていた木蓋を暖簾のように押して、その穴に滑り込む。


 アキラもそれに続くと、その先は既に城内で、キッコが押し開けたのは廊下に飾られていた一枚の絵画だった。


赤絨毯が敷かれた廊下は、まるで夜のように暗く、しんと静まり返っている。窓という窓はなぜか真っ黒なカーテンで遮られ、燭台の全てに火が灯されているのだった。


その廊下を右手へと進んだ所で、おい、と誰かが背後で叫んだ。振り返ると、そこには長槍を携えた、ナイトコーデの女性が立っている。女性はすぐに警笛を吹き鳴らす。


「あー……これは、ここで相手をしなきゃダメッぽそうだね」


 そう言って、キッコはこちらへと走ってきている自身の部下へと向かい始めるが、


「待ってください」


 アキラはそれを止めて、


「希望のカードよ。プリンセスの名の下に――内なる力を解き放て」


呪文を詠唱。コーデを『キュートビショップ・フローズンオーロラコーデ』へチェンジする。


 そして、両手を前へ突き出して――イメージする。


 廊下の壁一面を塞ぐ、厚い氷の壁を。


 すると、そのイメージが具現化する。


 掌の前の空間に、どこからともなく水の渦が生じ、それが氷へと変わりながら巨大化し――やがて一面の分厚い壁となる。『水氷宮(ウォータリィ・パレス)』の女子力が、厚さ一メール以上もあろうかという氷の壁を、そこに出現させたのだった。


 『風の(ウィンディ・ハンズ)』の練習は無駄ではなかった。女子力を出力し、それを形にする技術はどのコーデにも応用できる。アキラはそれを実感しながら、


「行きましょう、キッコさん」

「う、うん。やっぱり……アキラは神人様なんだね。色んな女子力を使いこなすなんて、普通できることじゃないよ。それも『水氷宮(ウォータリィ・パレス)』なんていう力を……」

「そうなんですか?」

「そうだよ。……うん、これなら大丈夫かも……」


キッコが何やらぶつぶつと呟いている。


 それを怪訝に思いながら廊下を再び進み、丁字路を右へと折れる。すると、その先に五段ほどの階段があって、その上に両開きの扉がある。


「ここが……?」


そう、とキッコは階段を上りながら頷き、


「アキラが先に入って。アキラの死角になる背後はボクが守るから」

「……解りました」


 アキラはゴクリと生唾を飲む。蛇のようにうねるドアノブに手を掛けると、


「クイーンは、今でも穏やかな部分が残ってなくもないけど、怒るとプッツンする部分は昔以上になってるから、何か話す時は充分に注意して」


 それはもう既に会ったから知っている。アキラは頷いて、そして――扉を押し開いて中へ入る。


「誰!?」


奥の窓辺でイスに座っていたクイーンが叫ぶ。


 と、それとほぼ同時、ガチャリと背後で不穏な音。


「えっ」


 驚いて振り返ると、なぜかドアが締まっている。そしてナイトがいない。ドアを開けようとしても、ドアノブは回るがドアは壁のように動かない。


 なぜかは全く解らない。解らないが、どうやら自分はキッコに嵌められたらしい。

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